いじめっ子〜前篇〜(ギンとノイトラ)

ノイトラが藍染によって破面化されてのは、もうずいぶん昔の頃だ。
得体の知れない死神が、破面化によって死神の能力を持つことができるのだと言ったのだ。

「強くなれんのか?」
ノイトラが聞いたのはこれだけだった。
「勿論。もっともそこからさらに強くなるには個人の努力でしかないが。」
「フン、すかしやがって。」

じろりと唯でさえ悪い目つきをさらに悪くさせて、ノイトラはメガネをかけた死神をにらみつけたのを覚えている。
「いいぜ?なってやるよ。破面とやらによ。」
「そうか。それはよかった。
同志が増えて僕も嬉しいよ。」

メガネの死神は何時も柔和そうな笑顔を浮かべている。
しかし、メガネの奥の眼は全く笑っていない。
『・・けっ、何が同志だ。笑わせやがるぜ。』
ノイトラは、眼鏡の死神、藍染と・・そしてその隣にちょこんと立っている銀髪の子供の死神を見比べた。

藍染も横のチビも正気の沙汰ではない。
敵地のど真ん中にこんなチビを連れてよく来るものだ。ついてくるチビもチビだ。
怖そうな顔どころか、へらへら笑ってやがる。
だが、それなりの腕はあるようだ。ノイトラもこのチビがメノスを何体も倒すところを見た。

ともあれ、破面化の秘術を施され、破面として生まれ変わったノイトラは、自分が確かに人型になったことを知った。
二本しかない腕。目の前には死神の能力である斬魄刀なるものが落ちていた。
体は小さくなったが、格段に霊圧は上がっている。
ノイトラは破面化を受けたことが、正解だったとほくそ笑んだ。

その時、ノイトラの下の方から声がした。
「うわあ、すごいなァ。おめめンところに穴が空いてる破面や、ボク初めて見た。」
「!」
驚いて下を見ると、例の銀髪のガキがいた。全く気配を感じなかった。こんな所まで忍び込まれているのにだ。
「このガキ・・!」
「ガキやのうて、市丸ギンや。ちゃんと名前で呼んでェな。えっと・・そういやキミの名前、何言うのん?」
「誰がてめえみてえなガキなんぞに教えるか。」
「ほな、勝手に名前つけるで?そやなァ。『おめめ節穴のフッシーちゃん』と『ホール・イン・アイのホールちゃん』と『楊枝のよっしークン』とどれがエエ?」

ぷちっ。
ただでさえ、キレやすいノイトラの血管が切れる音がした。
「・・てめえ・殺す。」

一気に殺気立ったノイトラを、藍染が諫めた。
「大人げないぞ。
仲間に名前を名乗るのは当然だろう。
それとも・・お前は名乗れないほど恥ずかしい名前をしているのか?」

「・・・・。
ノイトラ。ノイトラ・ジルガだ。」
不満たらたらでありつつも、一応名前を名乗る。
「へえ、ノイトラ言うんや。ほなノイちゃんやな。」
「勝手に省略すんじゃねえよ、くそガキ。」
「いややなア。名前で呼んでて言うたやん。
あ、もしかして頭に穴あいてもうてるから、覚えられへんのん?」
「ギン!!これで気が済んだか?!あァ?!」

こいつとは絶対合わねえ。そう思うノイトラだ。
そんなノイトラに構わず、ギンがなおも声をかけた。

「ほな、ノイトラちゃん、よろしゅうな。
あ、名前教えてくれたからエエこと教えてあげるわ。

はよ、何か着た方がエエで?
ちょうどキミのナニがボクの顔のまえにあって、さっきから困ってるんやけど。
背の割にはちっちゃいなァ、君のナニ。」

思い切りノイトラは下からギンを蹴りあげた。やったらマズいという判断すら吹っ飛んでいた。
さぞかし派手に吹っ飛ぶだろうと思ったノイトラの足は見事に空を切っていた。
「何ィ?!」
何処へ行った?!と足を振り上げたまま辺りを見回したノイトラのつま先に何かが降り立った。

「キミ、裸のまんまで遊ぶつもりなん?よう恥ずかしないなァ。
まァ、ボクはええけど。

ほな・・・<タマ>蹴りでもする?」


屈託ない笑顔だ。背筋が寒くなるほどの屈託の無さだ。
藍染がこのガキを連れている理由が、その時ようやくノイトラは解ったような気がした。




なんちゃって。
 

 

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