可愛い子には旅させよ(藍染とギン)

「君が新しく配属になった子だね?僕は五番隊副隊長の藍染惣右介だ。学院時代の噂は聞いてるよ。ようこそ、五番隊へ。」
「市丸ギン言います。よろしゅうお願いします。」

・・・その光景は、ごく普通のものだった。

・・・そう、異様なまでに・・。

天才と噂されているとは言え、ほんの小さな少年が大人の世界へ唯一人入るのだ。
普通ならば、緊張しないはずはない。
全くの新しい世界に期待と不安に胸を高鳴らせるのは、大人であろうとも同じだろう。
しかし、その少年はあたかも、近所の人へ挨拶するかのような気楽さだった。

たった一年で真央霊術院を卒業した超天才が、隊に配属されたのだ。迎える方も、期待と不安に満ちているはずである。
優秀な人材を獲得できたという喜び。そして同時に、将来の己の地位の不安を漠然と感じる。それが普通というものだろう。
しかし迎えた副隊長もまた、天才少年を賞賛しながらも全く感情を動かされていない。

藍染のそんな様子に、ギンの方が『へえ?』というようにニヤリと笑うのが見えた。
「副隊長、失礼いたします!」
隊首室には主である平子の姿は無い。どうやら所用で出かけているようだ。
藍染とギンが居るその部屋へ、席官と見られる男が一人入ってくる。

「ああ、君か。噂の新人が来てくれたところだ。君も挨拶するといい。」
「ええ?この子が・・!」
その男は、改めて噂の新人がまだ子供であることに驚いているようだった。
「彼は、うちの三席でね。君にも席官の座は用意する予定だが・・まだ決まっていないんだ。」

すると、ギンは小さな頭を巡らせて、三席の方を見ると恐るべき言葉をサラリと口にした。
「・・・なんや、五番隊て、こないな弱そうなお人が三席はってはるんですか?
ボク、この人の下の席次や、イヤや。」

おやという顔をする藍染に対し、言われた三席は当然のことだが、真っ赤になって憤慨した。
「なんだと、小僧!!それが上官に対する言葉か!!霊術院では天才だったかは知らんが、ここは護廷十三隊!!霊術院に居るのが短すぎて、礼儀も教えられる暇がなかったみたいだな!」
飛びかからんばかりに思わず詰め寄ろうとした三席を片手で制する藍染。
「離して下さい!副隊長!
こいつに礼儀というものを叩きこんでやります!」
「そやかて、ホンマのことやもん。」三席の怒気など、そよ風ほども感じていないかのようにギンが煽る。

それを見て藍染が微笑の口角を僅かに上げる。
「・・自信があるようだね。」
問いかけはギンに対してだ。
「・・試してみたらええやろ?」
余裕のギンに、三席の怒りは頂点に達した。
「貴様ぁ〜〜!!!副隊長!こいつと勝負させて下さい!こんなにコケにされて黙っているわけにはいきません!」

「・・仕方がないね。」

・・そして・・五番隊舎の人目のつかない裏庭で、三席とギンの立ち合いが始まったのである。
人目に付くと、後後面倒だからと、幻術を張る藍染。その口元には相変わらずの笑みが浮かぶ。
「では、二人とも心おきなく勝負してみるといい。準備はいいかな?」

「いつでも!!!来い!小僧!!」刀の柄に手をかける三席。
それを見て、ギンが藍染に質問する。
「・・なァ、殺してもええのん?」
それに対し、藍染が答える。
「そうだな・・それは君に任せるとしようか。では始め!」

「うおおお〜〜!!!」気合いと供に、ギンに向って駆け出す三席。
狙いを定めて、居合いで斬り伏せるつもりだった。
あと、もう少し!その時ギンの姿が消えた。
「・!!?」どこに消えた?と姿を探す三席の胸を下からの衝撃が貫いた。
何が起こったのか解らなかった。目を下に向けるとそこにはギンの小さな頭がある。こちらの方を笑みを浮かべて見上げていた。そしてその先には自らの胸を貫いている斬魄刀が。

三席は自らの胸から流れ出た血がギンの銀色の髪を赤く染めていくのを呆然と見る。
ギンも、自分が血で濡れていくのをまるで雨のように見続けている。口元には残酷な笑みを張りつかせたまま。

そこで三席の意識は途切れた。・・永遠に。

「・・良いね。噂以上の腕だ。
・・もう一度、名を訊いておこうか。」
下の部下が殺されたというのに、相変わらず穏やかな口調の藍染。
「ギン、市丸ギンや。」
頭から血だらけの姿で無邪気とも見える態度で答えるギンは悪魔以外の何物にも見えない。
「どうだった、うちの三席は。」そして、その様子を涼やかに見る藍染もまた。
「全然あかんわ。話んならん。」「そうか。それは何よりだ。」

そして、血ぬられた席官の就任式が終了する。

「・・さて、そのままの姿だと問題だな。風呂で血を流すと良い。風呂はこちらだよ、おいで。まだ案内はされていないだろう?」

先に歩きだす藍染にギンは付いていく様子がない。
「・・どうした?」藍染が問う。
「コレ、どないすんのん?」死体を指差し、ギンが問う。
「どうにでもなるさ。不慮の事故はいつでもありえるからね。」
「ふ〜〜ん。」「では行こうか。」

それでも、ギンの足は止まったままだ。

「ボク、悪い人にはついていかへんことにしとるんやけど。」まだ変声期も迎えていない声で言う。

「成程、それはいい心がけだ。・・それで?」

「そやから、うんと悪い人に付いていくことにするわ。」そう言い置いて、藍染の方へ歩み出す。

「それは心外だな、これでもいい人で通っているんだが。」
「どこが、エエ人なん?ボクが反対にやられたら可哀そうやなあとか思わへんのん?」
「それは思わないな。」「ひどいなァ。副隊長さんは。」

それに対して、藍染は答える。
「・・言うだろう?<可愛い子には旅をさせよ>と。僕はそれをしたまでだよ。」


「ほな、しゃあないなァ。ボク、確かに可愛いしなァ。」


ギンの小さな頭が納得したように縦に振られるのが見えた。







なんちゃって。
 

 

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