華麗なる転身(喜助と鉄斎)
故あって、現世に追放となった浦原喜助と握菱鉄裁。
無論、追放された後の事など考えられず、尸魂界に事実上放り出された身である。
見慣れぬ風景が広がる現世。およそ100年前の空座町だ。
住人は、珍妙な格好の喜助と鉄斎を珍しそうに・・そして関わりになるのだけは避けるようにチロチロと視線を送っている。
「・・さて、これからどうしますかな?浦原殿。」
「・・さて・・どうするっスかねえ・・。」
暫し心地よく途方に暮れている二人に、水を浴びせる声一つ。
「何を呑気な事を言っておるのじゃ。とりあえずは、身を潜める家の確保!それから現世での仕事の確保!
考えることもないじゃろうが!」
水をかけてきたのは喋る黒猫。
そう、四楓院夜一の現世での姿だ。
「夜一サン・・なんて現実的な・・。」
『ーーー男は未来を見、女は現在を見るーーー』
そんなことを何処かで聞いたようなと思いつつ、喜助は改めて女と言うものの強さを見る思いだった。
「儂はこのまま、ふらりとこの街をしておる。
住む所が決まれば知らせるがいい。寄ってやろう。」
まるで他人事のように、そのまま町の中へ優雅に紛れていく黒猫。
確かに猫なら、寝るところには困らなそうだ。
『猫っていいっスねえ〜〜。』
自分たちも猫になったら良かったかなと、つい偏りがちな思考を打ち切るべく、二人はまた会話を開始した。
「・・さて、これからどうしますかな?浦原殿。」
「・・さて・・どうするっスかねえ・・。」
・・全く変わっていない。←
と、それではらちがあかないので、喜助が一つの案を提示した。
「そうっスねえ。現世の人たちと全く接点を持たないってのは不可能でしょうし。
かと言って、おおっぴらに関わるワケにも行かないっスしねえ。
どうでしょう、小さな小間物屋なんてのは。」
「おお、それはよろしいですな!
是非私も雇っていただけませんかな、”店長”?」
「ええ?テッサイさんが店長になればいいじゃないっスか。大鬼道長だった方が・・」
「過去の事はお忘れ頂きたい。
今や、私はただの無力な男にすぎませんぞ。
大体、店員になったとしても、私に出来ることなど微細なことのみ。」
「そんな事は無いっスよ。
テッサイさんが居てくれるだけでも、僕は心強いですし。
・・なにせ、これから現世に居るのは長いっスからねえ。」
まだまだヘタレグセの抜けない喜助。
不安があるのは当然だ。
「浦原殿!私の役割を決めましたぞ!」
「は?何のですか?」
「店における私の役割です!」
「はあ、どんな?」
するとテッサイ、喜助に向きなおり宣言した。
「お色気担当です!」
握菱鉄裁。元・鬼道衆総帥、大鬼道長。当然ながらものっそいエライ。
「・・・は?」
大鬼道長として品格・威厳共に評価の高かったあの鉄斎が・・・
「お色気担当です!!」
「・・・テッサイさんが?」
ていうか、そのごっついガタイとヒゲ面で・・
「お色気担当です!!!」
「・・・イヤ・・それは・・。」
その次の瞬間テッサイの濃い〜〜顔が目前に。
「・・・何か問題がございますかな?」
「・・・いいえ・・・たぶん・・?」←聞いた
握菱鉄裁、過去は忘れてくれと言ったとおりに、自らも男らしく忘れ去ったようだ。
実に潔いが、忘れ去り方には若干異論があるかもしれない。
その姿を見て、喜助も何かがふっきれたようだ。
資金となる金を何処からか調達してきて、町の目立たぬ所に一軒の小間物屋を開く。
浦原商店の誕生だ。
品揃えはその時代からどんどんと子供をターゲットとしたものへ変化することとなるが、それは誰の趣味なのかは今のところ不明である。
「店長、今だから聞きますが、店の開店資金はどこから調達されたのですかな?」
「なあに、心のひろい奥様がたに”お願い”して出してもらったんスよ。
あ、でもちゃんと返しましたヨン?」
「・・なるほど。
店長、このテッサイも”お色気担当”として何時でもお役にたつ所存。
何時でも言っていただきたい。」
「・・・はいぃ?」
・・今のところテッサイの裸エプロンはまだ出番は無いらしい。
自称ハンサムエロ店主の台頭が障害となっているようである。
元十二番隊隊長と、元大鬼道長。
重い責任を、他者によってではあるが外された彼等は、それなりに自由にやっているようだ。
なんちゃって。