貴族とメガネとキツネ目と(白哉・藍染・ギン)

・・今から100年ほども前のこと。
朽木白哉がまだ死神で無かった頃のことだ。

風の噂で白哉と同年齢若しくはまだ少し幼いと思われる少年が、真央霊術院を僅か一年で卒業し、鳴り物入りで死神になったことが、白哉の耳に入ってきた。

何でも入隊直ぐに席官となったそうだ。天才少年と回りは褒めそやしているらしい。

一方、白哉はまだ死神にはなっていない。無論その実力はある。席官クラスになれる実力があることも自他ともに認めるところだ。

・・だが、まだ死神にはならない。

ほんの幼いころより、厳しすぎる死神としての教育を受けていながら、未だに死神にならぬのは朽木家ならではの事情があった。

『自分と同じ年頃の天才少年』

自分がその少年に劣る筈はないと白哉は確信している。
大貴族の跡取りとして生を受け、厳しい英才教育を受けた自分が、ただの平民出の死神に劣るなどあってはならないからだ。

・・・だが、気にならないわけでは無い。どんな少年なのだろう。しかし、具体的にその少年の事を根掘り葉掘り聞くなど、当然白哉のプライドが許さない。

そんな折、白哉の祖父がやってきた。
「おお、今日も励んで居るようじゃな。白哉。」

白哉の祖父は六番隊の隊長を務める、尊敬すべき祖父であり、本心を伝えられる数少ない相手でもあった。
件の少年の事を聞くべきかやめるべきか一瞬迷いはしたが、この祖父なら受け止めてくれる。
思い切って、聞いてみることにした。

「・・爺様。」「どうした?白哉。」
「私くらいの年の平民が死神になったと聞いたのですが、本当なのですか?」

白哉が同じくらいの少年を気にするなど、初めての事だった。
周りには比べるべき存在が居なかったこともある。同じくらいの子と遊ぶことも無く、ただ勉学や修行に勤しんできた白哉でも、やはり同じくらいの子のことを気にするらしい。
気恥ずかしいのか聞きにくそうに、そっぽを向いたまま聞いてくる孫に、可愛さを覚え、思わず祖父に微笑が浮かぶ。

「おお、その子の事か。確かじゃ。名までは覚えておらぬのだが、確かにお前と同じくらいと聞いた。我が隊ではなく、五番隊に配属された故詳しいことは知らぬのじゃが。」
「・・そうですか。」

思ったよりも情報を得られず、失望の色を浮かべる孫。そんな孫を見て、祖父がなんとかしてやろうと思うのは、ある意味当然だろう。
・・可愛い跡取りであり、孫なのだから。

「・・白哉よ。どうじゃ?今から護廷隊の方へ見学に来ぬか?」
「・・見学・・ですか?」
「お前もいずれは死神となる身、見ておくのも勉強のうちじゃ。
本来死神しか入れぬ場ではあるが、それはどうとでもなる。何、前もってお前の顔見せとでも言えばよかろう。」

そして、祖父に連れられて、白哉が護廷隊に行くこととなった。
六番隊朽木隊長の孫にして朽木家の次期当主ということもあり、白哉は直ぐに野次馬死神たちに取り囲まれてた。

いかにも不機嫌そうにその野次馬共を一瞥する白哉。
霊圧を探るも大した者はいない。

『ふん、この程度の実力で死神とは、片腹痛い。』

六番隊に連れて行かれた白哉は、そのまま屋敷へ戻るのかと思ったのだが、祖父は意外にも五番隊へ寄った。
「どないしたんです?朽木隊長がウチに来るやなんて珍しいやありませんか。」五番隊隊長、平子がいかにも珍しそうに言う。そして、無遠慮に平子を睨みあげる隣の子供にチラと目を走らせた。
「こらまた、生意・・やない、利発そうなお子さん連れで。」

流石に祖父の目の前で「生意気」とは流石の平子も言えないらしい。クソをつけなかっただけ、かなり頑張ったといえるだろう。
「いや何、これと同じくらいの子が死神になったと聞いてな。
実は白哉は同じくらいの子供とあまり接したことがないのじゃ。

