夏の涼(藍染と雛森)

夏の暑い日の昼下がり。

珍しく時間に余裕が出来た五番隊の隊首室。
そんな日は藍染が副官の雛森に声をかける。

「これで今日の仕事は今の段階ではひと段落か。・・少し時間が出来たかな?」
「はい。珍しいですね。あ、お茶でも淹れますね!」

流石に暑いので、茶は冷茶となるが、淹れようと席を立とうとした雛森を藍染が止めた。
「お茶はいいよ、雛森君。ありがとう。」
「あ、そうですか?」
「折角時間が出来たんだ。たまには外で冷たいものでも食べようか。
この頃、白玉あんみつが好きになったと言っていたね。
今日のような暑い日にはぴったりだと思わないかな?」
「・・え・・でも・・。」
「ご馳走するよ。少しぐらい休憩を外でとってもばちは当らないだろう?」
「・・いいんですか?」
「それとも、僕と甘味処に入るのはいやかい?」
「そんなことあるわけないです!行きます!」


じりじりと照りつける路地を行くと、一軒の甘味処が暖簾を軒先に掛けていた。
席につくと、「白玉あんみつでいいのかな?」と雛森に確認を取る藍染。
「はい。藍染隊長はどうなさいますか?」

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか。」
冷たい水を持ってきた店員が注文を取る。
「彼女には、白玉あんみつを。そうだね、僕には・・カキ氷のみぞれをもらおうかな。」
「かしこまりました。」

藍染は酒も呑むが、甘味もいける。
流石に女子供が頼むようなものは頼まないが、冬であればぜんざいなども頼むことには躊躇いはないようだ。

「カキ氷ですか?」雛森は意外そうだった。
「おかしいかな。今日は暑いから冷たいものが食べたくてね。」
「いえ!おかしくなんてありません!
けど、カキ氷なら・・。」
「カキ氷なら?」

「日番谷君に頼めばすぐに作ってくれるかな・・と思って・・。」
雛森の言葉に、思わず楽しそうに藍染が笑い出す。
「ははは。それはいいね。
確かに日番谷君ならすぐに氷は出せるだろうが、流石に僕の都合で彼の斬魄刀を使わせる訳には行かないよ。」
「そんなことないです!きっと藍染隊長が頼めば、日番谷君なら出してくれます!」

「僕が頼めば・・と言うところはどうか解らないけれど、雛森君なら幼馴染のよしみで出してくれるかもしれないね。」
「ええ?!あたしが頼んでも日番谷君は出してくれませんよ!
日番谷君なんて、あたしに会えば必ず意地悪な事ばっかり言うんですもん!」

「意地悪な事・・かい?」
「そうです!この間だって・・」
そのとき雛森の背後から声がかかる。
「・・この間だって何だ?」「日番谷君!!なんで!?なんでここに居るのよ!!」
「日番谷・隊長だろうが。なんでもかんでもねえ。松本に引っ張られてきたんだよ。
ホレ、あっちだ。」
「・・・あ・・乱菊さん・・。」
日番谷の背後では乱菊がヒラヒラとニッコリ笑って手を振っていた。
「やあ、日番谷君。一休みかい?僕たちもでね。」「お前も副官に引っ張られたクチか?」
「いいや、僕の方から誘ったんだよ。何か冷たいものが食べたくてね。」
「冷たいもの?」

「おまたせしました。白玉あんみつとカキ氷でございます。」
藍染の席に、注文したものが運ばれてきた。
「藍染、お前カキ氷なんて食うのか?」意外そうに日番谷も言う。
「暑いからね。ヘンかい?」と雛森に言った問いを日番谷にもする藍染。
「今、日番谷君ならすぐに出してくれるのにって言ってたの。」
「バカかてめえは。俺の斬魄刀はそんなもんのためにあるんじゃねえ。」
「もう〜〜、いいじゃない〜!日番谷君のけちんぼ!」

「るせえ。にしても藍染、ミゾレか。」
白い氷に白い蜜。視覚的には少し物足りないのは否めない。
「氷の良さをしるのはミゾレが一番だと僕は思っていてね。だからこれにしたんだ。」
「だから、日番谷君に出してもらえば〜〜。」「だから出さねえつったろ、雛森。」

「折角来たんだ、雛森君もいただこう。」「ああ、俺はあっちに行く。邪魔したな。」「一緒の席にしないのかい?」
藍染の問いに、「いや、いい。」とそっけない日番谷。さっさと乱菊の座る席に戻ってしまった。

シャクシャクと音をさせながらカキ氷をさじにのせ口に運ぶ藍染。
雛森も自分の白玉あんみつに手を伸ばす。
「ミゾレ美味しいですか?」と聞いてくる雛森に、「うん、ここはいい氷を使ってるね。」と答える藍染。
「もう・・日番谷君たら・・」と氷でまたなにやら思い出したらしい。
「日番谷君は製氷機じゃないよ、雛森君。

・・・確かに霊圧で作られた氷の味に、全く興味がないとは言わないけどね。」

言いつつ、シャクシャクと氷の山を崩す藍染。


そのとき、微風が甘味処の軒先に吊るされた風鈴を、チリンと一つ音を立てさせた。



なんちゃって。
 

 

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