貰わされる隊長(日番谷冬獅郎)

・・・護廷十三隊隊長。
無論高給取りの代名詞の隊長において、誕生日だの特別な日でもなければ普通は誰かに物を貰う事は無い。
だって、自分の方が高給取りだし、同じ隊長同士でも余程仲でも良くなければ「はい、コレあげる。」なんて事は無いだろう。

・・ただでさえ、隊長同士ってのは仲悪い人多いし。←(笑)

だが、一人だけ例外的な人物がいた。

・・そう、日番谷冬獅郎、十番隊隊長その人である。

断っておくが、冬獅郎は物をもらいたいだなんて欠片も思ってはいない。
だが、周りはそっとしておいてくれないのが、冬獅郎にとっては不幸だった。

冬獅郎は、天才で生意気で子供気皆無で並居るオッサン隊長たちと同格なのだ。
敬遠上等かかってこんかい、くらいの気合いで冬獅郎は居る。

しかし、オッサン隊長たちにとっては、天才でクソ生意気で子供気皆無だけれど、やっぱり子供に写るのだろうか。冬獅郎に何かと物を渡してくるのだった。

「お〜〜い!日番谷隊長〜〜!」
気のよい性格が声にまで現れている、浮竹十四郎。
彼が冬獅郎に物を渡す回数、ダントツトップの隊長だ。
「・・・なんだ、浮竹。」
呑気な浮竹に比べ、対応する冬獅郎のテンションは超低空飛行だ。
天才の彼は、この後の展開を既に読んでいるからだろう。
「やあ!元気そうだね!」
「・・・断っとくが、その右手に掴んでるモンなら要らねえからな。」
すると浮竹、右手に持ったでかい風呂敷包みを冬獅郎の目の前に持ち上げる。
「おっ、気付いたかい?流石育ち盛りだな!君に食べてもらおうと思って持って来たんだ。
貰ってくれ。」
にこにこ話す浮竹は憎めないのだが、問題がある。

・・根本的に話がかみ合っていない。←(笑)

「いや・・だから要らねえって・・。」
「ハッハッハッハッ!いいよ、遠慮なんか!じゃ!俺はこれで!また会おう!日番谷隊長!」

無理やり冬獅郎へ荷物を押しつけて、いかにも爽やかな笑顔とトレードマークの片手を上げて挨拶を残し、去って行った。
「・・・・・・。何で病人なのにあんなに元気なんだ、あいつは。」
本当に肺病持ちなのか疑いたくなる、浮竹だ。ちなみに風呂敷の中身は大量のパンだの菓子だのである。貰った食糧の大半は、彼の副官の乳の中へと消えていた。

ため息を一つついた冬獅郎の後ろから、これまた呑気そうなオヤジの声が聞こえてきた。
「おっ、日番谷くんじゃないの〜〜。お久しぶりだね〜〜。」
先ほど風呂敷を押しつけた男の親友、京楽春水である。
「あ、酒まんじゅう今、外で買って来たんだけど食べるかい?」
と大量に買ってきたらしい饅頭の包みを一つ差しだそうとするその先に、冬獅郎は先手を切った。
「要らねえ。」
すると、春水ちょっと寂しそうな顔をした後、合点が言ったように何やら自分で納得したらしい。
「ああ、そうだよねえ。未成年に酒まんじゅうなんてダメだよねえ。ゴメンゴメン。」
「俺はちゃんと成人してるし、大体酒まんじゅうなんて未成年でも食えるだろうが。」

そう。日番谷はちゃんと成人しているのだ。
どんなちびっこでも席官になれば、成人として扱われる。それに冬獅郎の場合、言いたくないほどの年月をこの身長で過ごしているが、これでも三十年以上生きているのである。
大体酒まんじゅうなんて酒の匂いは残ってるけど、アルコールなんてほとんど飛んでいる。子どもでも食えるのだ。

