ラーメン店「断崖」にて ある日の客 2

尸魂界のとある一角・・。
修兵が店主となっているラーメン店「断崖」・・・。
今日は何時もと違う雰囲気が漂っている。

断崖はカウンターのみのラーメン店だ。
そしてその中心に何故か修兵の手書きの札が立っている。


「予約席」


・・・普通、ラーメン店に予約を入れる客はいない。

「なんスか?これ。」
早速、恋次の質問が飛ぶ。

「見りゃ分かるだろ。予約だ予約。
席を開けとけだとよ。
なんか一番良い席を予約しろとか言ってたな。」
修兵がそれに答える。

「・・ラーメン屋のいい席って真ん中なのか?」
今度は一護が質問をする番だ。

「知らねえ。ま、とりあえず分かりやすいだろ?」
「しかし・・ラーメン屋に予約かましてくる客っているんスね。」
「・・・いるみてえだな。しかもオマエの近くによ。」
「え?オレの近く?」
「予約してきた客は六番隊隊長、朽木白哉だ。」
「ええ?!!朽木隊長が?!!」

朽木白哉。
六番隊隊長。四大貴族の一角、朽木家の当主。
バリバリのお坊ちゃまだ。

・・その白哉がラーメン店に来るとは・・・。

「・・・ついでに言えば、予約をしてきたのは本人じゃねえ。執事とか言ってたな。」

・・・予約を爺に取らせるところは白哉らしさこの上無しといったところか。


・・・そして・・・。

奴がやってきた。

暖簾をくぐる様も優雅な白哉は、目の前に予約席があるにもかかわらず、店員の誘導を待っている。
勝手に席に座るなどという下品なことは白哉にとってはありえない。
「・・・予約した者だが。」
「いらっしゃい。どうぞこの席に。」
店長の修兵が促す。
「うむ。」
ラーメン店に白哉が腰掛ける!!
掃き溜めにツルならぬラーメン店に白哉!!
結構凄い光景だ!!

「・・・恋次が手伝っている店があると聞いたので、様子を見にやってきたのだ。」
無論恋次には伝えていない。

『一言言えよ!!何時も顔付き合わせてんだからよ!!』
恋次の心の叫びは口には出されない。
だって、恋次もそのことを白哉に言っていなかったのだから。

「何にします?」
「品書きをもらおうか。」
「イヤ・・・品書きって言われても・・・目の前にメニューならありますよ?」
カウンターの上には小さなプラスチックで出来たメニュー表が。
「・・これか。」
手に取り、もう一方の手で顎に軽く手を添え考え込む白哉。


・・数分経過。

「・・よく分からんな。」

『早く言えよ!!』
3人の心の声がラーメン屋に木霊する。

「じゃ、豚骨醤油でいいですか?」
修兵が助け舟を。
「うむ。ではそれを貰おう。」

そこで店長の修兵、早速調理に取り掛かろうとすると。

「・・お前は見ているだけなのか?恋次。」
なんと白哉、恋次を攻撃!!
「イヤ・・俺も作りますけど・・。」
「ではお前が作れ。」
「え?俺がっスか?」

どうやら白哉・・恋次が作るラーメンを食べてみたいらしい。
店長ほどではないが恋次も腕は上達している。
何処に出しても恥ずかしいものではない。


・・しかし・・・。

やりたくない訳がある・・。


「どうした、恋次。臆したのか?それともお前の腕は私に見せられるほどでは無いと言う事か?」
さらに白哉、恋次を挑発!!

これで引っ込む恋次ではありませぬ。
「・・やります!」

いうや、湯の中に麺を投入、慣れた手つきでスープを調合する。

修兵と一護はハラハラだ。
何故なら・・。

ここでは茹で上がった麺を豪快に湯切りをするパフォーマンスがウリだ。
網に打ち上げた麺を上下に振って湯切りする。

それは問題ない・・。

問題なのはその時の掛け声なのだ・・・。

「奪還。」
これが恋次の掛け声だ。
白哉の前で言えるのか?!!

散々噛み付こうとしてケチョンケチョンにやられた後だ。
かなりキツイに違いない。

麺が茹で上がる時間が来た。
ざるに打ち上げる恋次。
恋次の額を熱さだけではない汗がダラダラと流れ落ちている。

言うのか?言ってまた噛み付くのか?!!

修兵と一護が見つめている!!

「だ・・・達観!!!」
なんと恋次!!急遽変更〜〜〜〜〜!!(笑)
嗚呼・・ヘタ恋次復活か?!!

「・・へい・・お待ち・・・。」
疲れきった様子で白哉の前にラーメン鉢を置く恋次。
何故か敗北のスメルがプンプンだ。

「では頂戴しよう。」
一口スープを飲む白哉。

そしておもむろに目の前の調味料に手を伸ばす。
一味のキャップを取り、内蓋を外し、ラーメンの上に逆さに振る白哉。
出ました、一味の千本桜。

「すまぬが替わりを頼む。」
しかも一味のお替りを所望!!
白哉の舌は大丈夫なのか?!!

「いや・・やはり替わりはよい。
白哉急にお替りをキャンセル。そして一言こういった。
「じい・・例のものを。」
何処からともなく老執事が現れて白哉に一つの小瓶を渡す。
「こちらに。」

出ましたお約束のマイ七味。
流石に自分で持ち歩くのは恥ずかしいのか、執事に持たせているらしい。

これは内蓋ははずさない。
しかし、ラーメンの上に本日二回目の千本桜が舞う。

そして、優雅に赤い物体を食す白哉・・。
最早現実世界ではなく、ファンタジーの光景だ。
後ろに妖精が飛んでいる気がする。

そしてきれいに食べ終えた白哉。
「まあまあだな。では支払いを頼む。」
あんなので味が分かるかどうかよりも問題なのは、懐から出された燦然と輝くブラックカードでありました・・。

「お客様・・。ここは現金だけでして・・。」
高級を売りにしているラーメン屋でもなければ普通支払いは現金だろう。


「・・そうか。支払いはカードでは出来ぬか・・。」

またもや考え込む白哉、今度は直ぐに何かを思いついたようだ。


「では、店ごと買おう。ならばカードでよいか?」



・・朽木白哉・・。




所詮庶民には考えが及ばない男であった。




なんちゃって。

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