悪魔の手(石田雨竜)

『「神の手」を持つ者』。
これは、石田竜弦・・・僕の父親でもある男の、医者としての呼び名だ。
死の線上にいる患者たちを、外科としての技術で生の領域へと引き戻す。
・・・と言われている。

・・・・何が神の手だ・・。

悪魔め・・・。

僕の師でもあり、お祖父さんでもあった宗弦先生が亡くなったとき・・・。

あの男は先生の遺体に対してこう言った。

「・・・死神などに関わるから、こういう風になったんですよ、父さん。
・・馬鹿な人だ。大人しくしていれば、もう少し長生きできたのに。」

もう一度言っておこう。
・・先生は僕のお祖父さんでもある。
つまりは、この男にとっては、先生は実の父親だ。

その死に対して、顔色一つ変えずに言う台詞がこれなのか?!!!

悪魔だ・・・。

僕はこの男に対して心の底から、そう思った。

竜弦が僕がクインシーの修行をしていることに、不快感を持っていることは知っていた。
「金にならないから。」
それが理由だ。
「死んだ者を救うより、生きている者を救った方が、余程世の中のためになる。」
こうも言っていた。

・・・確かに、生きている人を救うことは大事だ。
しかし、死んだ人たちの魂を救うことも同じように大事なんじゃないのか?

死んだ人たちの魂を、こうも冷酷に切り捨てることが出来る男。

・・・やはりこの男は悪魔なのだ。

僕は先生の死以降、この男から一刻も早く離れることを決意した。
こんな男と・・・同じ家でいるというだけで、吐き気がしたからだ。

学年トップの座を取るということを条件にして、高校から僕は一人暮らしを始めた。

静かな生活。
ここではそれまで、あの男にはひた隠しにしていた趣味の裁縫も思う存分出来る。

生活費の問題はあるが、もうあの男の手を借りることは無い。

・・・そう思っていた。

しかし・・・僕は今・・・この男の手を・・借りようとしている。

僕は、あることがきっかけで、クインシーとしての能力を失った。
かけがえのない仲間を得た代償なのかもしれない・・・。

だが・・・戦いは続く。

僕だけが戦えない・・・。

あの男は言った。
「今後一切死神に関わらない様、誓え。ならばお前の能力を戻してやる。」

能力を取り戻すことが出来る!!
しかし・・そのためには・・・・黒崎とはもう関われない・・・。


何を悩む必要がある?!!
僕は死神を憎んでいたはずだ。
黒崎はその死神だ。
死神と関わらないという条件の何処に問題がある・・・?!!

何故、僕はこんなにも悩んでいる・・・?!!

思い浮かぶのは、共に命を懸けて戦った日々だ。

井上さんも、茶渡君も・・・そして黒崎も・・・僕を信頼してくれていた、あの戦いの日々・・・。

・・・目を閉じた瞼に自然と力が入る。
どれくらいそうしていたのか、握り締めた拳は手に詰めが食い込み、血が出ていた。

決断しなければ。

これからの僕の進む道を。

目を開く。
そして立ち上がる。

心は決まった。

僕は・・・僕は、あの男の・・あの悪魔の手を取る!!

なぜなら・・・なぜなら僕はクインシーだからだ・・!!
クインシーの誇りにかけて・・僕は能力を取り戻す!!!


・・頭の中のあの映像を封印する。

・・・そう・・僕は・・・クインシーなんだ・・。

なんちゃって。





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