ガキとボイン(日番谷と乱菊)

「この度、副官候補なのじゃが・・実力で言うと松本乱菊あたりがよいと思うのじゃが、どうじゃ?日番谷隊長。」
十番隊隊長となった日番谷の最初の仕事は副隊長であり、自らの副官となる者の選定だった。
日番谷に、乱菊を進めているのは総隊長の山本だ。
なんせ、物凄いスピードで隊長まで上り詰めてきた日番谷だ。
護廷十三隊にどんな人材がいるのか、把握できてはいないと、山本は考えたようだった。

「・・松本乱菊。ああ、あの金髪の女性死神ですか。」
「おお、知っておったか。流石は日番谷隊長じゃ。
そうじゃ、その金髪のボインの女性死神じゃ。」

ボインは余計だろうと思いつつ、日番谷の頭の中の記憶領域からは乱菊の画像が引き出されていた。
まともに話した事はないが、確かに霊圧は高かった。それに総隊長が勧めるくらいだ。
実力は確かなのだろう。

「俺に依存はありません。総隊長が勧められるほどの奴なら特に。」
時間は貴重だ。あれこれ選んだとしてもそう大きな差があるとは思わない。
それにそんな時間があれば、早く副官を決めて、十番隊の職務を軌道に乗せたい日番谷だった。

そんな日番谷を何やら意味ありげに、ちろりと横目で見る山本。
「・・大丈夫かの?」
「何がですか?」不審げに日番谷の眉根が寄せられる。
「おぬしは若い。若すぎるくらいじゃ。
そんなお主に松本はちと刺激が強すぎるかも知れぬと思うてのう。」

直ぐに何を言われているのかわかった。
要するに、山本は自分が松本に現を抜かしてしまうのではないかと、危惧しているわけだ。

「心配しなくても結構です。
俺のタイプじゃありませんから。それに副官にそんな気も起りませんよ。」
言下に言い捨てた日番谷に、山本が感心したように言う。
「うむ。流石じゃ。
それでは、そのように取り図ろう。
まだ、まともに話したこともあるまいて。実はお主が直ぐに承諾するとはわしも思わなんだののじゃ。

本人と会って決めるかと思うてのう。今、ここへ呼んだ所じゃ。
はて、まだ来ぬかの。もうついてもよい頃なのじゃが。」

「俺はこれから隊に戻って、やることが沢山あります。
待つ時間が惜しいので、松本には十番隊に来るよう、話してくれませんか?」
「それは構わぬが。」

「ありがとうございます。では失礼します。」

すたすたと隊首室を出ようとしたその時だ。扉を開こうと手を伸ばそうとすると、扉の外から声がかかった。

「松本乱菊、ただいま参りました。」

件の松本が来たらしい。
「おお、松本か。いい所に来た。入れ。」
「失礼します。」

そして、扉が開かれた。

日番谷は133センチしかない。
だから、彼以外の死神はすべて彼より大きい。
自然に人を見るときには見上げる癖がついている。

そして、その見上げた先には・・・松本乱菊の顔は無かった。
下から見上げた先には・・巨大な松本の胸が視界を遮っていたのである。
正確には、その先に乱菊の顔があるはずだ。

『・・・・・・・。
どうやったら、こんなにでかくなりやがんだ・・・・。』

かくして、日番谷が最初に乱菊に見えるのは、乱菊の乳となった。


一方、乱菊の方はと言うと・・。
「おお、松本か。おぬしに今度十番隊の副隊長をしてもらうことと、相なった。

そこの日番谷隊長にもたった今、承諾を得たところじゃ。
おぬしも挨拶しておくとよいじゃろう。」
「それは・・どうもありがとうございます。」

言いつつ、乱菊は『そこの日番谷隊長』なるものを見ようと視線を巡らせた。

居ない。何処にもだ。

「・・・?」
その時、乱菊の乳の下から声がした。
「どこを見てる。此処だ。」

とうとう自分のおっぱいは喋る様になったかと、一瞬飛びあがらんばかりに驚いた。
しかし、乳の下から銀髪が見える。

体を引くと、そこには少年がいた。
腕組みして、下から睨みつけている。
身長はどれくらいだろうか。完全に胸の下だ。
今度、就任した日番谷隊長が少年であるとは知っていたが、ここまで小さいとは。

小さい体ながらも、ちゃんと一人前に隊長羽織をはおっていた。

『か・・・かわいい〜〜〜!!!』
思わず口から飛び出そうになるのをなんとか、押さえた乱菊。

それが、乱菊が副官として上官である日番谷にした最初の仕事となった。


「松本だな?
俺は日番谷冬獅郎。今度、十番隊の隊長になった。
総隊長から、お前を副官に推薦された。

もし異存があるなら、今言ってくれ。」

実に簡潔だ。見かけは完全に子供なのだが、話し方はベテランの死神のようだ。
「いえ・・。光栄です。」

「なら、頼めるか?」
大きな目からは射抜くような眼光が放たれている。

『流石は隊長就任最年少記録を作っただけの事はあるわね〜〜。
どうどうとしてるじゃない〜〜。

面白くなってきた〜。』

「はい!よろしくお願いします!」



かくして、子供の隊長と、悩殺バディの副官の奇妙なコンビが誕生した。


数百年に一度と言われる天才児で、加えて隊長就任最年少記録を作った日番谷だ。
乱菊は、当初日番谷がさぞかし、才能を鼻にかける生意気なガキだろうと思っていた。

しかし、実際は違った。

日番谷は、才能を鼻にかけるどころか、それが当然と言ったように、仕事をこなして行く。
子供でこれだけの仕事をしているのだ。
普通の子供ならば、大いに自慢する所だろう。隠そうとしても、どこかに自負がどうしても出るものだ。それが子供なのである。