「あ?そうだったっけ?ゴメンよ〜〜、じゃ、これお詫びのつもり。ハイ。」
そして結局、冬獅郎には酒まんじゅうが残されるわけである。


中には嫌がらせ的な奴もいる。
「オヤ?そこにいるのは日番谷隊長かネ?」
特徴的な声、そして更に特徴的外見の涅マユリだ。
彼が冬獅郎に声をかけてくるときは大体ろくなことではない。
「・・涅・・俺に何の用だ。」
途端に両者の間に不穏な雰囲気が流れ出す。
「気が向いたものだからネ。君にいいものをあげようと思ったのだヨ。何、君もきっと気に入るヨ。」
「要らねえ。」
即答する冬獅郎。しかし、そんなことでマユリが引き下がる筈がない。袂から何やら液体の入った小瓶を取り出した。
「これが背をのばす薬でもかネ?」

「・・・・・・。・・・・要らねえ。」
どうした、冬獅郎、途端に歯切れが悪くなったぞ?(笑)
イヤ・・いろいろ彼にも悩みがあってね・・。
「今、ちょっと躊躇ったネ?」すかさず突っ込んでくるマユリ。流石は意地の悪さは天下一品だ。
「何、別にいかがわしい薬なんかじゃないヨ。←当たり前だ。
ちゃんとした成長薬だからネ。ホレ。」
ポイとぞんざいに薬を投げるマユリは、本当に自分の研究を愛しているのかと疑いたくなる冬獅郎だが、ちゃんと片手でそれを受け取る所がちょっと悲しさが漂うところだ。

「使うかどうかは君次第だヨ。副作用があるかどうかは・・秘密としておこうかネ。何、怖ければ飲まなければいい。」
そう言い捨て、踵を返したマユリの後頭部に薬を投げつけようとして一瞬手がにぶる冬獅郎。

・・いや、彼も色々と悩むことがあるのだ。だってもう何年も百三十三センチなんだもん。

薬を握ったままの冬獅郎に、背の悩みなど皆無だろう人物から珍しく声がかかった。
「日番谷隊長、ちょっといいか。」
「狛村か。」
狛村左陣、身長二百三十五センチ。まあ、彼の場合背よりも外見の方が大変なのだが。ちなみにこの頃はまだ天蓋を被っていた。
流石に此処まででかいと困るんだろうとかと、見上げる冬獅郎の首もちょっと痛い。
「珍しいな、俺に何か用か?」
「実は一度、貴公に言っておきたいことがあったのだ。」
「俺に?」「儂がこの身長になれた秘訣だ。」

・・ピク。耳が動いた。ちなみに狛村の耳ではない。冬獅郎の耳だ。
顔色は変えないが、心の耳はダンボに無論なっている。

「儂がこの背になれたのは、ある物を多く取っていたためだと儂は考えているのだ。」
「ある物?」
「これだ。」
差し出されたのはビーフジャーキー。って、犬じゃねえんだからよ、と冬獅郎は突っ込むことができなかった。
何故なら、少なくとも目の前の男はそれで大きくなったというのだから。

「この発売元のが儂には一番しっくりくるのだ。
良ければ試してみてくれ。では儂は失礼する。」
シャイな所が意外にあるのか、何やら照れているらしい。
もしかして、いつまでもちっちゃい冬獅郎が気の毒に思いつつも、可愛いとやっぱり思ってしまうのかも。
「狛村。」「何だ。」「ありがとう。」
ここで、初めて冬獅郎、貰ったことに対し礼を言う。
ある意味快挙だ。この際、「何もビーフジャーキーじゃなくても普通に肉でいいんじゃね?」とか考えたことは無かった事にしてもいい。

「別に礼など要らん。こちらが勝手にした事だ。」
後ろを振り返らない所も、不器用ながらも好感が持てる。

狛村とはちょっと仲良くなれるかも。
そんな予感を抱きながらも、どっちも不器用だからムリなんだろうな。

そう的確な読みをしてしまう所が、冬獅郎の悲しいところでもあった。

今日も沢山色々な物を貰わされた冬獅郎。

それはそれで、彼は幸せなのかもしれない。





なんちゃって。
 

 

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