雛は危地に舞い戻る(藍染惣右介)
・・時に戦場では珍しい光景を見るものでね。
どうやら今回もそのようだ。
・・雛森君。
君が来るとは少し意外だったかな?
尸魂界で待機するよう言われていたんじゃないのかい?特に・・君の幼馴染にね。
何をしに来たのかな?
・・・ああ、言う必要など無い。
『決戦にあたって、少しでも護廷隊に手助けするため』なんて建前の理由など、何も意味は無いからね。
・・私に・・会いに来たのだろう?
・・私が本当に皆が言うように「極悪人」なのか、信じることができずに、それでその眼で確かめるために。
そしてもしもそうならば、言葉を尽くして、私に元の優しかった「藍染隊長」に戻るよう、嘆願する為に。
君の考えている事は手に取るようにわかる。
当然だ。
君は最も私の傍にいて、私の催眠を最も強く受けてきた者なのだから。
死神を最も確実に殺す手段は首を落とすことだ。
胴体への攻撃は死神個人の能力により、軽減されてしまうからね。
私は雛森君を攻撃した。その後、日番谷君もね。
首までは落とさなかったが、卯ノ花隊長が来なければ彼等は間違いなく死んでいただろう。
日番谷君が、空座町の警護についていると報告があった時は、私は純粋に卯ノ花隊長の蘇生能力を高く評価した。
あの状態の日番谷君を短期間で任務につける状態にまで蘇生させたんだからね。
そして、同時に雛森君の生存を確信した。
相当混乱しているはずだ。
私が尸魂界の反逆者となったことなど、信じられないだろう。
恐らく私に刺されたことなど、何かの間違いだと思っているだろうね。
・・可愛そうに。
君は私の事を絶対の存在として、既に脳の奥底まで刷り込まれてしまっているんだよ。
言っておこう。その状態を完全に脱却するのは不可能だ。
大丈夫だと自分は思っていても、私に会えば元に戻ってしまう。
だから、護廷隊は君を戦闘から外した筈だ。
決戦の場に混乱した仲間など、敵の攻撃よりもずっと厄介な存在だからね。
だから、君が最も安全かつ仲間へ貢献する行動は、尸魂界で待機しておくことだったんだよ。
・・ああ、解っている。
それでも私に会いたかったんだろう?
だから、此処へ来た。
私が敵だと、無理に自分に信じ込ませてね。
そして、決戦に五番隊だけが参加しないのはおかしいと、苦しい言い訳を用意したんだね。
私と戦う覚悟は決めていると、自分に言い聞かせて。
・・困った子だ。
私の催眠がそんな事で解けるとでも思っているのかな?
解らないかい?君の登場がどんな影響を及ぼしているかを。
可愛そうに。君の幼馴染は集中力が乱れてしまっているよ?
君が心配なんだろうね。
松本君も顔色が良くないね。当然だろう。君は共に戦うには余りに不安定な存在だ。
いざとなれば君を庇って戦わなければならなくなった彼女は、更に視えない窮地に陥っている。
・・・全く、君は優秀な手駒だ。
棄てられても、未だ私の駒として動いてくれるのだからね。
・・そんないい子には・・ご褒美をあげよう、雛森君。
・・・おいで、こちらへ。
何、遠慮はいらないよ。
私と話したいのだろう?
褒めてあげよう。君は褒めると伸びる子だからね。
君を傷つけたことを、謝って欲しいのだろう?
何かの間違いだと言って欲しいのだろう?
そして優しい言葉をかけられたいだろうね。
本当に君は可愛い雛だ。
・・・哀れなほどに・・ね。
なんちゃって。