アニメ168話のいじり

「・・・最悪だ・・・。」

吉良イヅルは呟いた。

最初は聞くつもりはなかったのだ。三番隊の隊士たちのやり取りなど。
隊へ聞いたことも見たことも無い新隊長が配属されると知らされて、動揺が広がっているのは解っている。
イヅル自身、心の動揺は収まっていない。
気分を変えようと思って、隊の回廊に出た時に、そのやり取りを偶然聞いてしまったのだ。

「・なあ、ホントにウチに隊長配属されんのか?」
「そうなんじゃねえか?だって一応通達来てたしよ。」
「って、なんでウチなんだよ、五番隊も九番隊も隊長は不在なんだろ?」
「そりゃ〜〜まあ・・・やっぱウチの副隊長が頼りねえって思われてるからじゃねえか?」
「まあ、確かに頼りねえって言えば、そうかもしれねえけどよ・・。けど、どんなヤツかもわからねえのが隊長に来るんだろ?気が重いぜ。」
「まあな・・。ヘンな隊長に来られるよりは、いっそ居ねえほうが気が楽ってもんだからな・・。」
「どうするよ、もし今度来る隊長が・・・・」

最後まで聞かずにそっと、その場を離れるイヅル。
隊長不在の隊首室に戻り、吐いた言葉が、「・・最悪だ・・。」の一言だった。
自分が不甲斐ない所があるとは自覚しているが、隊員にまで危惧されている程とは・・。
今迄隊長不在を自らの努力でやり切ってきたと思っていただけに、衝撃が走った。

そして、よもや「最悪だ。」という言葉を短期間の間にイヅルが後二回も口にすることになるとは、イヅル自身想像だにしていなかった。


新隊長は若かった。若いといってもイヅルよりは当然上だ。
気さくな言動。話やすさから言えば、文句はないところだが、新隊長に求められるのは隊をまとめる求心力だ。
威厳や尊厳というものは、正直新隊長の天貝からは感じない。
不信感を隊士が募らせるのが解った。
『こんな奴に隊を任せて大丈夫なのか?』
声なき隊士たちの声が、イヅルには届きすぎるくらいに届いていた。

天貝と隊士たちの橋渡しをするのはイヅルの役割となる。
どうすれば、関係がもっと良くなるだろうか。楽天的なアドバイスが欲しくて松本乱菊を訪ねていた。
ある程度予想はしていたが、乱菊の答えは「呑め」だった。
安直な答えだ・・しかし耳を傾ける余地がないわけでは無い。
古今東西、「呑みニケーション」のアドバイスが息づいてきたにはそれなりの成果があったからに違いない。

それで、歓迎会を催したのはいいものの、肝心の天貝は酒をたった一杯呑んだだけで、桜がいの如く頬を染めてひっくり返ってしまった。
対するイヅルはというと当然青くなっている。
介抱を指示するも、天貝が正気に戻る様子はない。
中止も考えたが、貴船三席が続行を希望したので、その通りにした。貴船も歓迎されるべき人物だからだ。

しかし、たまらず折を見て抜け出した。
思わずため息が漏れる。
「・・・最悪だ・・。」
和気あいあいと酒を酌み交わし、そんな中で天貝の武勇伝やこれまでの経歴、物の考え方を知る機会になれば・・と思ったのだが、そんなやりとりはおろか、新隊長の醜態を全隊士に知らしめるだけになったのだ。
「呑めないのなら、言ってくれればいいのに・・。」勧めたのは確かに悪かったかもしれないが、酒を上手に断ることも処世術の一つだ。
それすら出来なかった天貝に失望していた。
顔を赤くしてひっくり返った天貝を思い浮かべる。
『桜貝みたいな天貝隊長か・・何気に<貝>繋がりだな・・。』

落ち込んでいると、ふとつまらない事に気が付くものだ。
そんな時に、貴船が自分の姿を探してやってきた。
貴船は自己紹介と称して隊士たちを回っていたのは知っている。
ちょっとしたリサーチと言ったところだろう。

『・・同時に僕の通信簿が付けられているわけか。』
どうも、今日は考え方が後ろ向きだ。

「信頼されてるんですね、吉良副隊長は。」
貴船からは高い評価が言い渡された。

『・・もっとも本音の部分ではどうだかは分からないけどね。』

有能な者は、少し話せばわかるものだ。
天貝は貴船を腕が立つとして引き抜いたというが、貴船の情報収集力やそつの無い言動は相当なものだった。

『この人・・有能だな・・。』
貴船はイヅルを高く評価して、人間関係をある程度構築し、そして下の隊士たちと親睦を深めるべく酒席に戻って行った。まさにそつがない。
恐らく、イヅルが何かミスをしようものなら、真っ先に見抜くタイプだ。

自分は桜貝の天貝とあのそつのない貴船との間でこれからやっていくことになるのか・・。


「・・最悪だ・・・。」


イヅルの口から、三度目のセリフが放たれた。


・・・一方・・・。


「・・・アニメの方ではオリジナルに入ったようだね。どうだい?自分がいた席に他人が座ることになった気分は。」

虚夜宮の主が副官に感想を求めていた。

「イヅルの出番が増えてエエんちゃいます?ボクもボクが抜けた後、気になってましたんや。
皆元気そうで何よりですわ。
五番隊に配属になってたら、雛森ちゃんの様子見れたのに、藍染サマ、ホンマは残念なんとちゃいます?」
「残念だがそれは無いかな。」
「そらまた何でです?」


「・・興味がないからだよ。」


「ホンマ、藍染サマは酷いお人やなァ。」

オリジナルの間はさらに暇になりそうなギンが呟いていた。



なんちゃって。

 

 

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