同胞の儀式(藍染とギン)

『・・・不思議なものだね。
同類というのは隠しても分かる。
・・・それが強い者なら余計にね。

・・・匂いで分かるんだよ。

・・・血の匂いじゃない。
・・・闇の匂いがするんだ。』


ギンが入隊して2番目に配属になったのが、五番隊だった。
そこは人気が高い隊である。
副隊長の藍染が、かなりの人格者で部下の面倒見もいいと、ギンの同期でも、五番隊希望だったものは多い。

配属してギンが最初に会った時の印象はといえば、「なんや、ごっつい黒縁メガネのおっさんやなぁ。」
この程度だった。

穏やかな笑顔を浮かべた藍染。
「君が市丸ギンだね。・・・ようこそ。五番隊に。僕が、副隊長の藍染惣右介だ。」
流れるような低音の美声で話しながら、ギンに目が向けられる。
その時ギンは違和感を感じた。

どこが、というのではない。
目の前の藍染という男は、何処から見ても人格者と呼ばれるに値するだけのことはある。

・・しかし何かが違う。


だが、何処がということは分からなかった。
「市丸ギン言います。どうぞ、よろしゅうお願いします。」

それからギンは五番隊で過ごす事になった。

藍染は完璧だった。
温厚で寛容、そして博識。状況判断能力にも優れ、感情を荒立てるようなことはほとんどない。
隊の者全てが藍染を信じていた。
一種崇拝といってもいい。

しかし、ギンの心の中の違和感は消えなかった。

ある日のことだ。
ギンが書類整理の係となり、藍染の手伝いをすることになった。
いつもと変わらぬ人格者たる藍染。
それを横目で見ながらギンも仕事を手伝っていた。

『何が、おかしい思うんやろ。』
そう思っていたときだ。
「・・何か、僕に聞きたいことがあるみたいだね。」
ズバリと言い当てられた。
「何って仰られましても。」
「では僕から質問しよう。
君は明らかに実力を出していないね。恐らく半分も出していないはずだ。
・・・何故だい?」

更に言い当てられて、ギンも流石に緊張が走る。
「ああ。そんなに警戒しなくてもいい。
誰にも言わないし、君を責めるつもりも無い。
だが、もう少し席官として上に上がれるんじゃないかな?」

「上に行ってもあんまり楽しそうに見えませんので。厄介ごとが増えるだけや。」
「そうかい?僕は君が本来の力を出すと、大変な事になるからだと思ったんだが。
・・正確には『本来の君』と言った方がいいかもしれないが。」

「・・・どうしてそう思われますのん?」
「何故かな。しかし君を見れば分かるんだよ。
毎日が退屈で仕方が無い。
でも本来の君を解放はできない。
・・・危険だからだ。
何時も何か面白いことはないかと探しているね?」

『・・やられたな。』

ギンはそう思った。
ここまで見事に見透かされたのは、初めてだったからだ。
自分の中にある闇の部分。
上手く隠しているつもりだったのが、見事に言い当てられた。

「・・なんで分かりましたん?今までバレた事はなかったんやけど。」
「・・・何故かな。でも僕には分かる。」

その時ギンに、一種の確信が生まれる。
もしかして、藍染もそうなのではないだろうか。

「さて。では君の質問に答えよう。僕に聞きたいことはなんだい?」


「そのメガネ・・・ホンマは伊達やありませんか?」
これはギンの賭けだった。
そして・・。その質問を聞いた藍染はフッと笑う。
「正解だ。・・よく分かったね。」
「なんで、そんなダサいメガネしてはりますの?」
「これかい?人は外見に惑わされやすいからね。人格者のアイテムには悪くないと思っているのだが。
・・ところで、君は何故瞳を見せないんだい?」

「副隊長と同じですわ。眼を見せたら、正体ばれ易うなりますやろ?」
「・・・なるほど。
だが、・・見たいな。君の本当の瞳の色を。」
「副隊長がメガネ取ってくれたら見せますわ。」

提案を面白そうに受ける藍染。
「いいよ?メガネを取ろう。」
そう言って、さっさとメガネを外してしまった。
途端流れ込んできたのは、塵になりそうなほどの強大な漆黒の霊圧だった。

そこに立っていたのは、人格者といわれた男の姿は何処にも無い。
冷酷な王者の姿だった。

圧倒されそうになるのをこらえる。
そしてギンは開眼した。
アイスブルー。
氷よりも尚冷気を放つ色だった。

眼の色を確認した藍染が感心したように言う。
「綺麗な瞳だ。・・・隠すには惜しいね。」
負けじとギンも言い返す。
「副隊長も、そっちの方がよっぽど男前やあらしませんか。」

「有難う。褒めてもらえて嬉しいよ。
・・ギン。僕はもうすぐ隊長になる。
そこで副官を探しているんだが・・・。
君になる気はないかい?」

これには驚いた。隊長が空席になるという話は聞いた事がないからだ。
いや、作るのだろう。・・・この男ならばやる。

・・面白い。
ようやく面白い事が出てきた。
この人について行けば・・・ホンマの自分が出せそうや。

「面白いもん、見られます?」
「保障しよう。」
「つまらなくなったら、後ろから刺すかもしれませんけど、構いませんの?」
「望むところだ。僕が面白くなくなれば、是非そうしてくれ給え。
・・もちろん・・できれば、の話だが。」
「怖わないんですか?ボクみたいなん、副官にして。」
「君くらいで無いと困るんだ。
君は僕の正体に気がついた。
僕は僕を崇拝するよりも、理解する者に副官であってもらいたい。」

「・・変わったお人ですなあ。部下には崇拝された方がええん違いますの?」
「崇拝などという感情は、一切不要だ。僕がこれからやろうとすることに対して、ただ理解して補佐してくれればいい。
かといって、人形でも困る。理解力があり、僕に引きずられない者。
君はまさしく、それに適している。
・・・・どうする?・・ギン。」

目の前にいるのは闇の王。
これから天に立つ者。
・ ・・面白いやないか。

「その話・・乗らせてもらいましょ。」
それを聞き、笑みを深める藍染。予想した通りなのであろう。
「では・・・僕たちは今からは同胞だ。」

藍染の茶色の瞳とギンのアイスブルーの瞳がぶつかり合う。
そこには何も隠すものはない。

同胞の儀式。

そしてその後、二人はいつもの姿に戻る。
藍染は人格者藍染に。ギンは瞼の後ろに瞳を隠す。

そして、何事もなく書類整理を続けた。

ふと、ギンが質問をする。
「副隊長。なんでボクの事分かりはったんですか?」
「ああ、そのことか。簡単だよ。」
「なんですのん?」
「匂いだよ。君の匂いで分かる。」
「匂い?血の匂いでもしますんか?」
「そんな無粋な匂いはしないよ。

ただ・・・闇の匂いがするんだ。・・・僕と同じね。」

それを聞いたギンが肩をすくめる。
「おお怖わ。そんな匂いがしますのん?」

「そうだよ。僕には・・隠せないよ・・ギン。」

ほどなく、藍染は隊長に上がる。
その隊は・・・五番隊である。


前隊長が突如死亡したからだった。


・・・死亡理由は定かではない。



なんちゃって。

inserted by FC2 system