悪夢(握菱鉄裁)


君たちは鬼道衆というものをご存じか?

さよう。鬼道を扱うことを専門とする者たちの事ですな。
主に攻撃を目的とした破道、そして主に攻撃補助を目的とした縛道。
この二つを用い、戦闘をより有利に進める。
それが我等鬼道衆の役目。

されど、我等鬼道衆はあまり人気のない部隊であることも事実。

鬼道衆になるには、死神と同じく真央霊術院を卒院することが一般的と言えましょう。
だが、そこで学ぶ若者たちのほとんどは鬼道衆ではなく死神を目指すの若者たちがほとんど。鬼道衆を始めから目指す若者は少ないというもの。

それは、我等が最前線に立って戦うわけではない事が、若者にとって無力的には映らないからでしょうかな。
戦闘に於いて、我々鬼道衆は死神たちの後方に居るもの。後方から死神たちの戦いを補助する。それが我等の戦い方。
派手さを求めるならば、死神の方が華やかと言えましょう。
それに鬼道は鬼道衆だけではなく、死神も使いますしな。

それゆえ、鬼道衆は死神と比べて数も少ない。
それだけに、我等鬼道衆は鬼道に於いては誰にも負けぬという気概で日夜励んでおります。
心のどこかで、鬼道においては死神などには負けてなるものぞ、という部分もございましょう。

鬼道とは非常に扱いの繊細なものでしてな。
ただやみくもに放てばよいというものではない。
詠唱の一つ一つに隠された術のバランスを正確に読み解き、調節して詠唱せねば、本当のその術の効果は発揮されませぬ。
同じ鬼道を放つのに、鬼道衆と死神とでは大きな効力の違いが生じるのは、その部分が出来ているかどうかの違い。
鬼道衆に求められるは、いかなるときにも術のバランスを崩さぬ、精神力と調整力なのですな。
それを極めれば、詠唱破棄、多重詠唱が出来るようになる。
ただ、それらを本来の効果を落とさずにやるとなれば、更なる研鑽が必要となる。

それでも我等鬼道衆はやり遂げようと致します。
どれほど時間をかけようとも。どれほど危険なものだろうとも。

・・何故なら我等は鬼道衆。
鬼道において我等に勝る者は無い。
その矜持が我等にあるからでございましょう。

魂魄消失事件。
私の耳に入ってきたのは、相当被害が出てからのことでございました。
実に面妖な事件です。
そして、山本総隊長からこの私に出動依頼が来たことからも、その面妖さがうかがいしれるましょう。よもや六車九番隊までもがやられるとは・・。
3名の隊長の戦闘の補佐を、大鬼道長である私と副鬼道長である有昭田で行う。
恐らくこれ以上の布陣はありますまい。

考えられるとすれば、新種の病なのか・・?
それとも・・・人為的なものなのか。
あまり、後者の方は考えたくありませんな。

・・へたをすると、我等身内から裏切り者が出かねないですからな。

一番隊舎へ向かえば、お気の毒にも浦原殿は相当の動揺をしておいでだった。
浦原殿は仲間を大事にする方。それは四楓院家に共に身を寄せていた時に私もよく承知している。
行ってはならぬといわれ、たいそうご心配なようだ。

・・このままでは済みますまい。

なんとかして、抜け出し部下を救いに行こうとするに違いない。


・・なんなのでしょうな。この言い知れぬ恐怖は。
これを恐らく浦原殿も感じておられるはずだ。
得体の知れぬ恐怖。恐怖の元になる物さえ解らない。
なにかとんでも無い事になっているのではないか。そんな漠然とした恐怖。

行きましょう!浦原殿!
私も部下を行かせた身!この言い知れぬ恐怖が何なのかを確かめましょう。そしてその恐怖を滅するのです!

行った先には・・想像を絶する光景が広がっておりました。
その場に立っているのは、なんと五番隊の副隊長。そしてその仲間二名。
我等の中から裏切り者が居ようとは・・!
有昭田も含め、倒れ伏した者たちは一応に奇妙な仮面をつけている。

・・こんなものは見たことが無い・・!これは一体・・!

浦原殿は「虚化」だといった。それを聞くや、藍染が豹変いたしました。
戦うか?と身構えたのですが、あっさり藍染は立ち去る様子。

おのれ!逃がしてなるものか!
平子殿達の無念を晴らさずしてなんとする!

「お避け下され、浦原殿ォッ!!!
破道の八十八!!『飛龍撃賊震天雷炮』!!!!!」


この瞬間、私は「殺った」と確信しておりました。
この距離からこの術を喰らえば、外すことなど考えられない。
卑しくも私は、大鬼道長。

詠唱破棄しようが、この術の効果は損なわれてなど、おりませぬぞ!!
怒りの鉄槌を喰らうがいい!逆賊め!!

・・・その後は悪夢としか言いようがありませんな。

「縛道の八十一。『断空』」

『ほう!「断空」を詠唱破棄か!なかなか敵もやる!
だが、お主ごときの縛道でこの私の鬼道が防げると思うは片腹痛し!』

藍染の術がある程度の防御となることは想像はしていた。だが、私の鬼道がそれを打ち破り藍染一味を焼き尽くす。
私はその確信があった。

そして、実際は悪夢を見ているようだった。

”副隊長ごとき”が詠唱破棄した「断空」で・・・
・・・この私の八十八番の破道が止められるとは。
しかも完璧にだと・・?藍染には傷一つつけられんだと・・?

<大鬼道長の破道より・・副隊長の縛道が上だっただと・・・?>


「・・・・・・・・・・・莫迦な・・・・。」

・・それより他に言うべきことがありますかな?
藍染はものの見事に、逃げ通し・・後には、無残な姿の仲間たちが残るのみ。

平子殿が苦しみ出します。どうやら症状が進んでいる様子。
浦原殿はその対処方法を知っておられる様子。

彼等の命を救う可能性はまだ残されている!
ここでは対処が出来ぬというなら、十二番隊の隊舎に移すのみ!

早くこの悪夢から覚めるのです!いや、覚めねばなりませんぞ!

「今から彼等八人全員をこの状態のまま十二番隊舎へ運びます。」

平子殿達も。

「”時間停止”と“空間転位”を使います。」

浦原殿も、そしてこの私もです。
早くこの悪夢から覚めねばなりません。

「どちらも禁術。故に今より暫しの間。耳と眼をお塞ぎ頂きたい!」



・・・なんとしてでも!





なんちゃって。
 

 

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