アニメ132話のいじり(日番谷冬獅郎)

『・・どっかで見たことのある風景だな・・。』

奇妙な既視感。何所か懐かしくて心が休まる。

・・それが何なのか・・・俺は考えたことはなかった。
・・黒崎の妹に聞かれるまで。


現世には当初の俺の目論見よりも長期の駐屯となっていた。
空座町が、王鍵の創生に使われると分かり、十番隊隊長の俺が引き続き現世に留まる事が決定した。

機が熟するのが冬とはいえ、破面は既に一度空座町へ侵攻してきている。
今後また侵攻してくる可能性もあるためだ。
いつ何時、出てくるかは解らねえ。

だから、この町を見渡しやすい所を探していた時に、その風景に出くわした。
町を見渡せる高台。真赤な夕日が真正面に沈んでいく。
何所かで見たことのあるような山並。

ここ暫く現世には降りてねえ。見たことがあるはずが無い。
だが、見ていると心が落ち着いた。

「・・ま、ここなら町を見張るには丁度いいか。」


そして、それからそこが俺の定位置となった。
当然、その場所にずっと居座ってる訳にはいかねえ。

通常の俺は死神としてではなく、義骸に入っているからな。
同じ人間がおんなじ場所に何時間も居る訳にはいかねえだろう。
それに街の中を見回ることも必要だ。

それでも・・・日の沈む時間になると、あの場所へ自然と足が向いていた。

町中を見回っている、そんな時に球を拾ってやった。
後で分かったんだが、その球の持ち主が黒崎の妹だった。
その球が、足だけで蹴る球技用なのは知っていた。

あちこち見回わってりゃ、イヤでも公園やグラウンドの様子は目に入ってくる。
それが、サッカーといわれることも、大体の球技内容なのかも見てりゃ分かった。

一心にサッカーに打ち込むガキ。
当然だが、その様子には自分たちの町が消失する危険など誰も感じていない。
自分たちの未来を信じ、迷いが無い。

・・そういや・・ガキをこうやって見るのも久しぶりか。
十番隊に戻れば、ガキなんて居ねえからな。

「あんた、なんでここに来んの?家近いの?」
しつこく、サッカーの仲間に誘ってくるガキに聞かれた。

・・家か?・・遠いさ。
なんせ別次元にあるからな。ってお前に言っても分らねえだろうけどな。

そこで、俺は気がついた。
何故、この風景が懐かしいと感じたのか。
何故、ここが落ち着くのかを。

そこは・・俺が真央霊術院に入るまで暮らしていた家の、縁側から見る風景に似ていたんだ。
ほんのガキの頃は、日の沈むまで遊んでいた。
縁側に腰かけて、日の沈む様子を何回も見ていた。

・・そう、雛森も。

黒崎の妹(まあ、後で分かったんだが)が俺を睨みつけるように見る。
ガキにしか持ち得ない、向こう見ずな、そのくせ生命力のみなぎる眼。
黒崎の妹は、そんな眼をしてやがった。そういや・・兄貴もそんな感じだな。

あの縁側に座って夕陽を見てた頃は、俺もこんな眼をしていたんだろうか・・。

あの頃の俺も・・そしてあの頃の雛森も、もう今は無い。
記憶の中だけにある風景だ。

聞かれるまで気づかなかったとは・・俺も少し気が緩んでいるのかもしれねえな。

黒崎の妹はよっぽど切羽詰っているのか、尚も俺をしつこく誘う。
だが、俺は無論行く気はない。

ガキの遊びにつきあってやる暇はない。


けどまあ・・暇だったら様子は見に行ってやる。


・・・この風景が何に似てるのか・・思い出させてくれた礼にな。



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