こんぺいとう(草鹿やちる)

『・・・きらきら・・きらきら・・
白や桃色、黄色に緑。
お星さまみたいにきらきらしてる。

ちっちゃくて、あまくて、とってもきれい・・。
こんなに美味しいものがあるなんて。

・・・こんぺいとうって不思議だね。

まるで剣ちゃんの背中から見るお星さまがそのままお菓子になったみたい。

・・きれいだね・・。

・・ねえ、剣ちゃん。』


あたしが剣ちゃんに拾われて、一緒に旅をしてた頃。
剣ちゃんは強い奴を探して、流魂街をあちこち移っていたの。
といっても、剣ちゃんは流魂街の最下層の更木から来たから、上の数字の流魂街を順に旅をしていく感じかな。

数字が上がれば上がるほど、確かに町並みはきれいになって行ったけど、何処にだって腕に自信のある奴っているもんでしょ?
そんな奴と剣ちゃんはまるで遊びみたいに戦ってた。

それがすごく楽しそうで、あたしもそんな剣ちゃんを見るのが大好きだった。
剣ちゃんはすごく強いから、向こうはなんとか弱みを掴もうと、あたしを仲間が何度も狙っても来たっけ。
だから、あたしはおにごっこがすごく上手になった。
だって、あたしが捕まってたら、剣ちゃんの邪魔になるでしょ?
だいたい、あいつらなんかに絶対捕まってなんかやんないんだから!

戦いが終わって満足そうな剣ちゃんに、一番に飛びつくの。
「剣ちゃん!つよ〜〜い!」

剣ちゃんからは、汗の匂いと・・血の匂いがするの。
でも、あたしはその匂いが好き。
だって、それが剣ちゃんの匂いだから。

何処だったかなあ。
だいぶ数字の少ない流魂街だったと思うんだけど、どこだかはもう忘れちゃった。

街で、あたしは初めてこんぺいとうを見たの。

きらきらしてて、あんまりきれいだったじから、あたしは最初宝石だとおもったの。
そのお店には、お星さまみたいなこんぺいとうがお菓子の真ん中に山盛りになってた。

それで、剣ちゃんに思わず言っちゃったの。
「見て!剣ちゃん!
あんな所に宝石がいっぱい!お星さまみたいだね!
でも、なんでお菓子のなかにあるんだろう、不思議だね。」

あたしたちは旅をしてたから、あんまりお金も持ってなかったし、あたしは剣ちゃんと一緒にいられるだけで幸せだったから、剣ちゃんに何かを買って貰おうって思ったことは無いんだ。
あ、でも今は違うけど。
その日食べられればそれで十分。剣ちゃんもあたしもそう思ってたし。

すると、剣ちゃんも不思議に思ったらしくてあたしを肩車したまま、そのお店に近寄って行ったの。
剣ちゃん、見た目怖いから、もうお店の人大変そうだった。

「おい。」
「は・・!はい・・!!あの・・私どもはしがない菓子屋でして・・どうか命だけは・・!」
「てめえの命なんざどうでもいい。
その真ん中のやつは何だ。」
「は?」
「は?じゃねえ、そのちっちぇえ粒粒の奴だ。」
「こ・・金平糖でございますか?」
「金平糖?食えるのか?」
「は・・はい!食べられます!」
「じゃ、これで買えるだけくれ。」

剣ちゃんが出したのは何枚かの小銭。
でもそれが持っていた全部のお金。

「剣ちゃん!いいよ、買わなくて!だって・・」
「なんとかなるだろ。オヤジ、いいからくれ。」

お店の人が震えながら、袋にこんぺいとうを入れて剣ちゃんに渡すと、剣ちゃんはそのままあたしに「ほらよ。」とくれたの。
剣ちゃんがお菓子を買うなんて初めてだし、ビックリしちゃった。
あんまりビックリしちゃったもんだから、「ありがとう」ってなかなか出てこなかったっけ。

