びゃっくんの夏休み(朽木白哉)

びゃっくんは、お坊ちゃまだ。

お坊ちゃまといっても、成金おぼっちゃまとか、なんちゃっておぼっちゃまとか、自称おぼっちゃまとは格が違うおぼっちゃまである。

貴族の最高位である朽木家のおぼっちゃまだ。

おぼっちゃまなので、夏場になると暑さを避けて、避暑地へ行く。
無論、別荘だ。ていうか、色んなところに幾つも持っている。

別荘は維持管理が大変なので、持つという事自体がステータスだ。
だって、使うのは夏場だけ。
その他の季節は使わないからねえ。けど、ちゃんと家に手を入れないと、家が傷んでしまうから、他人に管理させないといけないし。

別荘なんてものは標高の高いところにあるから、冬場の雪対策は大変だし。
宿泊施設を素直に利用する方がよっぽど経済的なのだ。

そんな手間も金もかかる別荘を幾つも持っているびゃっくんちはやっぱりお金持ちなのである。
普段は大豪邸に住んでいるびゃっくんだけれど、幾つも在る別荘の中で一番気に入っているのは、意外にも一番こじんまりした別荘だ。
敷地はそれなりには広いけど、別荘自体は、部屋がたった4つ←(笑)しかない別荘だった。

びゃっくんは此処に来ると、いつも物珍しそうにしている。
避暑の間だけとはいえ、狭い家で暮らすのが珍しいのである。

それから何せ田舎だから、びゃっくんみたいなお坊ちゃまでも、平民と接する距離も近づいていく。
便利な店屋も無いし、ある意味不自由な生活だ。
だが、その不自由な生活もまた珍しいのである。

読みたい本が無いからといって、直ぐに手に入るわけではないし、十分な書庫も無い。
日常品を手に入れるにも、遠くまで行かなければならない。もしくは、一週間のうち決まった日にやって来る行商を待つかだ。

そんな不自由を「楽しむ」のも避暑地の楽しみ方だ。

食事も、何時ものような趣向を凝らしたものは出てこない。
料理人を同行させることだって当然びゃっくんちは出来るのだけれど、びゃっくんは別荘の管理人が作る素朴な手料理が何故か好きだった。
レパートリーが多いでもない。ただ素材が新鮮というだけだ。
だけれど、つい20分前には土に埋まっていた、もしくは木にぶら下がっていたものが目の前に料理として並ぶのは、びゃっくんにとっては、これまた珍しいことなのである。

夏の風物詩西瓜も、いつもは取り寄せた氷で冷やしているけれど、ここでは山から引く小川の水で冷やす。
夏でも身が切れそうなほど冷たい水で冷やされた西瓜は、びゃっくんの夏を語るには無くてはならぬものである。

ある夏の日。
びゃっくんは珍しいものを見た。
平民が西瓜を食べているところだ。
別に西瓜なんぞは珍しくもなんとも無いのだが、その食べ方にびゃっくんは激しく興味をそそられたのである。

その平民は食う前に塩をふりかけていたのである。

・・西瓜に塩・・。

トマトに塩というのは別の別荘で見た事があるが、西瓜に塩というのは初めてだった。

・・・旨いのだろうか・・・。


そこで、びゃっくんは早速、別荘でやってみる事にした。
大体、水菓子で出てくるのは西瓜の確率は5割以上だ。
その夜も、予想通り西瓜が出てきた。
そこで、びゃっくんは言った。

「・・塩を持て。」←
「は?」
「聞こえなかったのか。塩を持てと言ったのだ。」←この辺があくまでもびゃっくんの所以だ。

高圧的な物言いに、いそいそと管理人の老婦人が塩を持ってきた。
此処までは順調だ。
そして、いざ西瓜に塩をチャレンジしようとしたところ、びゃっくんは重大な事に気がついた。

・・・塩の加減が分からぬのだ。←爆笑
あの平民はどれほどかけていただろうか。そこまでは観察していなかった。

目の前に西瓜と塩を並べ、あごに手を沿え何かを考え込むびゃっくん。
おもむろに、とりあえず、指4本で一つまみ塩を振ってみた。
そして食してみる。

・・不味い。←塩かけすぎ(笑)

どうやら、塩の加減を間違えているようだ。すると見かねたのか、老婦人が急いで新しい西瓜を持ってきた。

「とりあえず、ほんの少し振ってみてはいかがですか?」
老婦人は既に、びゃっくんが何処かで西瓜に塩を振る事を見たのだと気がついたらしい。
「ほんの少しとは、どの程度だ。」←あくまで高圧的なのがびゃっくん。
「とりあえず、親指と人差し指で摘める範囲でいかがでしょう。」

・・・というわけで、びゃっくんはその通りにやってみた。

・・やはり口に合わない。
またもやあごに手を沿え考え込む、びゃっくんに今度は婦人の老亭主が助け舟を出す。

「まあ、こういうのは好きずきですから。
私なんぞはそのまま食べた方が好きですし。」


・・・好きずき・・・。

・・・このようなものは好きずき・・・。


そこで、びゃっくん閃いた。
アレを試してみようと。
そこで、びゃっくんはこういった。

「・・・七味を持て。」←あくまでホンキ。(爆笑)


無論、其れを聞いた老夫婦は「びゃっくん大丈夫?」と頭の中で叫んだが、それを口に出すほど愚かではない。
だってびゃっくんの目は真剣そのもの。おまけに新たな食の冒険に無表情ながらも、わくわくしているのが分かったから。


びゃっくんに、言われるまま七味を届けた老夫婦。
その後の事は見なかったことにしたらしい。(笑)


何時もと違うことをチャレンジ出来る夏休み。


びゃっくんは今年も楽しく過ごしているようだ。





なんちゃって。

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