誰が河童やねん(平子真子)

緑の長き黒髪は、乙女の証と数十年前は言われていたそうだ。

では、光輝く長き金髪はなんの証となるのだろう。




現世へ身を隠すことになった平子達。
霊力遮断義骸により、人間と見分けがつかなくなった彼等は、すくなからず人間と接触することが多くなる。
無論、そうなればトラブルの一つや二つも生じるわけで。

その煽りを一番に喰らったのは実は平子だった。


「おい、見てみろよ!あの金髪!」
「なっげー!あんなにストレートな髪、金髪ではオレ初めて見た!」

ナンパ盛りの男たちが前に歩む金髪の後姿を見て、驚嘆の様子だ。

彼等の前を歩むのは、金髪のどうやら外国人の様だ。
直毛が多いという日本人でさえ、これほどの美しい直毛の髪をしたものはそうそう居ないだろう。
絹糸のようなしなやかな金の髪が、腰ほどにも伸ばされている。

「でも、背がいやに高くないか?もしかして男なのかな。」
「馬鹿、外国人てえのは背が高いもんだって決まってんだろ?それに細いし。まあ、ケツは小さいけどよ。絶対女だって!」

洋装のその外国人は一人で、前を歩いている。少し猫背であることと、ズボンのポケットに手を突っ込んで歩く姿はいただけないが、美しい金色の髪はその欠点を余りあるほどだった。

「・・オイ。美人かな。」
「見てみりゃいいじゃん。」
「声かけてみるか?」「でもオレ英語できねえぜ?」「そこは気合いだ!行くぞ!」

小走りで、外人に駆け寄る。そして、その肩を叩こうと手を伸ばした瞬間、その外国人が振り向いた。
「なんや、オレになんか用か?」

その人物・・当然平子真子でございます。

『男だったのか〜〜!!!!』『しかも外国人なのに関西弁〜〜!!!』
無残に砕け散るナンパ心。

あえなく敗退のナンパ男でございました。


一方の平子は不機嫌そのもの。
なんせ、これで5日連続で後ろからナンパ体験中。
そして、その全てが平子が振り向いた瞬間、自ら崩壊していくのである。

『髪長い、いうだけで、勝手に女にすんな、ボケ。』
不機嫌そのままにアジトに帰る平子。
そうえば・・とローズの方を見やった。
ローズも長髪だ。

「ローズ。」「なんだい?シンジ。」
「オマエ、女に間違われへんのか。」
すると、驚く以前に引いてしまったようだ。

「・・なんなの?ソレ。」
「ここではなんや、髪長い男はみんな女に間違われるんか、思うてな。」
「無いよ。女性に間違われたことなんか。
流石にこの身長で、女性で見るのは無理でしょ。肩幅とかも違うし。」

ローズは平子よりもさらに長身だ。
なるほど、ここまで長身だと流石に女性として見るのは不可能だろう。
でも、おもろない。
「・・シンジは間違われちゃうの?」ローズが聞いてきた。
「今日で5日連続や。しかもみんな後ろから声かけて来よる。」
「で、シンジの顔みて逃げてくんだ?」
「ホンマ、失礼な話やで。けったくそ悪い。オレの何処が女言うねん。」

すると、う〜〜んとローズが考えるようなそぶりを見せ、ためらいがちに意見を述べてきた。
「やっぱりその髪じゃないかな。女の人でもそれだけ綺麗なストレートの髪してる人ってなかなかいないでしょ?だから、つい女の人だと思っちゃうんだと思うよ。
それにシンジは細身だし。ちゃんとした筋肉はついてるんだけどね。

でもやっぱり髪だと思うんだけど。」

「そうか。やっぱ髪伸ばしてんのがアカンのか。」
「あ、でも僕はその髪気に入ってるからね?ひよ里だってきっと気に入ってると思うよ?」
「あいつは、どうでもええねん。どうせ俺の髪や引っ張る道具にしか思てないしな。
よし、解った。」