しかし、それすらない。
感情の起伏も激しくなく、忍耐力も相当ある。判断も的確。仕事のスピードは舌を巻いた。
出来た子供だった。

いや、出来すぎの子供だ。
さぞかし、自分がフォローに回らなければならないだろうと、覚悟していた乱菊は、見事な空振りを食らった。
喜ばなければならないのだが、乱菊には日番谷が何所か無理をしているように見えた。
無論、そんな素振など何処にも見せないのだが・・・。

感情を殺し過ぎて、無理に大人になろうとしている。

そんな風に、乱菊には思えた。
この先、付き合いは長くなるはずだ。
全てを押さえつけ、コントロールするのが大人ではない。
抑えるところはもちろん、押さえなければならないが、解放する所は解放する。
それが出きてこそ、人はバランスが取れるものだ。

だが、目の前の天才少年は完璧な隊長として、今日も精力的に仕事を片付けている。

「なんで、日番谷隊長はこんなに魂つめて頑張ってるのかしら・・。」
理由は直ぐに分かった。
雛森だ。
雛森と日番谷が話をしているのを見てピンときた。

『なるほどね〜〜。そういう事か。
隊長も、可愛いところあるじゃない。』

雛森の上官は藍染だ。理想的とされる大人の男そのものと言っていい。
分別があり、温厚で、博識。

日番谷は藍染と張り合おうとしているのだ。
・・もっとも、本人は絶対に否定するだろうが。

「でも・・やっぱり頑張り過ぎるのはよくないわね。
適度にストレスは抜いてもらわなきゃ。」

日番谷の鉄でできたような堪忍袋の緒を切りたい。
一度、自分を発散することができれば、ずいぶん楽になるはずだ。

乱菊は考えた。

そして・・・仕事をサボる様になったのである・・・。


最初は、理性的な上司として、注意してきた。
これはすでに予想済みだ。

ようは、何処までもつかの世界だ。

そして、10回目のサボリの時に、とうとう日番谷の堪忍袋の緒を切った。

「松本〜〜〜〜!!!
てめえは、仕事を何だと思ってる〜〜!
遊びで此処に来てんじゃねえ!!!」

緒が切れても、子供らしいとは程遠いが、日番谷の本当の部分が出た瞬間だ。
クールで仕事の出来る隊長だが、本当は熱い。
日番谷の本当の部分が見ることができたのだ。

「すいませ〜〜ん。」
しょんぼり頭を垂れた乱菊だが、心の中ではガッツポーズを取っていた。


それからというもの、ずい分とスムーズに意思疎通が図れるようになった。
日番谷は怒鳴る事を大人げないとどうやら、考えているようだが、たまには怒鳴って発散することも重要だ。

そんな折、日番谷がそれまで、言いたかっただろう事をようやく言った。

「松本・・お前、その胸元もうちょっとどうにかならねえのか。」

とうとう来たか、と乱菊は思った。
最初に言われるかと思ったのだが、よくもったものだ。

「え?開きが足りません?でもこれ以上広げると、流石にポロリしちゃうんですけど〜〜。」
「バカか、てめえは!!逆だ!!逆!!!
もっと隠せと言ってるんだ!!」

それに、乱菊はこう答えた。
「一時は隠そうと努力した時もあるんですけど・・止めたんですv」
「どうしてだ。」
「だって、流石にここまで大きくなっちゃうと、どうやったって、隠せないんですよね〜。

どうせ隠せないなら堂々と出した方が、あたしの性に合ってるんです。」

「・・分らねえな。そういうもんか?」
「一時は、おっぱいのことでずい分悩んだこともあるんですよ?これでも。
だって、みんなおっぱいのことしか覚えてないんですもの〜。
でも、あたしはあたし。

おっぱいも含めてのあたしですからね。
堂々と!!胸と張って付き合うことに決めたんです。」

ふん!と目の前で胸を張る乱菊に、少し驚いたような顔を見せた日番谷は、その後「・・そうか。」と少しだけ和やかな顔を見せた。


「知ってます?他の隊の連中はあたしたちのこと『ガキとボイン』とか言ってるらしいですよ?
そんな連中たち見返してやりましょうよ!」
「あたりまえだ。」

「それで、かっこいい『ガキとボイン』て言わせましょうね!!」

「・・結局『ガキとボイン』てのは取れてねえだろうが。」
「もう〜〜!隊長ったら〜〜。
細かい事は気にしないの!ね?!」
「お前が気にし無さ過ぎなんだ。」
「ええ〜〜?そうですか〜〜?」


優秀すぎるガキの隊長と、サボリ気味のボインの副官。


奇妙ながらも不思議とバランスのとれた十番隊の誕生である。。




なんちゃって。

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