刃の心(砕蜂)

何処よりも他者から疎まれ
何処よりも他者から蔑まれ

そして何処よりも他者より恐れられる部署。
そして、何処よりもそうでなければならぬ部署。

それが・・隠密機動というものだ。


隠密機動とは言わば、瀞霊廷の暗黒の部分を担う所だ。
代々処刑・暗殺を生業とし続けてきた我が「蜂家」の一族たちもこの部署に配属されてきた。

隠密機動に第一に求められるのは、技ではない。
人の心を捨て去ることだ。
仲間を思う気持ちなど、隠密機動にはあってはならない。
ましてや死を恐れることなど、言語道断だ。

自分の首が跳ね飛ばされるのを知りながらも、相手の急所を突く。

仲間を命を利用し、敵の命を絶つ。


これに、疑問や嫌悪を感じるようならば、隠密機動ではない。
人を危める刃の下に隠密機動の心はある。
いや・・ただの心などあってはならぬ。刃のごとき心でなくてはならぬのだ。

それゆえ、隠密機動の者たちは、お互い馴れ合うこともなく淡々と任務を果たす。
仲間の死が報告されても、眉ひとつ動かす者などいない。
・・・そうだ。馴れ合いなど要らぬのだ。
少なくとも私にとっては・・な。


その昔。
・・といっても、そう遠い昔のことではない。100年と少し前のころだ。
隠密機動は今とはまったく様相を異なった部署だった。
笑いの絶えない、大らかとさえいえるような。
やることは今とは変わってはいなかった。
暗殺や処刑、表には言えぬ任務ばかりだ。
なのに、隠密機動の装束を一旦脱げば、ただの人に皆変わった。

夜一様・・。
あの方が、太陽のごとく私たちの上に光を注いでおられたからだ。
私は太陽を目指して芽を伸ばす向日葵の如く、夜一様を尊敬していた。
夜一様を敬愛し、そして夜一様が頭領たる刑軍でいられる事を誰よりも誇りとしていた。

だが、その太陽は突如消えた。
誰にも何事も知らせず。
私にも何も知らされず。

私は暗黒の中、伸びる先を失った哀れな向日葵となった。
喪失と絶望の闇の中で私は悟ったのだ。
やはり、隠密機動に光など必要ないのだと。
そもそも隠密機動とは闇に潜むが定命。
部下と上官が、馴れ合うことなどあってはならぬのだ。

それゆえ私が隠密機動の総司令官と二番隊の隊長となったとき、副官候補として名の挙がった者たちから、もっとも私と合わぬだろう男を選んだ。

それが大前田だ。
金持ちの下級貴族の跡取りで、将来は事業を継ぐつもりだが、箔をつけるために死神になったような男だ。任務で死ぬつもりなど全くないだろう。
ぶよぶよの体のくせに油せんべいなどを食って、まだ太らせるらしい。
いつも、文句を言って私の陰口ばかり並べ立てるだろう男。

これほど私と合わぬだろう要素を揃えてる男も珍しい。

それでいい。錬磨の為には部下と上官は反目しあってしかるべしだ。


隠密機動は刃の心でなくてはならない。


馴れ合いなど必要ない。



・・・そうですよね、夜一様・・。とじっと手の中の写真を見つめる。←ありー?


ああ・・今日も夜一さまは凛々しくお美しい。


・・しかし、写真もそろそろ新しいのにせねばならんな・・。

この写真ももう5日も前のものだしな・・。←ありりー?





なんちゃって。




 

 

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