命の執着(更木剣八)

・・だいぶ前だったか、もう随分昔の話だ。

やちるに聞いたことがある。
「やちる、お前死ぬの怖えェか?」

そん時ゃ確か、俺と戦った奴が、無様に命乞いをしてきたもんで、一気にこっちは興醒めしちまってよ。
そんで俺がさっさと立去ろうとしたら、急にそいつは元気になってよ。後ろから斬りつけてきたんだ。で、俺に一太刀浴びせた後、そいつは胴が二つに分かれちまったが。

命乞いをする奴は、結構いやがるもんだ。
戦った奴の半分は命乞いしてやがるんじゃねえか?
まあ・・・口がまだ動くうちに言わねえといけねえから、その前に死んだ奴は勘定には入れてねえけどよ。

そんで、そん時は立て続けで命乞いを聞かされてたもんだからよ、やちるに聞いてみたんだ。
「やちる、お前死ぬの怖えェか?」
すると、やちるは「全然?怖くないよ?」といかにも聞かれたのが不思議だって顔しやがった。

誰しも生きてりゃ死ぬもんだ。
早いか遅いかの違いこそあれ、どんな野郎だろうが死ぬ時はいつかはやってくる。

するとやちるは、こう続けて言いやがった。

「だけど、剣ちゃんより先に死ぬのはイヤ。
やちるは絶対剣ちゃんの後に死ぬの。」

「なんだ?そりゃ。」と聞くと、握りこぶし作りながらなんか熱く語ってやがったな・・。
「だって!剣ちゃんの先に死んじゃったら、付いて行けなくなるじゃない!
やちる、そんなの絶対やだ。だから、やちるは剣ちゃんの死んだ後で死ぬの。

だから、剣ちゃんは寂しくないよ?剣ちゃんが死んでも直ぐにやちるが付いて行くから。
だから剣ちゃん安心してね?」

誰が寂しいだ?何言ってやがる、馬鹿野郎。
太陽が東から昇るみてえに、当然みたく言われちまってよ。
俺も「そうか。」と言うしかなかったぜ。

俺の戦いは<死>とどんだけ隣り合わせになれるかを楽しむもんだ。
戦いってえのは楽しむもんだからな。
そんで楽しみってえのは、必ずスリルが付きもんだ。
スリルが大きけりゃ大きいほど得られる楽しみは増えるってもんだろ。

だから、こっから先は死んじまう。そういうところの戦いが一番面白れえ。
何回味わってもいいもんだ。

やちるはそれを楽しそうに見てやがる。
それも邪魔にならねえギリギリの所でだ。ヘタすりゃ巻き込まれかねねえんだが、「そんなヘマ、やちるしないもん!」と見得を切る。
なんでも俺が面白そうにしてんのを見るのが楽しいらしい。そんでなるべく近くで見たいってんで、そんなギリギリの所で居ることになるってなわけだ。


・・・虚圏。
久しぶりの殺し合いだ。
おまけに向こうは十刃の5番目。
文句なしに強えェ。
硬てェわ、腕は6本出しやがるわ、腕は斬っても生えてきやがるわ、おまけにカマまで生えてきやがる。

斬り合いは面白れえ。だが、ちょっと向こうの方が上だな。
・・感じるぜ?<死>ってやつとどんどん近くなってるのをな。
消耗戦になりゃ、こっちが不利なのには違いねえ。

「・・・ちっ、このまんまじゃァ、本当に死んじまうな・・・。」


・・・・まァ、こっちはそれでもいいんだが。


「・・剣ちゃん。」
やちるの声が聞こえた。ほんの小せえ呟きだ。
多分、俺に聞こえてるとは思っちゃいねえだろう。

やちるは、俺が本当にヤバくなりそうになると、俺の名を呟く。

『剣ちゃん』

・・・これは俺を心配してるんじゃねえ。
俺が勝つことを信じちゃいるが、俺が死んだ時の事を覚悟してやがる。


・・・やちるは、俺が死ねば自分も死ぬつもりだ。


あいつが、俺の名を口に出す時は、その覚悟を自分で確かめてやがる。
『・・・あたしの覚悟は出来てるよ・・?

だから・・・楽しんでね。

・・・剣ちゃん。』


・・・・聞こえてるぜ?やちる。


俺が死ねば、やちるは死ぬ。


頭によぎるのは、やちるが俺の死体の横で自分の斬魄刀で心臓を一突きするやちるの姿だ。
迷いも何ンも、悲壮感すら漂わせず、当然の事みてえに。

・・・見たかねえな。
まァ俺はそん時ゃ死んでるんだから見ねえんだろうがよ。

・・・やちるが死ぬのは・・

「・・・嫌だなァ・・死ぬのは。」


・・ちっ、命が惜しいなんざ、生涯無えだろうと思ってたのによ。


「・・やれやれ・・・しょうがねえ・・・。」

まだ手が無えわけじゃねえ。
性に合わねえが、使える手はある。


「久しぶりにやってみるか。」



やちる、死ぬにはお前はまだ早え。


もうちょっとそこで、すっこんでろ。





なんちゃって。


 

 

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