肩慣らし(更木剣八)
虚圏への出口が出来上がるのを、死神の中で一番待ってたのは、間違いなく俺だ。
井上とか言う小娘には正直感謝してるんだぜ?
何故なら・・俺にとっては極楽へ行くきっかけを作ってくれたんだからな。
虚圏、勿論そこは虚どもの国だ。
強ええ虚がゾロゾロいやがる。どうだ?俺にとっちゃまさに極楽みてえな所だろうが。
正直俺には、小娘の救出なんぞはメシに添えられた沢庵みてえなもんだ。
殺りにいくんだよ。強ええ奴をな!
俺一人で行きたかったんだが、残念ながらその話は無くなった。
俺以外にも行きてえって引かねえ奴らが居やがってよ。
・・ちっ、俺の分け前減るじゃねえか。
ま、仕方ねえ。片端から斬って行けばいいことだ。
小娘と一護が居る方向には、最初から救出に行くことになってた俺が向かった。
てのは、方便だ。
一番今戦ってるやつで強いのが、たまたま一護と小娘の傍にいたからだ。
強ええ奴は俺の獲物だ。
盗られてたまるか。
十刃のお付きらしい雑魚は斬り捨てた。
弱え奴は邪魔なだけだ。目ざわりでしかねえ。
一護はちょうど、死にかけだ。
俺の邪魔はしねえだろ。
・・さて、お楽しみと行こうじゃねえか。
妙にヒョロ高い奴だった。ノイトラとか言うらしい。
まァ。背格好なんざどうでもいい。
・・・要は強ええかどうかだ。
それ以外に興味はねえ。
イヤにベラベラ喋る奴だ。
硬えのが自慢で、だから斬れねえと豪語しやがる。
・・ちっ、そんな台詞は似たようなのも含めて、こちとらヤマほど聞いてきた。
喋りたければ喋れよ。
どんなに硬かろうが、死なねえだろうが、最後に立ってる奴が判断する。
最後に立ってる奴が勝ったってことだ。
簡単なことだろうが。
硬てえだなんだのは、だから俺にはどうでもいい。
相手が硬てえと思えば、そういう戦いをすりゃあいい。
その戦い方ってのは、俺の体が覚えてる。
筋肉の一筋、毛の一本に至るまで、俺の体の隅々までな。
・・・ちっ・・硬てえな。
言っとくが奴のことじゃねえぜ?
俺の筋の方だ。
暫く、本気で戦ってねえからな。ずいぶん鈍ってやがる。
確かに奴は硬ええ。
そういうのを斬るのはコツってのがあんだけどよ。
もうちっと、戦って体慣らさねえと筋が緩んで来ねえみてえだ。
丁度良いじゃねえか。
向こうは、硬てえのが自慢だ。
てことは、いつもよりも余計に斬れるってことだろ?
俺は得したって訳だ。
・・ようやく慣れてきたな。
何、顔色変えてやがるんだ?
硬てえからって、斬れねえって事にはならねえだろうが。
これからなんだからよ、楽しくやろうぜ。
焦るなよ?まだまだ楽しもうぜ?
肩慣らしにゃ丁度良い。
次に備えて、準備運動と行こうじゃねえか。
なんちゃって。