風邪知らず(狛ワンとシロちゃん)
ちっちゃいけれど、男前。
そんなシロちゃんにも、会うのが苦手な者は存在する。
会うたびに子供扱いして、何かと食い物を押し付けてくる浮竹もそうだし、「子供は大嫌いだけど、研究材料としてなら歓迎するヨ。」と憚らない眼差しを投げつけてくるマユリ様もそうだ。
それらはその者たちの性格的なものが起因している。しかし、ごく稀にその者の身体的な理由の為に会うのが苦手だという者もいるのである。
七番隊隊長、狛村左陣。
身体的理由で会いたくない者の名だ。
日番谷冬獅郎、133センチ。狛村左陣、235センチ。
その差は102センチ。
割合から換算すると、身長160センチの者からすると相手は280センチを超えるほどの圧迫感となる。
端的に言うと見上げるだけで首が痛い(笑)。
「・・狛村か。」「日番谷隊長か。久しぶりだな。」
見た目はさておき、狛村の性格は男義にあふれた好ましい性格をしているとシロちゃんは思っている。そして、それは相手の狛ワンも同様の様だ。
「へっくしょい〜〜とコルァ〜〜!」
その時狛村の後ろから盛大なくしゃみが聞こえた。
狛村が振り向くと、そこには鼻をすする副官射場の姿が。
「あ、すんません!」失礼を射場は直ぐに詫びたが、何やら具合が悪そうだ。
「どうも風邪を引いたようでな。休んでおれと言ったのだが聞かんのだ。」
「これぐらい何でもありゃしません。」と言いつつ、またくしゃみをする始末だ。
その様子を見たシロちゃん、一つため息をついて、懐から手拭いを取り出した。
「ほら、射場。」
「いや、手拭いならこっちも持ってますよって!」
「・・違う、持ってみりゃわかる。」
射場に渡された手ぬぐいはなんと凍っていた。
「なんじゃこりゃあ?」と驚く射場。
「額にあててろ。熱あるようだぞ、狛村。さっさと帰らしたほうが明日には響かねえんじゃねえか?」
「・・のようだな。鉄左衛門、今日は帰れ。命令だ。」
「へ・へい!すいやせん!!じゃ、お言葉に甘えさせてもらいます!」
少し危うい足取りながらも、くしゃみを連発して帰って行く射場を、大小激しい二人で見送る。
そこをすこし涼しいというには冷たすぎる風が通り過ぎて行った。
「隊の恥をさらすようだが、どうもこの頃風邪をひく者が多くてな。」と狛ワンが続けた。
「別に七番隊だけじゃねえ。十番隊でも流行ってる。」
「儂は風邪を引いたことが無いのでよく解らぬのだが、やはり苦しいものなのか?」
至極真面目に訪ねてくる狛ワンの毛並みは今日もピカピカのフカフカだ。(笑)
まあ・・これなら確かに風邪はひかねえかもな・・と思いつつ、そんな事は男前ちびっこシロちゃんは絶対言わない。
「すまねえ。それには俺も答えられねえ。
俺も風邪ってのは引いたことが無え。」
それを聞いて、狛村何かを思い出したようだ。
「そう言えば、貴公は氷雪系の遣い手だったな。
やはり寒さには強いのか?」
「まあ、一応は。」
「そう言えば、貴公も副官の姿が見えぬようだが・・。」
「風邪だそうだ。」
「おお。それは心配だな。」
「バカ言え。あれはただのサボリだ。サボリ。あいつは風邪なんか引くタマじゃねえ。」
「・・・・・・・・。」
言下に言いきったシロちゃんに、狛ワンいつもの寡黙な狛ワンに戻ったようだ。
「・・貴公も苦労しておるようだな。」
基本的に狛村は女性差別をするようなタイプではないのだが、女性の扱い方が良く解らないので、正直苦手だ。←(笑)まあ、それがあるから副官は射場のような男を選んだのだが。
サボリと知りつつ、黙認するシロちゃんには、やはり相当の配慮があるんだろうと思ったよううだ。
「別に苦労はしてねえ。あいつもやるときはやるからな。」
さらに部下のフォローを入れる所に、狛ワンの中でシロちゃんの株はさらに上昇に転じたらしい。
ヒュウとまた冷たい風が吹き抜けて行く。
狛ワンの耳先を枯れ葉が掠め、片耳がピクリと動いた。
・・しかし、シロちゃんには視界の上限を超えていたので見ることはできなかったようだ。
どの道この二人には、風邪をひこうが何をしようが寝込んでいる暇など無い。
その意味では風邪知らずは都合が良いのかも知れなかった。
なんちゃって。