駄菓子屋の役割(喜助と恋次)

・・空座町のある一角に・・その商店はひっそりと軒を構えている。
目立つ看板も、それどころかどう見ても年季が立っていて綺麗な店とはいえない店だ。
軒の下にはいまどき珍しい縁台。

売る物は今ではもうなかなか見られなくなった駄菓子の類である。
無論、客の主流は子供達だ。
けれども、スーパーやコンビニといった店に押され、来店客はお世辞にも多いとは言えない。

けれども、毎日ひっそりと開かれる昔ながらの駄菓子屋。

それが、浦原商店である。

浦原商店は、店主の喜助を先頭に、番頭頭と言えるだろうテッサイと店番のジン太とウルル。
そして、今は六番隊副隊長の恋次が居候と言う形で居る。

「よっと・・ち!手がとどかねえ!」
棚のかなり高いところの商品の入れ替えをしているのはジン太。
「・・あの・・・無理せずにテッサイさんに頼んだ方が・・。」
見るからに無理をしているジン太に、控えめに提案するのはウルルだ。

「こんなの俺だけで出来るに決まってんだろ!うるせえってんだ!」と息巻いたのはいいのだが、ウルルの心配どおりバランスを崩し、商品もろともひっくり返ろうとしたジン太と商品を筋肉質の腕が支える。
テッサイかと思われたが、ジン太の後ろからかけられた声はテッサイのものではなかった。

「危ねえだろうが、言えよ。俺だって一応居るんだしよ。」
恋次だ。
「居候なんぞに商品入れ替えなんてさせられっかよ!」
「商品取るだけだろうが。何くだらねえ事言ってんだ。」
「うるせえ!この赤パイン!」
「へいへい。」
言いつつ、さっさと目的と思われる箱を下ろし、他の今にも落ちそうな高所の商品箱を元の場所に戻す。

「いやあ〜、すっかり阿散井サンも居候らしくなっちゃいましたね〜。
すっかりウチの店に馴染んでるじゃありませんか〜。」
珍しく店の方へ顔を出した喜助が声をかけて来た。

「あんまり馴染みたくは無いんスけどね。」
ため息混じりに答えながら、恋次はふとした疑問を喜助にぶつける。

「しっかし、何で駄菓子屋なんスか?
現世の駄菓子屋ってぇのは、何でも子供の減少とかでずいぶん減ってるって聞いてますけど。
どうせなら、もっと儲かりそうな業種にしても良かったんじゃないんスかね。」

意外に鋭いところを突かれたのか、センスを広げておや?と言う顔をした後、何時もの飄々とした笑顔で喜助は答える。
「いやあ〜、なんせこっちは世を忍んでますからねえ〜。あんまり目立ちすぎるのも困りものなんですヨン。」
「イヤ・・それは分かりますけど・・。同じ世を忍ぶにしてももっと別のものにしても・・。大体子供の小遣いなんてたかが知れてるもんスし。」

恋次の言うとおりだ。
喜助の言うように、尺魂界から追放された身としては、現世であまり目立ちすぎる事は出来ないとしても、持てる金額の小さな子供より、大人を相手に商売した方が経営と言う意味では安定するだろう。
それに、何せ喜助は技術開発局の初代局長を勤めた男だ。
会員制にした商品で、喜助のキャラ的にも怪しげなものを売ったほうが余程儲かるに違いない。
ひっそりとでも喜助がその気になれば、幾らでも稼げるはずなのだ。

「まあ、元々儲けようと思ってやってるわけじゃありませんしねえ。

けど、阿散井サン。駄菓子屋をナメちゃいけませんよ?」
「別にナメてるわけじゃありませんよ。」
「いいや、阿散井サン。
あなたは駄菓子屋の奥深さをご存知ないみたいですねえ。
いいですか?駄菓子屋ってのは子供が生まれて初めて、子供の自分だけで買いに行くことを親御さんから許される最初の店なんス。」

「・・まあ、確かに。」
「無論、限られた金額しか持ってませんけど、だからこそ選択することが求められます。
握り締めたこの100円で、飴をいくつ買おうか。でもこのチョコも捨てがたい。でもこっちのスナック菓子も食べたいし、あ、このゼリーははじめて見た。なんてまあ、可愛らしい悩みを頭の中だけでぐるぐるさせながら、それでも欲望と現実の妥協を探る。
子供達は買ったものを食べながらも、もう次回の事を考えてるもんでしてねえ。

今度来た時は、またコレを買おうか、もしくはあっちにトライしてみようかとか思いつつ、お菓子を食べてるんです。其れが楽しい。

限られたお小遣いで、やりくりを学び、そして大人たちも『ものを買うこと』という、社会生活には欠かせない能力を学ぶに安心して任せられる店。

それが駄菓子屋っていうもんなんスよ。」

「けど、実際は減ってるわけなんスから、需要が無くなってきてるんじゃないんスか?今、コンビニなんてものもあるわけですし。」

「まあ、仰るとおりでして。今のコンビニには駄菓子関係も置いてますからねえ〜。
・・・けど、コンビニと駄菓子屋では決定的な違いがある。」
「24時間営業ってところっスか?」
「それもありますけど、基本的にコンビニなんてのは大人をターゲットとして作られてますでショ?だけど、駄菓子屋は子供だけをターゲットにしています。

子供だけの世界。
アタシはそんなところがひとつくらいあってもいいと思うんスけどねえ。ま、実際売るのはアタシたち大人ですから、全く目が届かないわけじゃない。
適度な子供の自由がいいんス。」

「けど、浦原さんが子供相手ってのがイマイチ、俺はピンと来ないんスけど。」
「確かにアタシも大人の特に女性相手とかの方が得意ですからねえ〜。
ま、自分自身に対する戒めってところですかね。」

「戒め?」
「アタシはホラ、技術開発局あがりでしょ?
あそこは子供の存在自体を忘れ去ってるような所でしてねえ〜。

後先考えずに、作っちゃう所がありましたからねえ〜。
けど子供の存在を否定したり、無視したようなモノはやっぱりどこかおかしいと思いましてねえ〜。

まあ、その反省も込めてるんス。いやあ、なんだか真面目な話になっちゃいましたねえ〜。」

そんな時に、珍しく小学校低学年と思われる子供が2人連れで来店する。
手に取ったものを乱暴に放り戻すその様子に、テッサイが無言の圧力をかける。途端に、2人の様子が変わるのが分かった。どうやら初めてその行動を注意されたようだ。

そんな様子を和やかに見る喜助が恋次の耳元で囁いた。

「・・それに・・未来のある子供の色んな『ハツモノ』を頂けますからねえ〜。
なかなか止められませんねえ〜。」

ニヤリと笑う喜助の様子に、恋次は「・・やっぱこの人は喰えねえな・・。」と心の中でつぶやいた。





なんちゃって。

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