恐る恐る、袋から一つ出してみたら、それはきれいな桃色をしてた。
「・・わあ・・・!」
袋からは甘くていい匂い。口に入れたら・・甘くて。
「旨いか?」「うん!すっごく!」「そうか。」

おいしかったな・・。
あんまりおいしいから、一気に袋の半分くらい食べちゃって。
でも、半分くらいになると、もったいなくて、一日いくつって決めたっけ。
それでも、日が経つとどんどんこんぺいとうの数は少なくなって。

あと、二つになったとき、寂しかった。
そんな夜・・剣ちゃんが私に言ったの。

今でも覚えてる。
星のきれいな夜だった。あたしはいつもの様に剣ちゃんに肩車してもらってた。

「やちる、お前ちゃんとした暮らし、したくねえか?」
あたしはその時嫌な予感がした。

「・・ちゃんとした暮らしって・・?」
「ちゃんとした暮らしっていやあ、まあ・・ちゃんと家があって、たまにはその菓子が食えるような暮らしだ。
俺と居たんじゃ、何時まで経ってもその日暮らしだ.
幸いこの辺の流魂街まで来ると、大分暮らしも楽みてえだし・・・もしお前がその気なら・・。」
「・・剣ちゃん、あたし邪魔?」
「そんなこた無えよ。」
「あたしは・・・剣ちゃんの側がいい。剣ちゃんの傍で居たいの!
剣ちゃんの傍で居られるなら、こんぺいとうなんか食べられなくていいの!!

剣ちゃんの邪魔にならないようにするから!!
もっとうまく逃げるから。隠れるから!強くだってなるから・・!!

・・・お願い!!剣ちゃんの傍に居させて!!」

必死で、剣ちゃんの頭にしがみついた。
離されたくない。離れたくない。一緒に居たい。
死んでもいい!!

・・・・剣ちゃんの居ない世界に


・・・・あたしの居るところなんてどこにもないの。

・・・・そう・・どこにも・・・。


震えが止まらなくて・・涙が止まらなくて・・・。
必死で剣ちゃんにしがみつくしかなくて・・・


・・・そんなあたしを肩越しにぽんぽんと頭を撫でてくれたの。
「・・悪かった。お前の好きにすりゃいい。」

「あたし・・剣ちゃんと一緒に居てもいいの・・?」
「ああ。」
「ホントに?」「ああ。」「約束してくれる?」「ああ」

そして、あたしは最後の二つのこんぺいとうを取り出した。
剣ちゃんにも見えるようにお星さまと並ぶように空高く。

「お星さまに誓って約束してくれる?」
「ああ。」
「じゃ、約束!」

ひとつはあたしが、そして最後のいっこは剣ちゃんに。

「はい!口開けて?」
剣ちゃんは素直にこんぺいとうを食べてくれた。

これは約束。
あたしと剣ちゃんだけの約束。

「・・・甘え。」
剣ちゃんのつぶやきに、あたしは鼻をすすりながら、ニッコリ笑った。
「きっとお星さまって食べると甘いんだよ!
こんぺいとうはね!きっとお星さまからできてるんだよ!」

そうして、剣ちゃんと見上げたお星さまは・・・

とってもとってもきれいだった。


『・・・きらきら・・きらきら・・
白や桃色、黄色に緑。
お星さまみたいにきらきらしてる。

ちっちゃくて、あまくて、とってもきれい・・。
こんなに美味しいものがあるなんて。

・・・こんぺいとうって不思議だね。

まるで剣ちゃんの背中から見たお星さまがそのままお菓子になったみたい。

・・きれいだね・・。

・・ねえ、剣ちゃん、約束だよ?


ずっとずっと・・やちるを一緒に連れて行ってね。』


こんぺいとうを見るたび、あの日見たお星さまを思い出す。

・・・そして剣ちゃんとの約束を。


だから、あたしはこんぺいとうが好き。

あの日剣ちゃんと食べたこんぺいとうの味を。

あたしは決して忘れない。




なんちゃって。
 

 

inserted by FC2 system