稲穂刈り(イヅルと修兵)

目の前には広大な黄金の稲穂が広がっている。
風が吹く度に重そうな稲穂はゆらゆらと揺れる。
黄金の田んぼの上空を行きかうは、赤とんぼ。

・・そして吹き抜ける風は、平和の匂いがする。


「探しましたよ、先輩。
何こんな所で、黄昏てるんですか。」

黄金の田んぼに見入っていた修兵に、後ろから声をかけたのは、吉良イヅルだ。
「お、吉良か。」
「はい。瀞霊廷通信の原稿です。
締めきりが2日後なんて今度から止めて下さいよ。」

「悪りィ。
お前の俳句講座入れんの、つい忘れててな。」
「で、先輩は田園風景でまったりですか?いいですね、呑気で。」

軽くあてこすられて、苦笑が浮かぶ。
「だから悪りィっつったろ。
この時期の田んぼ見んのって、俺結構好きでな。」
「稲刈りにはもう少し先みたいですね。」
「ああ。なんかこの風景見るとほっとしねえか?」
「・・はあ。」

イヅルの気の無い返事はいつもの事だ。
この真面目な後輩は、感情の起伏を余り見せることが無い。
どうやら、気の弱いところを見せまいとして、そうなっているようだ。

「・・なあ、吉良。」
「はい。」
「お前の侘助って、ありゃホントは首を刈るモンなんなんだろ?」
「・・!」
のんびりした口調で言ったつもりなのだが、途端にイヅルに緊張が走った。
既知の仲と言えども、己の能力を知られるということをどの者も嫌う傾向がある。
死神同士で戦うなど考えたくもないが、いざという時を考えてしまうのだろう。

「・・そんな事を聞いてどうするんですか?」
用心した声だ。警戒している。

「なんも。ちなみに俺のも似たようなもんだ。
まあ、俺のは刈るのは首じゃなくて命だけどよ。」
「ということは、先輩のは鎌ということですか。」

「まァな。
・・なあ、お前、自分の斬魄刀好きか?」

「・・・・・。
訊かれてる事があんまりよく理解出来ないんですけど。」
「だから、自分の斬魄刀が好きかって聞いてんだよ。
別にむずかしいこと聞いてねえだろ?」
「好きも嫌いもないですよ。だって、僕だけのものなんですし。」
「そっか。俺はあんま好きじゃねえ。」
「はぁ?」
「あの形が好きじゃねえんだよ。いかにも殺すためだけのモノって感じで。」
「斬魄刀は戦うためのものなんですから、ある意味理にかなってるんじゃないですか?」

「俺は出来れば命なんて刈りたかねえな。ンなもん刈っても楽しかねえし。」
「それはそうですけど。
・・けど・・戦わなきゃなんない時は、そんな事言ってられないですよ。」
「ま、そうなんだけどよ。」
「僕は・・戦わなきゃならない時は、無慈悲でなければならないと思ってます。
そういう意味では侘助は理にかなってる。その意味では僕は侘助の事を気に入ってます。」

「・・・なんかお前らしいな。
どうせだったら俺の斬魄刀が、女の子のハートを刈り取る斬魄刀だったら楽しいのによ。」
「松本さんの事ですか?僕は一度あの人の頭を下げさせたいですね。」
「普段お前の頭が上がんねえからか?そういやお前、乱菊さんにふんどし一丁に剥かれたんだっけ。そら頭上がらねえわな。」
「憶えてないんですから、言わないで下さいよ!」

はははと修兵が笑うと、不意に静寂が訪れた。
二人とも目の前の田園風景に見入っている。

「戦いなんざ、ホントは無えのが一番だ。
この風景は平和の象徴さ。

命刈り取る鎌より、稲穂刈り取る鎌の出番が多いに越したこたねえよ。」

「『刀置き 皆で刈りたし 稲穂かな』ですね。」
「お、一句出来たじゃねえか。ついでにそれも瀞霊廷通信に載せちまおうか。」

「止めて下さいよ。この非常時にって総隊長から僕が怒られちゃうじゃないですか。」
「ああ〜〜〜・・あり得るな。よし。やっぱ止めとこう。さ、編集、編集。」



・・・隊舎に戻るべく踵を返した二人の後姿を、稲穂が頭を揺らして見送っていた。




なんちゃって。
 

 

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