欺きの世に竜は坐す(日番谷冬獅郎)

この世は欺きに満ち溢れ・・・
信ずるものなどありゃしねえ・・・


・・・そう思った事ねえか?

お前・・・信ずるものが無いだなんて・・

・・そんな風に思いてえか?

俺はどんな時でも信じる事が出来るものがある。
・・・それは・・


『俺』自身だ。


・・俺は信じていたやつに裏切られたことがある。

そいつは・・・俺の一番大事なものを託せられるほどの男だった。
そいつは・・・俺を裏切ったばかりか、俺の一番大事なものまで裏切り・・そして壊していきやがった。

なぜあいつを信じてしまったのか。
なぜ自分の手元に置かなかったのか。
・・暫くは後悔した。俺自身を責めた。

だが・・・考えても仕方ねえ。
自分を責めて結果が変わるんなら、幾らでも責めてやる。
だが現実は・・・変わんねえ。
・・・残酷な程にな。

それに・・・やっぱりあいつは、信頼に足るヤツだった。
今から思っても出来た男だった。
俺自身が裏切られたことは正直言って、もうどうでもいい。

だが、許せねえことが一つだけある。

雛森を裏切ったことだ。

それだけは絶対に・・・絶対に許さねえ。

あいつだけは・・・絶対俺が殺す・・・絶対にな。


だが、今のところ俺にはまだその力がない。
あいつが作った下級レベルのアランカルでさえ手を焼く始末だ。
あいつに今勝負したところで、勝てねえだろうよ。
・・・分かってる。

そしてあいつもそれを知っている。
どう俺があがいても、自分のレベルには来ないと思っているだろう。
あいつらしい『大人の計算』ていうのを駆使してな。

『大人の計算』・・・。
確かに正確だ。まずその『計算』てのは間違えたことねえだろうな。

・・だが、その『計算』にも計算できねえ事があるんだぜ?

『ガキの成長率』てやつだ。
こればっかりは『大人の計算』てやつでは測れねえ。
・・・何故か分かるか?
ガキ自身すら分かんねえんだ。それはもう計算できるもんじゃねえ。

今が弱いっていうんなら・・・・
強くなってやる・・絶対にな。


この世は欺きで満ち溢れ、手を伸ばした先すら見えねえ時もある。
そんな中で誰か信じるということは勇気がいることだ。
なぜなら、信じることはてめえの心の一部を、そいつに託すことに他ならねえからだ。
裏切られるということは、託したてめえの心の一部を亡くす事だと俺は思う。


・・・正直、前よりも慎重になったのは確かだ。

基本的に俺は自分でなんでもやってしまうタイプだ。
理由は簡単だ。誰かに頼むより自分でやったほうが早いし正確だからだ。

だが・・・託さなきゃいけねえ時がある。
そいつはリスクを承知で心を託さない限り、絶対進めないという時だ。
俺はその時・・また託すことになるだろう。

進むためにはリスクを取らなきゃなんねえ。
自分が傷つくというリスクだ。

だが俺は信じるぜ。
その時が来れば、俺は信じる方を選ぶだろう。
俺自身を信じているからだ。
何も信じる事がなくなったとしても・・俺自身を信じている。
てめえのことも信じられないよう奴が、他のやつを信じられる筈はねえ。

俺自身を信じているからこそ、他のやつを信じる事が出来る。

そして・・また進んでやる。
・・前に。

たとえ進む前が見えなくとも
それでも俺は進んでやる。
それで傷ついたり、進むべき道を失ったとしても、乗り越えてやる。

俺は『ガキ』だからな。
しかも『数百年に一人とかの天童』っていうガキらしい。
だったら『ガキの成長率』っていうのも大きいはずだ。
そして『大人の計算』ていうのを超えてやる。

・・・藍染。
てめえはこの欺きの世の頂点に立つつもりだろうが・・・
それはさせねえ。

悪っていうのは何時かは滅びるもんだ。
この世がいくら欺きに満ち溢れたものであったとしても、必ず滅びの時が来る。

てめえの死で・・・それを証明してやる。

俺が・・必ず証明してやる。




なんちゃって。

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