ラーメン店「断崖」にて ある日の客6
尸魂界のとある一角・・。
修兵が店主となっているラーメン店「断崖」・・・。
こってりとした豚骨醤油味が売りのこじんまりとした店だ。
今日も修兵、恋次、一護が忙しく立ち働いている。
その時だ。
ゴッ!!
奇妙な音が、入り口から聞こえた。
3人の目が一斉に入り口に注がれる。
そこに見たのは・・・頭に暖簾をつけた七番隊隊長、狛村左陣が軒にぶつけた頭をさすっている姿だった。
狛村左陣・・・別名「狛ワン」。言わずと知れた、ウルフフェイスだ。
つい最近まで、このラブリーな姿を被り物で誤魔化していたが、友人の裏切りがあった後はこのラブリーな姿を公にするようになった。
「狛村隊長!!大丈夫ですか?!!」
日頃、世話なっている修兵が真っ先に声をかける。
「ああ・・騒がせてすまん。
暖簾をくぐろうとしたのだが、軒の高さを見誤ってな。」
そう言いながら更に腰をかがめて店内に入る。
天井の高さは2m70cm。狛村の身長は2m35センチ。
手をひょいと挙げれば狛村は天井に手が届く。
しかし、この巨体が頭に暖簾をひっかけているのだ。
・・・ちょっとラブリ〜〜v
店内で暖簾を外すのを見るや、修兵がカウンターを飛び越えて、「俺戻しときます。」と暖簾を受け取り、またかけなおした。
狛村は、店内のスツール状の椅子を見て戸惑っているようだ。
・・・当然だろう・・・。
狛村の尻が、スツールに収まるはずがない。
それを見るや、修兵、さらに椅子を2脚用意し、合計3つを狛村を座る席とした。
尻に1つ。両方の腿を支えるのに各一つずつということだ。
「これで座ってください。」
「ああ、すまんな。」
そこで腰掛ける狛村。
ミシッと椅子がいやな音を立てたが、どうやら持ちこたえたらしい。
それを見て、修兵。またカウンターを飛び越えて厨房へ戻る。
「狛村隊長、何になさいますか?」
「そうだな・・・。」
カウンター上のメニュー表を見る狛村。
「恋次・・・やっぱ、チャーシュー卍解盛かな・・。」
「それ以外ありえっか?3杯は食うぜ?」
「イヤ・・オレは5杯は行くと思うけどよ・・。」
「ていうか、チャーシューを棒のままよこせとかいいそうだよな・・。先輩今日、チャーシューってどれくらい残ってましたっけ?」
「ヤベエ・・。3本きゃねえぞ。しかも、1本はもう切ってるし。」
小声で話し合う、「断崖」メンバーたち。
一体この巨体からどんな注文が出るのか・・。
果たしてそれに応えられるのか?!!
正しく彼等の心境もまた「断崖」にあった。
「・・では、特製醤油ラーメンを頼もうか・・。
そこで一つ頼みがある。チャーシューなのだが・・・。」
「卍解盛ですね?!!任せといてください!」
修兵が言う。しかし戻ってきたのは・・。
「いや・・・抜いて欲しい。」
「・・・へ?」
「チャーシューを抜いて欲しいのだ。」
「チャーシューを・・・・抜く?」
「代わりにメンマを追加で乗せてくれ。」
「メンマ・・・。
・・・卍解盛ですか・・?」
「そのようなことは言わん。普通でいい。」
「普通・・・。メンマを普通。
・・もしかして・・・
肉は食わないんですか・・?」
「そうだ。余程でなければな。」
・・・チャーシューよりメンマ。
・・・狼がチャーシューよりメンマ。
・・・狼なのに肉より筍もどき・・・。
ていうか、肉を食べない狼。
・・・ベジタリアンな狗!!
・・・なんて悪食なんだ!!←(そこまで言うか。)
・・・ありえねえ・・・!!!
今日も、3名の心の声が店内を木霊する。
しかしその声を聞くことの出来るのは、同じく店員だけだ。
・・と思いつつもしっかり仕事はする、「断崖」メンバー。
肉なし、メンマ追加の普通盛りのラーメンが巨体の隊長の前に供せられる。
ピクリ。
狛村の片耳が動く。
そしておもむろに箸を持つ。
『に・・握り箸だ、コイツ!!』←注)箸をグーで握ってものを食べること。幼稚園児に多い。
握り箸で、食べにくそうに麺を食う狛村・・。
『ちくしょう!!可愛いぜ!!』
『つうか、反則だろ、それは!!』
思いも付かぬ、狛村の萌え作戦(当然本人に自覚はない)に、ダメージをくらう「断崖」メンバーたち・・。
止めは・・・。
「・・うむ。馳走になった。」
満足げに呟いた、狛村の倒れた両耳だった・・・。←注)犬が嬉しい時、こうなります。
今度は軒にぶつけずに去っていく狛村・・・。
外に出て見送る「断崖」メンバーたち・・・。
「・・・先輩。」
「・・・なんだ、恋次。」
「店の裏に犬飼っちゃダメっすか?でっかいの。」
「ダメ。」
「一応飲食店だしな・・・。それに・・。」
「それに?」
「ぜってえ、散歩の順番でオメエらと揉めっから。」
「・・・なるほど。」
「うちのオヤジは、ガキのころ尻を噛まれたっつうんで、犬嫌いだしよ・・。」←ベタ。
しばし、癒された「断崖」メンバーたちでした・・・。
なんちゃって。