罰ゲームの行方(阿散井恋次)

「・・男ってえのはよ・・・

・・・やらねきゃなんねえ戦いってのが・・・


必ずあんだよ。・・・たとえそれが・・・


・・・いくら勝ち目のねえ戦いでもよ。」


六番隊隊舎。
隊長の執務室の扉を今開けんとする、恋次の手は緊張で汗ばんでいる。


これから彼は・・いつか越えんとする目標であり、上司でもある朽木白哉に戦いを挑まなくてはならぬのだ。
そう・・それは彼自身の誇りの為に・・。



『・・・ツイテナ〜〜イ・・。』
彼の脳裏を、12人の副隊長及び副隊長代理の見事にハモった声が木霊する。

・・恋次は敗北した・・・


「黒ヒゲ危機一髪」に敗北したのである。
敗北感で完膚なきまでに打ちのめされた恋次であったが、物理的被害の方は「黒ヒゲ危機一髪」の方にあった。

恋次のバカ力により完膚なきまでに破壊されたオモチャの残骸「黒ヒゲ危機一髪」は、恋次が罰ゲームを実行するまで、証拠品として十二番隊隊舎正面入り口の所へガラスケースに入れられて展示されている。
当然ネムの書いた解説書付で。

「・・これ以上恥はさらせねえ・・。」

恋次は腹をくくる。
そして六番隊執務室の扉が開かれた。
「失礼します。」
入る恋次に対し、上司の白哉は「うむ。」と答えたきりで、見ている書類から目さえも恋次には向けようとはしない。
しかしこれも何時もの事だ。

この白哉に罰ゲームを実行してもらわなくてはならないのだ。
普通に言っても当然やらないであろう。

『さあ・・どう攻めるよ・・。』
同じく仕事に取り掛かりながら、頭をめぐらせる。
そして一つの案を考え付いたのである。

「朽木隊長・・今ちょっといいですか?」
「・・何だ。」
「年末の宴会芸・・もう決まりましたか?」
「・・・・。」
無言の白哉。当然だ。昨年の宴会芸では頭に付けた牽星管を携帯電話に見立てて笑いを誘うという、一世一代の芸を披露したにも拘らず、会場の笑いどころか物音すら聞こえぬほどシンと静まらせた苦い経験がある。
流石の白哉も考えたくないだろう。
その証拠に無言のままだった。

「俺・・絶対ウケる芸を知ってるんスけど。」
「・・・・・。

・・・話せ。」
「ケツ字ですよ。」
「何だ、それは。そのような書体など聞いた事が無いが。」
「書体じゃありません、芸ですよ。
尻で、文字を書くんです。例えば人の名前とか。」
「・・尻で文字?・・・・・。(現在顎に手を添え考え中)


・・・良く分からんな。どのような物なのか見せてみろ。」

しめた!食いついてきたぞ!と心の中で思いながらも表に出ぬよう必死で平静を装う恋次。
さっそく、手本となるよう、やりはじめた。

「例えばこうです、「あ」・「ば」・「ら」・「い」。こうやって腰を回して字を書くん
スよ。
絶対宴会ではウケますから!俺保障します!」

少し驚いたように目を大きくしながら見ていた白哉だったが、次の瞬間には何時もの白哉に戻っていた。

「・・恋次。」
「はい!なんスか?」
「これより自宅に戻り、2日間の静養を命じる。その間外に出ることは許さぬ。

疲れが頭に来ておるようだ。

そのようなマネを神聖な執務室で行うなど、正気の沙汰ではない。

・・・よいな。」

有無を言わせぬ高圧的な態度。
静かに放たれる圧倒的な霊圧。

・・恋次に勝ち目は無かった。

大人しく自室へ戻る恋次。


そして白哉は何事も無かったかのように仕事を始める。
流れるように動いていた筆が不意に止まった。


・・・実は白哉はケツ字を書いたことがある。



漸くまっすぐ歩けるようになったころの事だ。←そのころの事を覚えている脅威の記憶力。

体操の講師が、下肢の強化と柔軟な動きが出来る筋肉を形成するために、幼い白哉に授業として取り入れていたのだ。←(スゲー!!先生もスゲー!!)


しかし、ケツ字と言っても、そこは四大貴族朽木家跡取りの白哉にとっては普通のケツ字を書かせるわけにはいかぬ。←(うまれた時から帝王学だからね!)

漢字だ。
漢字でケツ字を書かされていた。←注(ようやく歩けるようになったばかり)

・・・・「哉」の文字がなかなか講師からOKを貰えず、苦労した事を思い出す。←(イヤ・・フツー書けませんから!)

『しかし・・よもや恋次の尻字(しりじ)を見ることになろうとは・・』
ヘタクソな尻字を思い出す。

その時、白哉の霊圧は確かに笑っていた。
あくまで顔は無表情ではあるが。


白哉は当然、ケツ字が書ける。


ちなみに、今現在は楷書だろうが、行書だろうが、草書だろうがお手の物だ。


・・・もちろんこれは誰にも内緒の事ではあるのだが・・・。



芸になることを初めて知った白哉だった。

無論、恋次はそのことを知らない。



なんちゃって。



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