二つの銀(日番谷と市丸)

・・護廷十三隊には、以前銀色の髪を持つ隊長が2名在籍していた。

一人は日番谷冬獅郎。そしてもう一名は市丸ギン。


どちらも、時期は異なれど護廷十三隊に天才児として華々しく入隊した。
他人とは異なる髪の色は、他人とは異なる能力をもたらす。
この意味では共通するこの二人も、その性質は全く違ったものだった。

入隊当初から物怖じせず、いかなる時にも不思議な笑みを絶やさない市丸ギン。
一方、同じく物怖じどころか、年齢の差などあってなし。相手がどんな年上でも席次が自分よりも下ならば敬語はおろか丁寧語さえ使わない日番谷冬獅郎。

同じ銀色の髪を持つもの同士の印象は最悪に近いものだった。


『何だ、こいつは?おかしくもねえのに、ヘラヘラ笑いやがって。』
冬獅郎がギンを見て思った最初の言葉だ。
いやになれなれしい態度。「仲良うしてな。」といいつつも、そんな事は口先だけなのは見るからに解る。
何よりギンの言葉の端々が冬獅郎の癇に障った。

遠まわしに言われる「ガキ」という言葉。
無論、直接的な言葉はギンは使わない。
「こんなに小さいのに、凄いなァ。ボクが君くらい頃や、ただのその辺の子供やったのに。」
一聞すると、褒めているように聞こえる。だが、そうじゃない。
遠まわしに、自分のことをガキだといっているのだ。

不愉快を隠さず表情に出すと、余計面白そうにこちらを見る。
まるで警戒されるのが楽しくて仕方がないというように。
この調子ではさぞかし、周りに警戒されているだろうと思うと、実はそうでもない。
冬獅郎の幼馴染である雛森桃などは、市丸の事を隊長なのに気さくなどと思っているようだ。

『・・なんで気づかねえ。あの瘴気みてえな殺気に。』

冬獅郎には、ギンが鎌首をもたげた毒蛇のごとくに見えていた。



『・・こらまた今時ウソみたいに真っ直ぐな子やなァ。』
ギンは冬獅郎を見て素直に感嘆した。
・・何に?

物心ついたときには、既に自分の中に潜む悪に気づいていた自分と、目の前のあまりにも真っ直ぐな目をした少年とのあまりの違いにである。
子供だから持ちうるのかもしれない純粋な正義を、冬獅郎は体現したような存在だった。
冬獅郎と同じ年頃のギンは、生き延びるためにあらゆる悪事に手を染めていた。それが当然とさえ思っていた。

見るからに生意気そうな目だ。
自分の能力に自信を持ち、年齢のハンデがどうであれ乗り越えてみせると言う気概に満ちている。

『・・銀の棒みたいやなァ。ピッカピッカの。

そやけど、あんまり真っ直ぐやと・・アカンわ、折りとうなってまうやんか。』

ギンはすぐに冬獅郎のアキレス腱を見つけてしまう。幼友達とは可愛いものだ。
どうすれば、より愉しめるだろうか。

不意に冬獅郎と目が合い、ニヤリと笑うギンがいた。


『・・・銀色の鱗した毒蛇みてえだな。しかも、獲物をいくつも狙ってやがる。』
毒蛇の中には、狩りをするときに、あたかも踊っているかのように鎌首を持ち上げて前後左右に振るものがいるそうな。
ユーモラスな動き。だが、その次の瞬間、毒蛇の獲物は断末魔の悲鳴をあげることになる。

不快感しか冬獅郎は感じないあのギンの笑み。まさしく毒蛇のダンスではないか。

『・・氷漬けにしてやる。
もし、とち狂ってこの俺に牙剥いてきやがったならな。』


冬獅郎は自分の能力を知っている。

戦う相手が、ギンであったとしても必ず勝つ。




二つの銀はあくまでも静かに反目していた。

そして、今も勝負はついてはいない。




なんちゃって。

 

 

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