新しき年、強き風の予兆を含みて(虚夜城)
・・表上は平穏な尸魂界・・。
しかし、一方虚圏では・・・巨大な城の建設が進められていた・・。
白亜の巨大城砦・・・虚夜宮(ラス・ノーチェス)だ。
城の主は、虚圏の住人、虚を倒すことを任務とする護挺十三隊の頂点に立つ者の一人だ。
その名は藍染惣右介・・。
恐怖を知らぬその超越した存在は、恐怖に生きる虚の心を掌握し、思いのままに苦も無く操っていく。
虚たちはただ、藍染のもとで居ることを許されることを望むがゆえに、藍染に付き従う。
まるで、藍染の傍に居れば・・己の恐怖が無くなるとでもいうかのように・・・。
・・だが・・
・・それは違う・・・。
・・・藍染の傍に居ることは・・・
僅かな安心を得るとともに・・・巨大な恐怖を背負うことを意味する。
その恐怖とは・・・
何時か藍染に必要とされなくなってしまうのではないかという、『恐怖』だ・・・。
虚たちはその新たな恐怖から逃れるべく・・より藍染の傍を望む。
彼らは、その事がより大きな恐怖になるということを知っているのだろうか・・・。
・・・いや・・知っているのだ・・・。
知っていても、尚・・求めずにはいられない・・・。
その恐怖の結晶が・・虚夜城だ。
その巨大さは・・藍染の元に居る虚の恐怖の大きさにも似ている・・。
「・・暫く見ない間に、随分建設は進んでいたようだね。何よりだ。」
年の初め・・新年の挨拶に城の主が「還ってきた」。
頭を垂れて、言葉を聴く虚たちの耳に、あまりにも主の声は心地よく響く。
「・・・新年おめでとう、諸君。
私の元で働いてくれてたことをを、嬉しく思っているよ。
君たちの働きには感謝している。
そんな君たちに朗報がある。
崩玉の在り処が判明した。
恐らく、今年中に我々はそれを手にすることになるだろう。
新たな進化に向けての階(きざはし)の一歩を・・・漸く我々は上ることが出来る。
・・・諸君。
これからも、私と共にに働いてくれるかい?」
主の問いかけに、一斉に諾の応えが飛ぶ。
彼らの王は、鷹揚にうなずく。
・・・当然だろう・・。
彼らには・・・虚たちには最早藍染に付き従うしか道は残されていないのだから・・・。
眼鏡をかけた姿は清廉潔白な人格者にしか見えない。
口元に浮かぶ笑みは、慈悲にさえ見える。
・・だが・・その精神の深遠は誰にも見通すことの出来ない暗黒の世界だ。
しかしそれゆえ彼らは藍染に惹かれる。
昼を知らぬ虚たちには、藍染の持つ暗黒が夜を照らす月のように光を放っているように見えるのだ。
いや・・暗黒ではなく・・暗白なのやもしれぬ。
・・白き闇。
「今年は我々に向かって風が吹いてくるだろう。
その風が我々にとっていい風になると・・私が保証してみせる。」
・・・静かだが力強い言葉だ。
藍染がそう言うのであれば、そうなるのに違いないだろう。
・・しかし・・十刃たちには漠然とした不安があった。
藍染が崩玉を手に入れれば・・・我々の存在はどうなるのだろうか・・と。
崩玉を使えば、我々よりも強力な『同志』が生まれ出てくることは予想だに難くはない・・。
そうすれば・・我々は・・・・。
藍染様の目的が達せられることは、己の目指すものそのものだ・・。
しかし・・そうなれば・・我々は・・・。
主の様子からは自信がみなぎっている。
しかし一方では、十刃たちの心の中には巨大な恐怖が逆巻いていた。
その恐怖とは、正視するにも恐るべきものだ。
藍染様の傍から追われること・・。
最も恐れている時が来るのだろうか・・。
主にとってのよき風は、十刃にとっては嵐そのものだ。
しかし、『平穏』を望むことは許されない。
彼らは望む。
『その時』がくれば・・どうか目の前の主が・・彼らに『慈悲』を与えることを・・・。
その笑みそのものに、彼らに慈悲を与えんことを・・・。
嵐の予感に、十刃たちは竦み・・主はそれを待ち望む。
・・吹く風は未だそよ風だ・・。
しかし、新たな恐怖を孕んで、新年の日を吹き抜けて行った・・・。
なんちゃって。