「何が解ったの?」
「切ってくる。」「何を?」「髪しかないやろ。この展開で他に何切る言うねん。」
「ええ〜〜?!僕は反対だよ!せっかくそんなにきれいな髪伸ばしてるのに。」
「ここは尸魂界や無い。現世や。
郷に入らば、郷に従えいうやろ。
切ったる。そんで後ろからナンパされ生活からオサラバすんねん。」
「ええ〜〜?!」

引きとめの声を振り払い、もう一度アジトから出た平子。
床屋の扉をくぐっていた。
「い、いらっしゃい!」
いきなり現れた、金髪の外人に床屋の主人も驚き気味だ。
「髪切って欲しいねんけど。」
「は、はい。ではこの椅子にお座り下さい。」
タオルと、その上から理髪用エプロンをかぶせられ、鏡の中の己をにらむ平子。
「これはまた・・綺麗な御髪でございますね。
これだけの髪をしてる人なんざ、そういませんよ。

で、どの程度お切りしますか?」

「バッサリやったって欲しいねん。」
「は?」
「そやからバッサリやったってって言うとんねん。」
「こ、これくらいですか?」
なんせ、腰のあたりまである髪なのだ。バッサリといってもどの程度か解らない。そこで、床屋、背中あたりを指差した。
「もっとや。」「この辺ですか?」
だんだん上へあがっていく。
「バッサリ言うたやろ。もっとや。」

「どの辺までお切りしますので?」
「そやな。襟足くらいでバッサリやって欲しいねん。」

切り落とされる髪の長さは1メートル以上。

「・・お客様・・。」何やら店の主が沈痛な面持ちで話しかけてきた。
「なんや?」
「・・失恋なさったんですか?」
「・・言わんといてえな・・・。」
「・・やっぱり・・。これだけの御髪を切る覚悟をされるとは、相当お好きでらしたんですねえ・。」
「そらもう可愛い子やった。外も中身も最高の子やった。オレの事も好きや言うてくれてたんやのに・・。」
「外国人だからって、親御さんに反対されたんですね?」
「・・そや・・。俺が外人やからって・・向こうの父ちゃんが・・・って何言わすねん!!
オッサン!!」
「え?違うので?」
「髪バッサリ切る言うたらなんで、失恋の話になんやねん!
思わずこっちも乗ってもうたやろ!!無いない!失恋も何も無い!ていうか、あって欲しいくらいや!そんな話!!」
「さ、さようで。これはまた失礼を。お客さんノリノリで話されてましたんでてっきり・・。」
「もうええわ!早よ切り!」

・・そして、襟足に切りそろえられた、新しいヘアスタイルの平子が登場する。


モスグリーンのシャツ。こじゃれたネクタイ。そして、ハンチング帽子。
当時かなりハイカラと言えよう。

「これで、後姿女とはおさらばや。
これからはニューシンジや。」

颯爽と床屋の扉を開け、堂々と通りを歩こうとした矢先。
髪を切って貰いにきたと思われる子どもとその母親と入口で会った。
すると、子供が何やらしげしげと平子の顔を見ている。

『お?流石にガキにも、このニューシンジの良さが解るらしいな。』
得意げに子供を見下ろす平子。

だが、子供の認識は違っていた。
緑の服。異様に綺麗な白い歯並び。細い眼。金髪のおかっぱ頭にはちょこんと帽子が乗っている。細くて長い手足。

・・緑の服・・金髪のおかっぱ頭・・ちょこんと帽子・・。

・・おカッパ・・帽子・・あの帽子お皿みたい・・。


その時悲劇が起った。

「河童だ。お母さん、河童がいるよ?」
「これ!!そんな事言っちゃいけません!」

予想外の子供の反応に、思わず平子も大人げを忘れたらしい。

「誰が河童や、このクソ餓鬼。」



・・平子がこの顛末をアジトの仲間に話し、唾を飛ばして笑い飛ばされたのは言うまでも無い。




なんちゃって

 

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