虫螻(狛村左陣)
・・・儂はお世辞にも器用な男ではない。
この狼の姿もあってか、他人と付き合う事を避けていた。
くだけた物言いも出来ぬ。気の利いた事も言えぬ。
・・そんな儂に友と呼べる者など、生涯出来ぬであろうと儂は思っていた。
それでいい。それがこの醜い姿に生まれた儂に与えられた定命というものなのだろうと。
諦めにも悟りにも似た心境だ。
儂は隠れ住むように身を隠してはいたのだが、流魂街のものに見つかれば途端に大きな騒ぎになった。
人びとは儂を虫螻の如く忌み嫌い、怖れ、なんとか追い出そうと躍起になった。
危機に陥る儂を救ったのは総隊長殿だった。総隊長殿は名すら名乗らず去って行かれた。
儂はその恩義に報いるべく、総隊長殿がどこのだれかも知らずに探す旅に出た。
しかし、真実の所は・・どこか儂が居る所を許される場所を求めて、まるで逃げるように儂は各地を旅していた。
その道中、天は儂に友と呼べる者との出会いをもたらした。
儂はその時初めて、儂と初見で笑顔で接する者をこの目で見た。
屈託なく、儂をただ普通の男として挨拶してきた。
・・・その男は目が見えぬ男だった。
その男は目が見えぬに、死神になるのだと言った。
その為に真央霊術院なる学院に通っているのだという。
目が見えぬということが、死神にいかほどの障害になるか、図り知れまい。
その盲目の男は、当然の如く死神になると言った。
その言葉に、迷いの色は欠片も無かったのを覚えている。
僅かな会話と最後まで爽やかな別れ。
「またこの男と話してみたいものだ。」
一期一会を望む儂が珍しくもそう思わずにはおれなかった。
・・その男は東仙要と言った。
時はそれから遅れることになるが、儂も死神を目指すこととなる。
先に死神となった東仙は、儂を温かく同じ死神として迎えてくれた。
東仙は見えぬ目で、そして儂はこの醜き姿で、共に苦労をしてきた身だ。
・・儂は初めて友と呼べる者を持った。
東仙とは、色々な事を語り合った。
死神の在るべき姿とは何なのか。
どうすれば平和な世になるのか。
鍛錬の方法や、悩みもだ。
経る年月は東仙との信頼をより強固なものしていた。
・・少なくとも儂はそう思っていた。
・・そして・・・
・・そして儂は・・・
・・その友に裏切られた。
東仙があのような反逆を企てるということは、相当な理由があってこそだろう。
誰よりも平和を愛する者だ。それ以外考えられん。
だが、何故儂に一言も無かったのだ。
儂はそんなに信用の置けぬ男だったのか?
貴公の心を預けられる存在ではなかったのか?
・・・逃げるは容易いことだ。
・・・だが儂は逃げん。いかなる現実からもだ。
・・つまり儂は・・唯一の友にも、心を許してはもらえぬ男だったということだ。
「ぽははははははっ!!
今のは効かなカタヨ、虫ケラ!!」
目の前の破面は儂をそう呼んだ。
「でもビクリはしたヨ・・・。
まさかオマエみたいな虫ケラが・・バラガン様の従属官でアル、ワタシを投げるトハ・・。
ビクリしすぎて・・アクビが出るネ。」
・・・虫螻か・・。
「卍解。黒縄天譴明王。」
・・なかなか上手いことを言う。
「儂は七番隊隊長、狛村左陣。
恥ずかし乍ら、貴公の言うとおり・・・
虫螻のような男だ。」
・・・そうだ。
友にさえ信頼されることのない虫螻の様な男だ。
だが儂は引かん。
絶対にだ!東仙!!
なんちゃって。