技術開発局のサリエリ (涅マユリ)

キミは神の存在を信じるかネ?


私は信じているヨ。
意外かネ?無理もない。私は研究者だからネ。
私も最初は信じていなかったヨ。

だが・・・今は信じているヨ?
もちろん見たわけじゃあない。

神に愛された者を知っているからだヨ。
それも一番近くで見ていた。
そう・・・ずっとだ・・・。


私は神の存在を信じているヨ。


なぜなら・・・

・・・神を憎んでいるからネ・・。

あの男は私の数年先輩だった。
学院時代から、研究者だった。

私も学院時代から研究に没頭していた。
いくつかの作品を作ったこともある。

だが・・・一度も日の目を見なかった・・・。

常に比較されていたからだヨ。
天才の「あの男」とネ。

「あの男」が隊長になり、技術開発局が開設された時に副官として選ばれたのがこの私だ。
死神としての能力と研究者であること。
この二つがあったからだろうネ。

実はこのとき初めて「あの男」と会ったんだヨ。
それまで比較し続けられていながら一度も顔を見たことがなかった。

天才・・浦原喜助・・。

どのような研究者かと思えば、意外も意外、金髪の優男だった。

こんな優男が・・・あの「浦原喜助」だと・・?

私は絶句した。
天才といわれるだけの威厳も、風貌も・・何一つ私の思い描いていた人物とはかけ離れていたからネ。

失望したヨ・・だがそれは仕方がないことだ。
共に仕事をすれば、印象も変わるだろう・・・。
そう思っていた。

・・・しかし・・・更に私は失望を重ねることとなった。

まったく研究をしないのだヨ・・。
ぐうたらしてばかりだった。
私が何日もこもりきりで研究を重ねているのに、「あの男」はまったく研究室にすら入らず惰眠をむさぼっているじゃあないか・・!

そうして5日ほども過ぎただろうかネ・・。
ふらりと研究室に入ってきたんだヨ。

そうして・・・5時間後・・・・。

私は神のみ業を見ることになる・・・。

完成品は・・・もはや芸術の域まで達していた・・。
義骸・・・そのシンクロ率を、それまでの限界地といわれていた7割から9割8分まで同調させる変換機だった・・・。

たった5時間・・・。
この僅かの時間で「あの男」は私の10年以上の研究を超えてしまっていた・・。

シンクロ率の向上・・・この私も研究していた・・・。
10年もネ・・。

私はその時、神の存在を知ったんだ・・。
・・・研究の神。
そして「あの男」はその神に愛された男なのだとネ・・。

私はより研究に没頭するようになった。
なんとか「あの男」の目を明かしてやりたかった。

神に対しての・・・挑戦が始まったのだ。

「あの男」は・・私が長時間かけて成し遂げた研究成果を一目で欠点を見破り、その改善点を述べた・・。

・・・どんなに努力してモ・・・どんなに研究してモ・・・。
「あの男」には敵わない。
研究すればするほど、神との差を見せ付けられる結果となる。

・・・何故ダ。
・・・何故なんだネ・・・!!
・・・何故あんな戯れ程度にしか研究開発しない男が、神の寵愛を受けているのダ!!

真っ先に良心を捨てた。
あの男を超えるためならなんでもしよう!!
この肉体も、この魂も・・イヤ・・他の生贄をささげることもしようじゃないかネ!!

神ヨ・・。
研究の神ヨ・・!!
あなたが生み出した研究を私ほど愛し、私ほど身をささげているものはいないだろう・・!!
なのに何故にあなたはその寵愛をこの私ではなく、「あの男」になさるのかネ・・!!

何故・・・!
何故こんなにもあなたのみ業をこの私に見せ付けるような業をなさるのかネ・・!!

・・・苦しい。
・・・苦しいネ・・。
気が・・狂いソウダ・・・。


・・・そんな時だったヨ。
いなくなったんだ。
「あの男」がいなくなったんだヨ。

急だった。
私は何も知らない。

だが・・・私は安堵したヨ・・。


何故なら・・・もう苦しまなくて済むと思ったからネ。
もう・・・神と自分の埋めがたい差を見せ付けられずに済む・・・。


あれから100年・・・・。
私は「あの男」の後釜を担っている。

必死で研究してきたがネ・・・。
まだ「あの男」を超えたと言える研究成果は得られていないヨ。

「あの男」が生きているのは知っている。

流魂街の西地区に姿を現していることも知っているヨ。


だが私は探さない。



キミは神の存在を信じているかネ?
私は信じているヨ。


・・・そして

・・・・誰よりも恨んでいる・・。




そう言えば・・・

「あの男」は子供だけは作っていなかったネ。

ネム。

私の魂魄を分け与えて作った実の娘だヨ・・・。
罰則ギリギリの私の作品・・・。

唯一、「あの男」が作っていないものが子供だなんて笑わせるネ・・・。



全てを捧げようじゃないかネ・・。
私の全てを・・・。
そのための苦痛ならば厭わないヨ・・。
この肉体さえ研究の為のただの道具に過ぎない。



神よ・・・。

あなたの愛した「あの男」を超える・・。

それ以外に私は何の興味もないネ・・・。




なんちゃって。

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