伏せた面(吉良イヅル)
・・・僕は人と目を合わせるのが苦手だ。
目をあわすと、相手に僕の気弱なところを悟られるんじゃないかと・・・
・・怖いからだ。
前髪で片目を隠すのはそのためだ。
僕の心の弱さを悟られないには、目を隠すのが一番手っ取り早いからね。
何の効果もないのかもしれないけど、それでも僕はそれで少しばかりの安心を得ている。
・・まあ・・昔から僕を知ってる人には、本当に何の効果もないけどね。
後ろ向きとか言われるかもしれないけど、なんとか弱点を克服しようと工夫する事は僕にとっては後ろ向きな事じゃない。
誰でも何かの弱点なんていうのはあって、それぞれその人なりの克服をしようとするだろう?
僕はそれをしてるだけだよ。そう。別に後ろ向きなことじゃない。
阿散井君にはそれでも、未だに「ちゃんとツラ上げてこっち見て話せよ。」とか言われるけど、どう話そうが僕の勝手だろう?皆がみんな阿散井君みたいな、あんまり物事を考えてないって言うか、能天気っていうか、無駄にタフっていうばかりの人ばかりじゃないんだし。
だから、未だに僕の顔は下を向きがちだ。
いいんだよ、僕はそれで。
・・だって、僕が顔を上げるときは・・・。
相手を打ち伏せると決意したときなんだから。
僕はあまり怒るようなタイプじゃない。
自分の感情をあらわにするよりは、殺して丸く収めたいんだ。
だって、その方が波風立てなくて済むんだし。
・・だけど、怒らないわけなんかじゃない。
僕が本気で怒ったときは、僕は顔を上げて、自分の方から恐らく相手と目を合わせると思う。
普段は押さえつけて下を向かせていた、闘争心や嗜虐心なんてものまでが面を上げてくる。
・・そうなると、僕はきっと何時もの自分じゃなくなってしまう。
山本総隊長から、柱守の任務を言い渡されたとき、覚悟はしていたつもりなんだ。
ダミーの空座町の戦いは決戦となるだろう。
きっと、あの人も・・・市丸隊長もやってくる。
・・もし、市丸隊長と会ったら・・
・・僕はどうするんだろう・・・。
・・自分を制御する自信がないんだ。自分でもどうなるか解らない。
もちろん僕の仕事は柱を守ることだ。
それは決して忘れない。
・・けど・・・僕には自信がない。
顔を上げたくない。市丸隊長には。
上げなきゃなんないことは分かってる。
市丸隊長は尺魂界にとっては敵なんだからね。
本当は聞きたい事はいっぱいあるんだ。
どうして、市丸隊長は僕を雛森君のように切り捨てずに去っていったのか。
どんな気持ちで、僕を裏切っていたのか。
・・どうして、最後まで部下として使ってくれなかったのか・・・。
・・聞きたい。
・・けど、聞くのは同時に怖い。聞きたくない。
・・だって何か恐ろしい言葉を聞きそうだからね。
・・けど・・・聞きたい。
僕は顔をあげなきゃなんないんだ。
・・けど、上げたくない。
山本総隊長の城郭炎上で、市丸隊長たちが隔離されたのを見たとき。
・・僕は気がつけば、ほっと息をついていた。
なんちゃって。