門出(吉良イヅル)
・・今日は真央霊術院の迎院式だ。
僕はこれから真央霊術院の院生となり、死神となるべく様々な事を学ぶこととなるだろう。
忘れ物がないか、もう一度家を出る前に最終点検をする。
迎院許可証、筆記用具、手拭いに懐紙、それから財布。
ええと、それから・・・。
新入生代表挨拶の書かれた、書状。
遅れることのないよう、早めに家を出る。
途中、父上と母上の墓前に報告してから行くのでその時間も計算の上、余裕を持ったつもりだ。
墓へ行く道沿いには一本の古い桜の木があって、盛りを過ぎたのか花びらをちらちらを散らしている。
肩先に一枚の花弁が止まり、するりと落ちていく。
・・・春なんだなあ。
そう・・・希望に満ちた春だ。
僕はこれから、死神となるべく頑張るのだ。
父上と母上の墓前に着く。
何度も見上げた名前。
吉良景清とシヅカ。
それが僕の父上と母上の名だ。
僕の父母は教育熱心な人だった。
小さい頃の思い出は、泣きながら勉強させられた思い出ばかりだ。
物心つく前から「お前は死神になるんだ。それも名を残すような死神になれ。」と言われてきた。
そのためには、真央霊術院の試験を合格しなくてはならない。
僕はお受験を受けるべく、教育されていたわけだ。
遊びたいのに、正座をさせられて読み書きの練習を延々とさせられてたな。当時は苦痛でしかなかったのに、・・・不思議なものだね。
今は何故か懐かしい。
僕をなんとか死神にしようとしていた父上と母上はもういない。
・・・両親が死んだ時、僕は一時将来を見失った。
そして、時が僕の落ち着きを取り戻した時・・・。
僕はあれほど、嫌嫌やらされていた、死神になるべき勉強。
つまり真央霊術院に入るべく、努力することを選んだ。
今は亡き両親の、悲願をかなえてあげたかった。
真央霊術院の試験は順調だった。
迎院は確実だと思いつつも、僕が狙っていたのは主席入学だ。
主席入学の報告を是非とも墓前に供えたかったから。
そして・・院から連絡があった。
「新入生代表挨拶をして欲しい。」
そして・・僕は今、その報告を墓前にしようとしている。
父上と母上に見せたかったな・・。
きっと喜んでくれただろうに。
いや、父上の事だ。きっと「それがどうしたのだ。死神になった訳でもあるまい。」とか言われただろうか。
・・・・両親が望んでいたから。
こんな理由で努力する僕は、弱い動機で死神になろうとしているのかもしれない。
だけれど、僕は本気で死神になりたいと思っている。
その気持ちは誰にも負けるつもりはない。
墓前に手を合わせる。
院生となれば、今のように頻繁に墓参りをする機会はなくなるだろう。
その代り、両親の期待に添うべく頑張るつもりだ。
「・・では行ってまいります。父上、母上。」
途中、変な新入生にあったけど、式典は順調だ。
「新入生代表挨拶!!!
新入生代表!!吉良イヅル!!!」
「はい!!」
しまった、ちょっと緊張して声が上ずったかな。
ちょっと書状を持つ手が震えるのが解る。
・・落ち着くんだ。
これはただの始まりなんだから。
そう、僕は優秀な成績でここを卒業し、優秀な死神になる。
これは始まりだ。
新たな門出の始まり。
「新入生代表挨拶。
薫風香るこのよき日、栄光輝く伝統を誇るこの真央霊術院に迎院出来ます事は・・・・」
・・見ていてください父上、母上。
僕は頑張ります。
そして、きっとお約束いたします。
父上、母上が誇れるような死神になることを。
観ていてください。
・・・きっと、どこかで。
「・・・・以上、新入生代表、吉良イヅル。」
そう、これは門出でしかない。
・・・さあ、出発だ。
なんちゃって。