眼科医、ウルキオラ・シファー

・・・人を印象付けるもっとも大きな要因になるのは目だという。

人類は、二足歩行を取り入れることで、野生としての様々な能力を失ったと言われる。
人類は肉食獣や草食獣に比べても圧倒的に走る速度は遅い。
そして、力も強くは無い。噛み切る能力も脳を肥大化させるために退化した。

その中で僅かでも野生の欠片が残っている能力・・・それが視力だと言われている。


・・・・巨大基幹病院、BLEACH。

そこに患者の層が極端に分かれている診療科目がある。

その患者の層とは、老齢の患者と若年層だ。若年の方は女性が多いのが特徴だ。
年寄りの同窓会となりかかっている集団と、その老人パワーに完全に負け、ただひたすらに沈黙して順番を待つ若年の患者たち。
見事に分離しているのが印象的である。

彼らは一応にこの診療科を受け持つ一人の医師に会いにやってくる。
目的は、野生の能力の欠片である、視力を取り戻すためだ。


・・その医師は、眼科医。名をウルキオラ・シファーという。

小柄でどちらかと言えば童顔なため、年齢よりかなり若く見られがちなのだが、腕は超一流だ。整った顔立ちをしているため、ファンは多い。

ただこの医師、愛想の欠片もないどころか、笑った顔をどの患者も見た事がない。
訊けば看護師すら見た事がないという。

少年にすら見える無愛想なウルキオラだが、若い女性と何故か年寄りにうける。
そして、今日は笑った顔が見れるのではないかと、淡い期待を抱いて患者たちは待合室に望んでいるわけである。

「あら、お久しぶり〜〜。いやだ、こんな所でお会いするなんてねえ。貴女も目の手術?」
「そうなの〜〜、こっちの眼はもう手術したんですけどね?今度こっちなのよ〜〜。」
「あら、そう〜〜、あたしは初めてなのよ〜〜。隣の奥さんに勧められて来たの。
ここの先生が可愛いし、腕もいいから行ってみたらって、言ってくださってね?
どう?手術した方は?」
「いいのよ〜〜!すごく見えるの。世界が変わった感じかしらね。白内障の手術でこんなに違うとは思わなかったわ〜。先生も可愛いしね。」
「そうそう。まだあの先生独身なんでしょう?」
「うちの孫をお嫁にもらってくれないかしら。まだお嫁にいってないんだけど。」
「ああ!あの小さかった、まあちゃん?!」
「もう、25歳なのよ〜。」
「まあ!そんなに大きくなったの?そう〜。いいじゃない。言ってみたら?」


そして、そんな老人たちのよもやま話に盛大に突っ込みを入れる若い女性たちの頭の中はこんな感じだ。
『冗談じゃないわよ!!!あたしのウルキオラ先生に何してくれんのよ!
ウルキオラ先生はアイドルなんだからね!』
・・かなり激しい。

「はい、次の方〜。」
看護師に言われて若年の層の方の患者が診察室に呼ばれた。
ウルキオラはいつもの無表情で応対する。
「・・・今日はどうした。」←若年層に敬語は使わない
「コンタクトをしてるんですけど・・痛くて痛くて・・。」
「診せてみろ。」

患者の顔を左手で軽く固定するとウルキオラの顔が近付いてくる。
紺碧の大きな目。ほとんど瞬きはしない。
瞬きは、大人の男性で1分間に20回ほどが平均とされているが、ウルキオラは10回を切る。
その瞬きの極端な少なさもウルキオラの眼力の一つとなっていた。
全く感情を映さないウルキオラの眼の言い知れぬ迫力に押され、思わず頭が後ろに逃げてしまう。

「・・逃げるな。俺を見ろ。目をそらすな。」
囁く様に言われると、今度は魔法にかかったのように、目をそらせなくなる。
『・・ああ・・これが医師として言われているのではなく、彼氏として言われていたら・・・。』

軽く妄想に入る患者。(笑)

「・・確か1週間ごとに使い捨てるタイプのコンタクトをしていたな。」
「・・はい・・。(うっとり)」
「角膜に腫瘍がある・。1週間以上使い続けていただろう・・。
細菌性だ。」
「・・すみません。」
「切除していくか?・・今日。」

『ああ〜〜!、これが「泊まって行くか?・・今日。」とかだったらな〜〜!』と思いつつ、患者は「・・・お願いします。」と二つ返事。

そんなプチ妄想の旅に出ている患者の心境などどうでもいいかのように、淡々と切除し点眼を処方し、送りだすウルキオラ。患者の秋波などどこ吹く風だ。

そして、今度は老人層の患者が入ってくる。
「こんにちは、ウルキオラ先生。」
「ああ、こんにちは。」
「実は話があるんだけどねえ。」

診察の前から世間話を繰り出そうとする患者にウルキオラの先制パンチが飛んだ。
「・・お孫さんの話なら、お断りします。ちなみに今日で4回目ですが。」
「おや?そうだったかねえ。あたしも年を取って忘れっぽくなってねえ。」

思わず隣にいた看護師が噴き出しそうになる。
『ついでに言えば・・その手のお話をされたのは今日で3人目なんですけどね。』

年寄り受けをするのは大体が愛想のいい者なのだが、ウルキオラは違う。
笑いの一つも、無駄話の一つもこぼさないが、仕事ぶりは非常に患者に誠実だ。
恐らく、それが年寄りには分かるのだろう。

今日もウルキオラは患者の眼を診続ける。


人類に残された野生の能力・・・視力を取り戻させるべく、ガラス玉と揶揄されるその紺碧の眼で診続ける。

そして、今日も待合室は完全な二極化だ。





なんちゃって。


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