外科医、檜佐木修兵(基幹病院BLEACH)

・・・巨大基幹病院、BLEACH。


夜も更けた頃だ。午前3時。

関係者しか使えぬ洗い場で、水音がしていた。
水道の豪快な水音だ。


一人の男がこちらに背を向けて顔を洗っている。
顔を洗うというにはあまりにワイルドだ。
男は術衣の下だけを穿いた状態だ。
裸の背中には見事な筋肉が浮いている。
ずいぶん引き締まった体だ。
ボクサーの肉体のように。

男はそのまま頭を水道の下に突っ込んだ。
水流が激しいため、背中を水が伝っていく。

男の右手が蛇口に伸び、水道を止める。
そして姿勢を元に戻した。
その勢いで飛んだ水滴が無機質な電光に照らされてキラキラと光る。

左手で傍らにおいていた黒いタオルで無造作に頭を拭く男。


それが・・・。

巨大基幹病院、BLEACHに勤務する外科医、檜佐木修兵だ。


アメリカのERで3年間の実践を積み、高い評価を受けていた彼は、いわば鳴り物入りで病院に迎え入れられた。
執刀数にこだわる彼は、手術の内容にはほとんど拘らない。
どんなに長時間かかった手術の直後であっても、手が空いていれば次の執刀に入っていく。

タフで正確。
おまけにアメリカ帰りを鼻にかけないため、医師の間でも評価は高い。
少しばかり無愛想なのがたまに傷といったところだが。

「なんか、犬の行水みたいっスね。
ちゃんとシャワーあびたらどうなんスか?」
修兵に声をかけたのは、整形外科医の阿散井恋次だ。

「・・・めんどくせえ。またどうせ、オペが入るしよ。」
言うや、そのままタバコに火をつける修兵。
時間が許す限り、修兵はタバコを手放さない。
昨今の禁煙ブームで、同僚に禁煙とまでは行かなくても、節煙してはどうかとの話に彼はこう答えた。
「タバコやめるくらいなら死ぬ。」

シャワーを浴びても、彼の体からはタバコの匂いがするという。

「・・・お前は?今日夜勤か?」
「そうなんスよ。」
「・・聞いたぜ?昼間の騒動。」
「げ・・・先輩のところまで話が行ってるんスか?」
「まあな。」

事の顛末はこうだ。
K−1選手が肩を外してしまい、病院に運ばれてきたものはいいのだが、治そうとした医師を痛みのために、ぶっ飛ばしたらしい。
そのまま暴れそうになったのを、駆けつけた恋次がその男に問答無用でみぞおちに一発お見舞いした。
ショックで大人しくなったのを幸いに、そのまま恋次が肩を入れてしまったのである。

そこで収まると思いきや、今度はK−1選手の所属事務所の社長から「うちにこないか」と熱心に誘われたらしい。

「・・で?K−1に行くのか?」
「行くわけないでしょうが!」
「そうか?元医者のK−1選手なんざ、結構ウケると思うがな。」
「冗談止めてくださいよ。
それより・・・また緊急オペ受けたんすか?」

「ああ。交通事故で内臓破裂。つぶれた小腸と大腸を切ってくっつけてきたところだ。」
2本目のタバコに火をつける。

「切ってくっつけるって・・。」
「お前のところも似たようなもんだろ。そっちは骨だが。」

「しっかし、タフっすねえ。
流石はあの外科部長の石田竜弦先生から一目おかれてるだけあるよな・・。」
「置かれてねえし、俺嫌われてるぜ?
なんていってたっけな・・。オペにロジックが無いんだそうだ。」

「言いそうっスね・・。
脳外の藍染副院長とは絶対同属嫌悪だな・・。」
「そんなお偉いさんのことは知らん。」

3本目のタバコに手が伸びたところで、修兵のポケベルが鳴る。
また手術を要する患者が緊急で運ばれてきたようだ。

「人気者っスねえ」
「・・タバコくらい満足に吸わせろよな・・。」
言いながら、新しい術衣に手を通す。

頭にはまだ水滴が残っている。
そして、足早に歩いていく。

出向く先は戦場だ。
消えかかっている命の炎を守るための戦場である。


「行ってらっしゃい〜〜。」
今日は暇そうな、恋次だがこの2分後、階段を転げ落ちて複雑骨折した緊急患者の為に召集がかかることとなる。


基幹病院BLEACH。
今日も医師たちの戦いが繰り広げられている。



なんちゃって。

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