・・なァ、誰か忘れてへん?(市丸ギン)
ギンは楽しみにしていた。
上司である平子が、自分たちが黒幕だと知った時の表情を。
隊長3名、副隊長1名、副鬼道長1名からなる追加部隊は、その重厚な人選にも関わらず、実に脆くも崩れ去った。
虚化した2名を命を奪うこと無く取り押さえることに必死になり、成功した瞬間気の緩みが生じていた。
まさか助け出した猿柿ひよ里が、虚化するとは思っていたかっただろう。
いや、彼等にとっては虚化すら知らない現象なのだ。
成功したと思った矢先のひよ里の変貌に、追加部隊は浮足立ち、そこを東仙につかれて総崩れとなったのである。
『なんやあっけないもんやなァ。』
もう少し楽しませてくれると思っていたギンは少し残念に思っていた。
だが、まだお楽しみが終わった訳ではない。
折よく平子はまだ意識がある。
自分たちが黒幕だと知って驚愕、怒り、落胆といったあらゆる感情が顔に出る瞬間を見られるからだ。
「お・・お前・・・東仙・・!!!」
羅武を片付けたのを見て、平子はまさしく驚愕していた。
隊の結束が固いと定評の六車九番隊から、よもや裏切り者がいたなどと想像できなかったのだろう。
平子が東仙をなじるのが聞こえる。
「裏切ってなどいませんよ。」
気配を消していた藍染が初めて声をかけた。
『お?ようやく出番かいな。』
この瞬間を待っていた。
「彼は忠実だ。ただ忠実に僕の命令に従ったに過ぎない。
どうか、彼を責めないでやって下さいませんか、平子隊長。」
そう・・最大の裏切り者は・・・
『五番隊の内におったんやで?平子隊長。』
「・・・藍・・・染・・・!!!」
ここまではギンが予想していた通りだ。
平子はあらゆる憎しみの表情を浮かべてギンの満足を得た。
・・だが、次の言葉にギンは「あり〜?」と心の中で思う事となる。
「やっぱし・・お前やったんか・・。」
いや、平子のセリフがおかしいわけではない。
疑っていたのなら、このような言葉が出るのは当然だ。
・・しかし。
「・・・ギン・!!!お前もか・・!」とか「・・ギン・・!まさかお前が・・!?」とか、「・・ギン!いっつもあれほど、怪しい人にはついてったらアカンて言うてたやろ・・!なんで藍染についとるねん!!」とか「ギン!何で釣られたんや!あれほど他人(ひと)から干し柿貰ろたらアカンて言うたやろ!!」とかあってもいいのではなかろうか。
だって、こんな子供がこんな悪事に加担しているのだ。
監督責任者として平子は一言あってもいいのではなかろうか。
しかしながら・・
平子は子宮の話はしてもギンの話題はない。
『いや、副隊長が子宮におったかどうかより、もっと言わなアカンことあるんちゃうのん?ホラ、横見てみ?可愛い部下もおるやろ?ここに。』
副隊長になった経緯で議論するのもいいのだが、他の部隊の東仙はともかく、ギンは同じ隊にいた部下なのだ。ここまで素通りされるとちょっとさみしい。
折角、自分に怒りの矛先が来た時、何言おうかなと色々楽しく考えてきたのに。
藍染副隊長は機嫌よく、経緯を細かく話している。
いっそ藍染の方からギンが仲間になった経緯も離してはくれないだろうか。
しかし、その藍染、散々気持ちよくトークショーを繰り広げているのだが、残念ながらその話題にギンは無いようだ。
『・・横に立っとるだけや、つまらんのやけど。
ほんのちょっとくらいスポットライト当ててもろてもエエやん。』
どうやら、藍染はそのまま終わらせるつもりらしい。
スポットライトは藍染のみを照らしているようだ。
『・・なァ、誰か忘れてへん?
やっぱ、アカンわ。もっとワルなって、ちゃんとスポットライト当ててもらわな。』
ちょっと寂しいギンがいた。
なんちゃって。