喜劇のプリマドンナ(藍染惣右介)

・・・今、虚夜宮では喜劇が上演されていてね。

・・なかなか興味深い内容だ。

出演は、死神代行を含む現世の少年たち三名。
友情出演で仲間の2名の死神も出てきてくれた。

そして、こちら側の出演としては部下の十刃が参加している。

さらに、特別出演で、尸魂界から護廷十三隊の四名の隊長と四名の副隊長。

ああ・・まだこの劇の主役を紹介していなかったね?
すまなかった。紹介しよう。
プリマドンナ(主演女優)は井上織姫という現世の女だ。


この喜劇の内容はこうだ。

主役である織姫が十刃により虚圏に連れ去られる。
そして、織姫を助けに、現世の少年たちは、自分の実力不足も顧みずに無謀にも虚圏に乗り込んでくる。
そして、更にそれは仲間の死神を呼び寄せ、終には動かない予定だった護廷十三隊隊長までもが乗り込み、十刃と死闘を繰り広げることとなる。

どうした、これだけでは喜劇とは納得できないかな?

では、前提をもう少し補足しておこう。

十刃はプリマドンナの持つ特異な能力を手に入れるため、拉致してくるようにと言われている。

現世の少年たちが乗り込んでくることは自明だ。たとえプリマドンナが何も能力を持っていなかったとしても、彼らは進んでやってくるだろう。
そして、仲間の死神の若者たちもね。

・・・さて、ここからが見せ場だ。
主役の持つ特異な能力が完全にこちら側の手に入らぬよう、そして虚圏に行った者たちを救うべく、尸魂界を本来守護しなければならない隊長格までもがやってくる。

そして、彼らの行動の前提は主役の持つ能力が敵の手に使われないようにするため、というのがあるはずだ。

だが・・・井上織姫は”その能力を買われて”虚圏にきたわけでは無いんだ。
井上織姫の本当の役割は、”敵の戦力の分散”この為にある。

戦いの基本は敵の戦力をいかに分散させるかだ。
既に護廷十三隊は隊長三名を欠いている。
それゆえ、一カ所に戦力を結集したくなるのが常道だ。

だが、戦いをより有利にするには、敵の戦力は分散すればするほどやりやすいだろう?
そして、その役割を担うのが、今回の喜劇の主役、井上織姫だ。
彼女の能力は、彼女の餌としての株価を上げる唯の要因だ。

井上織姫の拉致は派手でなくてはならなかった。
彼女の能力がいかに特殊でいかに私が高く評価しているかを、尸魂界に知らせる都合がある。
それゆえ、その特異さの周知は十刃にも共有されなければならない。
今回の主役がいかに素晴らしいかを周知するのは当然だ。

・・どうも十刃たちは芝居が下手でね。
元が虚だからかな。
彼らには素でやらせるのが一番だ。

そして、隊長格がやってくる。
それ自体が目的と知らずに、恐らく此処へ来る時には嬉々としてやってくるだろうね。


そして死闘を繰り広げる。ある者は命を落とし、ある者は昏倒し、あるものは辛くも勝利を収めることだろう。

出演者の誰もが知らない。
主役が、あまたの俳優を惹きつける、ただの餌の役割でしかないことを。
知らずに必死で戦い続ける姿を見せる。

・・どうかな?立派な喜劇だろう?


知っているかな?
本当の喜劇に、俳優の笑顔などは要らないんだよ。
俳優は与えられた役割を必死で演じる。
それだけでいい。

そして、俳優が本来の目的から外れたことを必死でやっている滑稽さに、観客は笑うのだ。
だから演じる者の笑顔など喜劇には不要だ。
笑うのは観客だけでいいのだから。
演じる者が笑って、観客の笑顔を誘おうなど三流の喜劇でしかない。

今、十一番隊の更木剣八が第五十刃の、ノイトラを倒すという場面が終わったばかりだ。

ブラボー。
おめでとう、更木。いい演技だった。


・・さて、喜劇も終幕の時間だ。
わざわざ虚圏まで来て好演した俳優たちには、ご褒美が必要かな?

「要、天挺空羅を。」


織姫、ご苦労だったね。
君は主役の重責を立派に果たしてくれた。


・・・君の役割は終わった。

餌としての役割はね。


・・・笑いなさい。

どうした?カーテンコールにプリマドンナの笑顔は欠かせないだろう?


ああ・・悲劇かと思っていたんだね?自分が出る劇が。



残念だったね、織姫。


喜劇なんだよ。だが、知ってしまったら君は好演はきっと出来なかっただろう?
君はいい演技をしてくれた。

・・・私の手の中でね。

そんなに悲しそうな顔をする必要はない。


・・君の俳優仲間がこんなにもいるんだ。

・・・同じ私の手の中でね。



なんちゃって。


 

 

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