出来た男(恋次と藍染)
・・・藍染隊長の俺の印象は、「世の中にはこんな出来た人ってのが居るもんなんだな。」てなもんだった。
・・俺が藍染隊長に初めて会ったのは、霊術院の一年坊主の時だった。
現世への魂葬初実習で、運悪く巨大虚に遭遇し、すんでの所を藍染隊長と市丸副隊長に助けられた。
死の恐怖に竦んでた俺らを、一言で安心させちまった。
「・・待たせてすまない。」だけでだぜ?
そんだけで俺たちは確信した。
「ああ・・俺たちは助かったんだ。」て。
そして藍染隊長はウジャウジャいた巨大虚をまるでシャボン玉でも壊すみてえに片端から片付けていきやがった。
穏やかな表情一つ変えずにだ。
そこで見てろ、とか言ってたが、俺たちは隊長格の強さを現実離れした何かの作り物の映画みてえに、唖然として見てた。
呆然としながらも俺は思ったもんだ。
隊長格ってのは・・バケモンだってな。
当時一年坊だった自分とのあまりにも格の違う強さ。
あまりの違いが悔しかった。
俺は何時かこんなスゲエ死神になれんのか?
だが、実際のところは、巨大虚一匹に震えてんのがその時の現状だ。
その時一緒にいた雛森が「あたし達、あんな風になれるかなあ。」と言った時にも、悔しくて「なれるわけねーだろうが!」って言っちまった。
それから隊長格がバケモンだってのも言ったっけな。
吉良が「なってみせる。」と言った時、俺は心の中では思ってた。
・・・・ゼッテーなってやる。てな。
それから、学院に戻ってみりゃ、隊長に助けてもらったってのを、同級はおろか上級生にも羨ましがられることになった。
隊長格の戦いを実際見れたのが羨ましいらしい。
・・上級生が二人死んでんだぜ?
浮かれてられっかよ。
そんな騒ぎもじきに収まり、俺たちは院生としての勉強に追われる毎日に戻った。
雛森はあれからとすっかり藍染隊長のファンて奴になった。
おんなじ五番隊になるんだって、死に物狂いで勉強してやがる。
吉良の奴も学年トップを死守してやがる。
俺はというと、剣の腕ならトップを張れるが、鬼道の腕はイマイチなのは変わらねえ。
そして・・・学院卒業前に俺たち3人はは学院長に呼び出されて、告げられた。
五番隊に配属することを。
その時の雛森の喜びようと言ったら、吉良が落ち着けと何度も言ってたくれえのものだった。
俺も藍染隊長の下に行くのは依存なんぞは勿論無え。
そして・・・俺たちは五番隊に入隊した。
藍染隊長に二回目に会ったのはその時だ。
俺たちが執務室に入ることを許されて挨拶に行った。
俺たちが入ると、藍染隊長は片手をあげて「やあ。久しぶりだね。」と人の良さそうな笑顔で迎えてくれた。
挨拶の際、片手を上げるのはどうやら癖みてえだ。
フツー、隊長ともなろうもんなら、少しは偉そうにしたって全然おかしかねえけど、藍染隊長がそんな態度をとった事は一度も無え。
俺達ペーペーにも親切だった。
まさしく命の恩人なわけだが、そんな事は当たり前てな感じだった。
・・マジで出来た人だぜ。
藍染隊長は隊長の中でも、もっとも人格者って言われてるらしい。
その通りだと俺も思う。
入隊して暫く経ったときのことだ。
藍染隊長と話す機会があったんで、院生の時、助けてもらった事を改めて礼を云った。
藍染隊長は「礼なんていいよ。僕は当たり前のことをしただけだからね。」てな感じだった。
丁度良かったんで、ちょっと気になってた事を聞いてみた。
「あの時の虚なんスけど・・何かの新種だったんスかねえ。」
すると、藍染隊長はおや?といった顔をした。
「・・どうしてそう思うのかな?」
「イヤ・・一応虚の勉強とかは学院でやったんスけど・・。
檜佐木先輩が『あいつ等霊圧を消してやがった』って言ってたのを思い出して調べた事があるんスけど・・。」
「・・それで?」
「けど、そんな能力のある虚なんて学院の資料にはなかったんスよね。
まあ、実際の虚とかは違うのかも知れないんスけど。
実際他にもあんなのが居るんスか?」
「さあ・・・僕もあまり聞いた事はないな。
・・・・君の言うように、何かの亜種かもしれないね。」
「ま、突然変異でたまたま、てな感じなんスかねえ。」
すると、藍染隊長がフッと笑った。
「・・君は、案外観察力があるんだね。感心したよ。」
「イヤ・・そんな大したモンじゃないですって。」
それから1ヵ月もせずに俺は十一番隊へ異動になった。
よくは知らねえが、剣の腕の立つ死神をよこせと言われて、藍染隊長も断れなかったらしい。
「・・残念だ。向こうからのたっての希望でね。
だが、同じ死神である限り、僕たちが仲間であることには変わらない。
十一番隊での活躍を信じているよ。」
どうやら、十一番隊てのは護廷十三隊最強を名乗る結構荒っぽいところみてえだ。
けど、俺の性には合ってそうじゃねえか。
更木隊長は藍染隊長ほど、出来た人じゃねえみてえだが、そうそう藍染隊長みてえな人はいねえしな。
やるだけやるさ。
「今までありがとうございました!」
「ああ、元気で。」
異動の挨拶を済ませて俺は五番隊の執務室を後にした。
後の事は知らねえ。
・・・そして・・・。
「阿散井君・・あまり鼻が効きすぎるのも厄介でね・・。
妙な匂いを嗅ぎつける前に、出て行ってもらおうか。」
・・・『出来た男』が呟いた。
なんちゃって。