もし、よければその子に会わせてやってくれんかの?」

すると、平子は快諾する。「ああ、ギンのことかいな。ええですよ?誰かギンここに連れて来てくれへんか。」

そして、ギンが現れた。連れてきた隣の眼鏡の男は腕に腕章を巻いている。
『こやつが、例の平民か』
意外だった。幼くして死神になったというから、同年齢とは言え体の大きなずんぐりとした平民だろうと白哉は思っていたからだ。

銀色の小さな頭。白哉と同じく細い。目が異常に細い。何だ、あの眼は。ちゃんと見えているのか?そして何がおかしいのか、ヘラヘラと笑いを浮かべた口。

・・そして何よりも侮れない霊圧。

『気に入らぬ。』
初対面にもかかわらず、睨みつける白哉。

「おお、この子がそうか。確かにうちの白哉と同じくらいじゃな。
市丸ギンと言ったか?なるほど、確かに小さな体に似合わぬ霊圧。これなら噂も納得じゃ。」
どうも、孫と同じくらいの子供には甘くなってしまう六番隊の隊長に、ギンが挨拶する。

「市丸ギン言います、よろしゅうお願いします。
こちらはお孫さんですか?ボクと同じくらいのお孫さんがおられるいうんは、聞いてたんやけど、ホンマやったんやなあ。」
「これ、お前も挨拶せぬか。」

言われて渋々白哉の口が開く。
「朽木白哉だ。」

横柄とも言える態度にもギンの笑みは消えない。それどころか、無邪気とも言えるような鋭すぎる質問をしてきた。
「・・なァ、なんで、死神にならへんのん?」

その言葉に、ピクリと白哉の眉が跳ねあがる。
平民ごときに敬語も使われず話しかけられたのだ。朽木の次期当主たる自分が、平民ごときにため口をきかれたわけである。
本来ならば、平民が白哉と直接話をすることすら、許されぬことなのにだ。

「口の利き方も知らぬと見える。
そのような”愚かな”者の問に、答える気などない。」

白哉は更に不機嫌になっていた。
代わりに祖父が助け船を出す。

「なに、これにはまだ学ばねばならぬ事があっての。
もう少し鍛練を重ねれば、死神にさせるつもりじゃ。」

すると、ギンが納得したかのように、小さな両手をポンと合わせた。
「ああ、なるほど。
要するに、死神なるんやったら隊長以外や恥ずかしゅうてやらへんてことですか?

そら、大変やなァ。」
同情したかのように白哉を見やる。

そこで白哉の堪忍袋の緒が切れた。
「当然だ!
朽木の次期当主が誰ぞの下に就けるか!

お前達平民と私を同じにするな、莫迦者!!」


白哉の癇癪玉が破裂した段階で、この面談はお開きとなった。

原因を作ったギンは、平子に「わざと煽るな、アホ。」とこつんと軽く拳骨を入れられた後、「どうせやるならもっと煽ったらんかい。」と不穏な言葉に、「その前に向こうが帰ってもうたんです。」と軽口を叩く。

・・・そして・・・


「・・ギン、どうだった?朽木の御曹司は。」
「流石に大貴族のボンボン言うだけあって、ええ霊圧しとったんちゃいます?藍染副隊長もそう思いましたやろ?」
「それについては同感だ。

・・で?彼に勝つ自信はあるかな?」

藍染のからかう様な言葉。それに少し考えるような素振りを見せるギン。
「それ、“表”の勝負の事?」
「形式は君に任せよう。」

「殺してもエエいう勝負やったら、ボクが勝つんきまっとるわ。
あないな誰も殺したことないボンボンや、ボクやのうても勝てへんで?」

「ほう?」藍染の眼鏡がキラリと光る。
「いくら修行やなんやしたって、ヒト殺さな強うはならへんて。
そやから今の段階ではボクの勝ちや。

副隊長もそない思うて聞いてはるんやろ?」

「否定はしないよ。だが、彼もいずれガラリと変わる時期が来る。

・・その時また同じ質問を君にするとしよう。」

「イヤやわあ。副隊長。冗談でもボクが勝つて言うてくれへんの?」
「そんなものが、お前の役に立つとは思えないが?」

見事な藍染の切り返しに、ギンが減らず口で返した。
「そやかて、枯れ木も山のにぎわいて言いますやん。」


・・・貴族とメガネとキツネ目と


いずれは、隊長として同席となる者たちである。





なんちゃって。

 

 

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