同胞の駆け引き(藍染とギン)
藍染が五番隊の隊長に就任し、同じくギンが副隊長に上がって暫く経った。
隊を運営する業務は煩雑だが、己を磨くことは誰であろうと死神であれば、心がけねばらならぬことだ。
それは、例え隊長であっても同じこと。副隊長ならば尚更だろう。
ギンはあまり努力を好む方ではないが、強くなりたい気持ちがあるのは他の者と変わりはない。
気が向けば、新しい上位の鬼道などに取り組んだりもする。しかし、いくら天才肌のギンと言えど、80番、90番台の鬼道となってくると、直ぐに習得出来ぬものも出ても来る。
そんな時は、ギンは遠慮なく藍染に声をかけていた。
そして、藍染は時間が許す限り二つ返事で承諾する。
藍染は副官が強くなることに、非常に協力的だった。
他の隊では、隊長が副官の修行に付き合うということなど無い。
「副官まで上がってきた者ならば、後は自分で強くなれ」、というのが表向きだが、「将来己のライバルとなるべき者の手伝いを、今わざわざする必要もあるまい。」というのが本音だろう。
藍染の教え方は上手い。
そして、ギンの飲み込みも早い。
ギンは着実に強くなっていた。
しかし、そんなギンも剣の修行には藍染には頼まない。
それどころか、修行する姿すら見せたことはなかった。
そして・・・ギンもまた、藍染が修行をしている姿を見たことが無い。
強いのは解っている。だが、どれほどの強さなのかは解らない。
ギンは次第に興味を持つようになっていた。
「藍染隊長とボクの力の差って・・どれくらいなんやろなァ。」
ギンが強くなればなるほど。
その好奇心は大きくなる。
藍染はそもそも真の闇の姿を殆ど見せない。
ギンのことを同じ闇の匂いを持つ者と評し、ギンの求めに応じてメガネを外した時位のものだ。
温厚かつ完璧な人格者。あの時以来、ギンはその姿しか見ていない。
・・・本当の藍染が見たい。
そう言えば藍染は隙があるなら、攻撃しても良いとさえ言っていた。
「・・・試したろかな・・・。」
そんな物騒な考えがギンの脳裏に浮かぶ。
無論、そんな事をすれば、ギンもただでは済むまい。
浮かびはするが、実際そんなことを実行することはないだろうと思ってもいた。
・そんな折だ。
五番隊には小さいながらも庭がある。花好きの隊員が世話をしているらしい。
その小さな庭には芍薬の花が紫の花をつけていた。
「やあ、芍薬が奇麗に咲いたね。」
藍染は積極的に花に接することはないが、あればその美をちゃんと目に留める男だった。
ギンに向けられた背中。
藍染は花に見入っている。
その時・・・ギンは藍染に一瞬の隙を見た。
『今なら・・・・。』
ギンは思わず刀の柄に手を伸ばす。
しかし、僅かな逡巡の後、ギンは柄から手を離した。
その時だ。
「・・・どうした・・やらないのか?・・・ギン。」
ギンに背を向けたままで藍染が言った。
「!!!!
・・・・・っ。
・・イヤやなあ・・。試しはったん?」
答えるギンの声が震えなかったのは称賛に値するだろう。
何故なら・・・藍染の声は間違いなく、『本当の藍染』のものだったのだから。
「このところ、君があまりに腕を試してみたそうだったからね。
・・顔に出ているよ・・?ギン。」
「藍染隊長も人が悪いですなァ。わざと隙作るやなんて。」
そのまま芍薬に目を落としながら藍染が問う。
「・・で、止めた理由を聞かせてもらえるかな?」
「・・なんでやろ・・。ボクにもよう解りませんのや。」
すると、藍染が首をまわしてギンを見る。
「・・・そうか。」
・・・その時の、クスリと笑った藍染の顔は・・・・。
・・・間違いなく闇に属するものだった・・・。
『・・ホンマ・・今やらんでよかったなァ。』
・・・ギンが命を拾ったと思った瞬間である。
なんちゃって。