平民の礼節(白哉と藍染)

「隊長就任おめでとう、朽木隊長。
君ほどの能力がある者が隊長に就任してくれれば、護廷十三隊も安泰だね。

改めて、よろしく頼むよ。」
「・・・・藍染か。」

・・以上が隊長就任時における藍染と白哉の会話である。
藍染の好意的な言動に対し、「うむ、こちらこそよろしく頼む。」だの「最初は不慣れゆえ、行きとどかぬこともあろうが、最善を尽くす所存だ。」などと言うような、社交辞令の言葉は、白哉には無論無い。

貴族の頂点に立つ白哉にとってはそれが当然だったからである。



・・・白哉が当然と思われつつも鳴り物入りで隊長就任した際、同じ隊長たちの態度は多くが冷ややかなものだった。

四大貴族、朽木家当主にして、歴代最強と謳われる男だ。
普通の平民であれば、姿すら見ることは生涯無いだろう存在である。
ただでさえ、近寄りにくい肩書にくわえ、美形ではあるが無表情の上に無口だ。

人と話す際にも、余程でなければ、目だけをこちらにむけて用件だけを伝えるのみ。
およそ、愛想などというものは無い。

そして、護廷十三隊の隊長陣は平民出身は半数を超えている。
しかも悪いことに、白哉よりも先に隊長になった者も多いのだ。

基本的に縦社会の護廷十三隊。
隊長においては最早先輩後輩という関係は無いとされているが、先に隊長になった者からすれば、後輩は後輩だ。

隊長になりたての湯気が出そうな若造が、目だけこちらへよこして物を言うのでは、印象が悪くなってもおかしくはあるまい。

しかしながら別に白哉は貴族だからだとか平民だからとかで態度を変えるような事はしない。
何故なら彼からすれば、彼以外の者はすべからく身分が下だからだ。
つまり、白哉は誰に対しても剣八あたりに言わせると、「人を犬だか猫みたいな目で見やがって。けっ、気に入らねえな。」という態度を取っていることになるのである。

その印象が悪い白哉に対し「朽木隊長」と呼ぶ者は少ない。
そもそも白哉自身が「〜隊長」などと呼ばないのだ。逆に「隊長」をつけて呼ばれることを期待する方がムリがあるだろう。
「朽木隊長」と呼ぶのは総隊長の山本と四番隊の卯ノ花・・・・そしてもう一人のみである。
それが藍染だった。

白哉が年長の藍染に対し、呼び捨てにするのに対し、藍染は必ず隊長をつけて白哉を呼ぶ。
妙にへりくだった態度などは見せぬが、珍しくも温良恭倹な平民の礼節の在る男だと、白哉は藍染を評価していた。

注)温良恭倹(オンリョウキョウケン)
意味: 温和でやさしくおだやかに、人をうやまってつつましく接すること。

・・かといって態度が変わるわけではないのだが。


一方藍染の方はと言うと・・・。
白哉という存在に素直に感心していた。

この世に貴族の要素と言う物が存在するのなら、その結晶となったものこそが白哉だと。
それほどまでに白哉は貴族そのものとして藍染には映った。

生まれながらに人の上にあるのが当然という事に、疑問をもった事など無いだろう存在。
誰も覚えていないだろう隊則まで厳格に守ろうとする融通の利かない性格。
自分の感情を上手く表現できずに、つい威圧してしまう不器用さ。
どんな時でも、貴族にふさわしくあらねばならぬと言行枢機な態度。

注)言行枢機(ゲンコウスウキ)
意味 言葉や行動は、人として最も重んずべきものであるということ。

特権階級も退廃時には、他の者には掟を守ることを強要するものの、自ら努力は何もしないという特徴を持つが、白哉は自ら模範として律しているところは評価に値すると考えていた。

・・もっとも・・その掟とは彼ら特権階級が存続するために平穏たらんと作られたものだ。
彼らがそれを守ろうとすることは、単なる自己防衛に過ぎないと考えてもいた。
それすら出来ぬ特権階級の者は滅びるのみだ。

その意味で白哉は賢明だともいえる。


因循守旧な白哉・・。

注)因循守旧(インジュンシュキュウ)
意味 :旧習を守って改めようとしないこと。しきたりどおりにして改めない。

長く続く名家、朽木家。
堅牢な歴史を誇るものは意外と外圧には強いものだ。
当然だ、外部を排除して生き残っているのだから。

・・だから、崩れる時は内側から崩れていく。


名家と言われた所もいつかは衰退するものだ。
かっての大貴族だった志波家もしかり。


『いつか・・・その崩れさる様を見たいものだね。

君がどんな滅びの舞いを舞ってくれるか楽しみだ。


さぞかし大貴族にふさわしい典雅な舞になることだろう。』


大貴族にふさわしい脚本を書くこと。


それが・・藍染の考える平民の礼節だった。




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