虫の知らせ(山本元柳斎重國)

・・・長う死神をやっておるとのう。
虫が知らせることがあるのじゃ。
余人は、それを胸騒ぎだの悪い予感などというやも知れぬ。

「大変です!
流魂街へ向かった九番隊隊長・六車拳西殿、副隊長・久南白殿の霊圧が消失したとの知らせが入りました!尚!原因は不明との事です!!」

「・・・なんじゃと?」
これまでにも隊長格が戦地にて命を落とすことはあった。それだけならば大した問題では無い。
じゃが、この度は違う。
<原因不明>
ここが問題なのじゃ。
原因不明という事は、六車も久南も戦闘に入ったと確認されておらぬことになる。
戦わずして隊長格から霊圧を消失させることなど、容易な事では無い。

・・・首のあたりがちりちりとするわい。

重大な危機を感じるときの状態じゃ。虫の知らせが儂に教えておるのじゃ。
『心せよ、事は重大だ』と。

虫の知らせがあったときの儂の対応は決まっておる。

考えられる最大戦力で臨むべし。

これが儂が今まで死神としてやってきた数多の経験の内についた方策じゃ。

隊長一人、副隊長一人で解決できぬというならば、こちらは隊長三名を出す。戦わずして隊長格を制圧したというのならば、敵が鬼道を操っておるという事も考えられる。
ならば、こちらも鬼道の最高の遣い手を二名出す。
鬼道衆総帥・握菱鉄栽、及び副鬼道長・有昭田鉢玄。
鬼道において、瀞霊廷内でこれ以上の遣い手はおらぬ。

この選び抜いた五名にて、なんとしてでも事を終結させる。

・・さて、後はどの隊長を行かせるかなのじゃが・・。
そこへ浦原が飛び込んできたのじゃ。
なんじゃ、その慌てぶりは。副官一人危機にあるからといって、うろたえておるようでは・・・

・・・まだまだ青いのう、お主は。

遅参を詫びることすら忘れ、最初の一声は自分が行きたいなどと抜かしおる。
そのような状態で、いったい何が出来るというのかの?

「ならん。」
すると、キャンキャンと吠えついてきおったわい。儂の拳骨を落とされる前に、四楓院夜一が一喝したのは、喜助の為じゃ。やはり元部下は可愛いと見える。

あのまま吠えついておったら、しばらく謹慎にて頭を冷やさせる事となったであろうの。
さて、四楓院夜一に浦原喜助が礼を言う日がいつかは来ればよいのじゃが。

最初思うておった人選を発表する。
護廷十三隊からは三番隊隊長・鳳橋楼十郎、五番隊隊長・平子真子、七番隊隊長・愛川羅武。
四楓院夜一は何かあった場合の為に待機させる。

これが、今考える最高の人選じゃ。
すると春水め、浦原に気を利かせてきおったわい。
自らの副隊長を出して、部下を信じることの重要さを説きおった。
大鬼道長のかわりに、副官とはまた大きく出おったものじゃ。


まあよい。
事が収束すればよいのじゃ。結果が全てじゃ。結果がの。

会議は散会じゃ。自らの持ち場へ散っていく者たち。
打つ手は打った。

じゃが・・なぜか首の辺りの感覚が消えぬ。


思わず、山本の皺だらけの手が己の首に伸び、さする様子が見受けられる。



一方五番隊では平子の急な出立に慌ただしさが漂っていた。
早々に出立しようとする平子に、副官の藍染が声をかける。
「お気をつけて。」
「おお、ちょっと行ってくるわ。後頼むで?惣右介。」
「はい。お任せ下さい。」

すると見送りにギンも出て来た。
「なんや大変な事になってるみたいやなァ。平子隊長も気ィつけとってくださいよ?」
「ガキが一丁前に心配すんな、ボケ。ガキは早うクソして寝とったらええねん。ほなな。」

立ち去る平子の後姿を見送る藍染とギン。その後ろにはいつしか東仙も加わっていた。
小さくなっていく平子の背中。

・・ニヤリ。
同時に藍染とギンの口角が誰にも見られること無く吊り上がる。
東仙は何やら決意を新たにしているようだった。

「・・では、中に入ろうか。」

くるりと踵を返し隊舎に戻る三名の口角には、別段の変化は見られない。





なんちゃって。
 

 

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