夏痩せに 良しというものぞ (朽木白哉)

・・朽木家にも土用の丑の日はやってくる。

言うまでもなく朽木家は四大貴族だ。
貴族は社会の秩序の象徴であるとともに、文化の担い手でもある。

無論、その食卓は季節を取り入れたものとなる。

その日の白哉の夕の膳には、黒塗りの重箱が置かれている。
同じく黒の漆塗りの汁椀。きゅうりとたこの酢の物。そして後は香の物。
そして、謎の小さな瓢箪。

大貴族なのに、結構フツーのモノ食ってるのね、それくらいなら自分でもできそう。と思った諸君。
確かに同じ献立を出すことは平民にもできよう。

しかし、同じ素材は絶対に手には入らない。
何故なら、素材全てが朽木家所有の土地にて当主の為に育てられたものだからである。
だから、当然鰻も朽木家所有の河で捕った、天然ものだ。

「・・そうか、今日は土用の丑か・。」
白哉は毎日忙しい。
知らずに移ろいゆく季節を膳から感じる事もしばしばだ。

毎日暑い日が続いている。巷でも恐らく鰻は食されていることだろう。

重の蓋を取れば、たれが炭火で燻された時の香ばしいにおいがフワリと部屋に立ち上った。

中にはツヤツヤと光を放つ白米の上に、これまたつやつやと光を放つ見事な鰻のかば焼きが乗っている。
汁椀には肝吸いだ。

白哉が箸をとった。肝吸いに口をつけ、それから重の方へを箸をつける。
最初の一口はそのまま食す。
そして、純粋な鰻のかば焼きと白米の合性を見る。

そして、ここからが白哉の真骨頂だ。
一旦箸を置き、謎の瓢箪に手をのばす。
そして、優雅な手つきで蓋をとり、瓢箪を逆さにした。

出てきたのは山椒だ。
流石は、辛党の白哉。
うな重に山椒は欠かせないようだった。

白哉の手は瓢箪を逆さにしたままだ。当然その間も山椒は出続けている。

・・て、どんだけ山椒かけるつもりなんだ、白哉。
ウナギが山椒で隠れてきてるぞ。いや、隠れるって言うか、かば焼きの色が解らなくなってきてるから!!それじゃ、山椒焼きだから!!もうソレかば焼きじゃないから!!

と、突っ込んでいると、ようやく逆さの瓢箪が上を向いた。

山椒の色に染められた、元うな重に白哉のふた口目を運ぶ箸が入る。
ていうか、こんだけ山椒振られてるのに、山椒を落とさず口元に運べる白哉は正直別の意味でも凄いだろう。
無表情の白哉。

すると、おもむろに白哉が声を発した。
「・・爺。」
「はい。なんでございましょう。」給仕をするのは朽木家の執事だ。

「代わりを持て。」爺に差し出されたのは、例の瓢箪。
なんと中は空だった。
「はい、かしこまりました。直ぐにお持ちいたします。」

にこやかに対応する爺。
『どんだけ山椒かけるつもりなんじゃ、この味音痴め!!』と誰しも思う事を表情にも態度にも全く出さない所は、流石は朽木家の執事を長年務めあげた人物だけの事はある。

白哉が酢の物を食している間に、代わりの瓢箪を持って爺が現れた。
対応が早い。どうやら、山椒のお代りを予測していたようだ。

「お待たせいたしました。」「うむ。」

そして、またうな重に散る山椒の千本桜。

だんだん積もってきた山椒を見やって、執事は流石に白哉もこのところの暑さに少しは参っているらしいことを感じていた。

<夏痩せに 良しというものぞ 鰻とり食せ>

いかなる暑い日も、涼しい顔の白哉。
白哉の周りだけ気温が違うのではないかと本気で疑う隊士もいるらしい。
食事の量も殆ど変化の無い白哉だ。

しかし、その白哉とてどうやらこの暑さで食欲自体は減退傾向にあるようだ。


降り積もる山椒がそれを物語っていた。



なんちゃって。

 

 

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