柱守(イヅルと修兵)

召集は地獄蝶を通してだった。

「三番隊副隊長・吉良イヅル殿、九番隊副隊長・檜佐木修兵殿、十一番隊第三席・斑目一角殿、同隊五席・綾瀬川弓親殿。
以上四名の方は総隊長、山本元柳斎重國様がお呼びです。

至急、一番隊隊舎へお越しください。」

「・・僕が・・?総隊長に・・?」
イヅルは怪訝そうな表情を隠せなかった。

隊長以外の者が山本に直々に呼び出されるのは異例の事だった。
山本の声は、通常各隊長に伝えられ、以下それぞれの隊長から部下に伝えられるというのが一般的だ。
三番隊および九番隊の隊長は居ない。それゆえ、副隊長が隊長代行も務めている。それでも隊長代行といえど隊首会に参加することは許されない。
隊長と副隊長の差は、たった一席なれども、実際は天と地ほどの差があるのだった。

それ故、隊長で無い者が四名同時に山本に呼ばれるなど、尋常の事ではない。

イヅルは直ぐに感づいた。
これは重要な任務を言い渡されるということだ。
山本が直接伝えなければならないような。それほど重要な任務ということだ。

三番隊、五番隊、九番隊は隊長が裏切り者になった為、他と比べ明らかに冷遇される立場だった。
当然だろう。

『隊長が裏切っているのだ。

・・・その下が裏切らない保証など、どこにもない。』

そう思われることを、どうして止められるだろうか。
その三番隊の自分に声がかかった。

どんな任務であれ、不退転の決意で臨む。
そして、結果を残して今の現状を変える。

それしかない。

イヅルの脳裏には、隊員達の不安げな表情が浮かぶ。
彼等に自信を与えたかった。そして・・自分にもだ。


檜佐木修兵は、地獄蝶の呼び出しを瀞霊廷通信の編集をしているときに聞いた。
隊長三名が裏切り者となり、瀞霊廷の様子は暗かった。
無論、修兵のいる九番隊は言わずもがなだ。
任務の干された修兵に出来る事は限られていた。

「せめて瀞霊廷通信くらいは、景気良くいきてえよな。」

少しでもみんなが元気になれるように。
地味な作業を、耐えていたのはその為だろう。
しかし、その日の修兵は違っていた。
地獄蝶の召集を聞くや、筆を放りだして、隊舎を出る。

無論、修兵も気づいていた。

・・・重大な任務が自分に言い渡される事に。
そして、自分の現況を変えるには、いかなる任務であれ、やり遂げなければならないという事に。


修兵とイヅルはほぼ同時、そしてその後十一番隊の二人がやってきた。
序列にうるさい山本は、席次が下の者の方が遅れてきたことに、ジロリと睨みつけることで窘めた。
が、一角は軽く首をすくめただけだ。席次などどうでもいいというようだった。ある意味十一番隊らしいと言える。

そして召集された四名は山本から、空座町とレプリカの街ごとを入れ替えるという壮大な作戦を知らされることとなる。
口笛を吹いて作戦の大じかけに驚く一角。
「ヒュ〜〜!そりゃスゲエ!派手でいいじゃないッスか!
こっちも、戦いやすいってもんだ!」

一角は戦いの匂いを嗅ぎつけて、既に上機嫌だった。
「・・・まだおぬしたちに戦えと言った訳ではないがの?」
「でも、そうなんでしょ?でなきゃ、この面子をわざわざ呼び付けるはずが無え。」
「で?そろそろ教えてもらえませんかね。僕たちの任務を。」
弓親が先を促す。短気なのはどうやら十一番隊の気風なようだ。

それまで、沈黙を守っていたイヅルが口を開いた。
「・・僕たちに、四本の柱を護れということですか?」
「そうじゃ。」

ようやく答えを見つけた生徒を喜ぶように、山本の目が少しばかり緩み、大きくうなずいた。
それを見て、ホッと息をつくイヅル。
もともとイヅルは状況を正確に理解し、判断をする分析タイプだ。一応は、山本のテストをクリアできたらしい。

「言ったとおり、町は四本の柱の力によりレプリカと入れ替えられることになる。
柱を壊されれば、町は元の現世に戻ってしまうのじゃ。

十刃と藍染達は儂と隊長、及び残りの隊長格で当たる。
じゃが、柱に攻撃が及ばぬとは限らぬ。十刃自身が柱に向かってもおかしくはない。

じゃがおぬしたちには、四本の柱をなんとしてでも守ってもらわねばならぬ。何としてでもじゃ。

この重要な任務・・・やってくれるの?」

山本の細い目がギラリと光った。
否など言わせぬ。命をかけてやってもらうという、強い意志の現れだ。

尸魂界は賭けに出た。存続を賭けるものだ。
その重要な一端を任された。無論四名に依存など無い。
「はい!!」
バラバラの四人が同じく時をして諾の返事を返した。

「では、話は終わりじゃ。下がってよいぞ。」


一番隊舎を出るときのイヅルの顔は緊張で強張っていた。
重大な任務だ。なんとしてもやり遂げなくてはならない。
「吉良。」とその背に修兵が声をかけた。
「・・先輩。」振り向いてみる修兵の顔も、緊張が走っている。
「・・来たな。」重大な任務が。ついに。
「・・そうですね。」二人とも置かれている状況は同じだ。これをやり遂げ無くして、先は無い。

「・・大丈夫か?」と修兵が聞いてきた。
「勿論です。」と即答する。
「市丸隊長と会う可能性が高くてもか?」
聞かれて、頭を後ろからガンと殴られたような衝撃が走った。そうだ。何故思い浮かばなかったんだろう。藍染隊長と戦う事になるのだ。当然市丸隊長も・・・。
「・・・僕は尸魂界を護るために死神になりました。それは今でも変わりません。
柱を壊されれば、尸魂界は崩壊する道を行く可能性が高いです。

・・・僕はなんとしてでも、柱を護ります。

誰と会おうと・・そして誰と戦う事になってもそれは変わりません。」

「そっか。」と安心したように、修兵の表情が緩んだ。心配されていたらしい。
なんだか、癪で「先輩こそ、大丈夫なんですか?」と訊いてみる。

すると、修兵がどこか遠くを見るような表情をして言った。
「東仙隊長のことは、俺は多分今でもどこかで尊敬してる。
けど・・・だからって町ひとつ潰していいってことにゃなんねえし、どんな理由があれ、俺は東仙隊長のやってることは間違いだと思ってる。

・・・やるさ。そんで生き残ってやる。
やり残してることもあるしな。続きやんねえと。」
「なんです?そのやり残したことって。」

すると修兵大真面目でこう答えた。
「瀞霊廷通信の編集。」
「・・は・・はあ。」ここは笑うところだろうか、やっぱり流石と褒めるところだろうか。未だ悩むイヅルがいた。


「とりあえずは、柱守だ。
一本欠けても、戻っちまうからな。
吉良んところ、頼んだぜ?」
「その言葉、そっくり先輩に御返しいたします。」


・・冷遇されていた副隊長二名が、重要な柱守となった瞬間であった。





なんちゃって。

 

 

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