眠れぬ夜(京楽春水)

ボクは基本的に夜が好きでねえ。
宵っぱりな方なんだけどさ。
いやあ〜、不思議だねえ。なんだかねえ、直ぐに時間が過ぎちゃうんだよねぇ。
で、ついつい朝起きるのが遅くなっちゃって怒られちゃうわけ。

・・そんなボクでも・・・あの日の夜は永かったねえ。

ホラ、あの日さ。
浦原くんに見栄はっちゃって、リサちゃんを出しちゃった日だよ。
大体ボクは毎日呑んでんだけど、その日は流石に呑む気にもならなくてねえ。
そりゃいくらボクだって、心配だったからねえ。信じてるとは言え・・さ。

で、フラフラと散歩に出かけたワケだよ。
魂魄消滅事件ていう、厄介な事について考えてた。
難しい事はよく解らないけど、相当な技術力が無きゃこんな事は出来ないだろ?しかも未だに何も分かっちゃいないんだ。首謀者は相当頭がキレると思って良いだろうねえ。

・・で、あんまり考えたくはないけどね、僕は死神の中に裏切り者が居るんじゃないかと思ってたってワケ。
だって、こんだけどこにも知らされないように事を運べて、かつ技術がありそうな人なんて、死神くらいしか思い浮かばなかったからねえ。
それも相当席官は上の筈だ。お金も持ってないとこんな事は出来ないしね。

ボクは一人の人物の顔が頭に浮かんだんだけど・・・。
イヤ、真子クンがね?どうもマークしてるみたいに見える人物が居たんだよね。
それが、五番隊の藍染副隊長なんだけど・・。
ボクから見れば、藍染クンなんてのは好青年に見えるんだけどねえ。
けど、真子クンの人を見る目は確かだよ。
一見真子クンは、藍染クンにも親しそうにしてはいるけど、心は全然許しちゃいないよ、ありゃ。

多分真子くんは、藍染クンに何かを見たんだと思うんだ。
で、リサちゃんと一緒に真子クンも出ちゃってるだろ?
・・もしかして、と思ってね。
そんで五番隊に寄って見たんだ。

なんて事は無い。ちゃんといたよ。
心配そうな顔しちゃってさ。
眠れないのか、仕事いっぱい抱えて・・多分ありゃ真子クン戻るまで起きて待ってる感じだったねえ。
どうもボクの気のせいだったようだねえ。

と言いつつ、ちょっと安心してたんだ。やっぱりおんなじ死神に裏切り者が居るなんて、目覚めが良くないしねえ。

八番隊に戻って見れば、七緒ちゃんが本を抱えてリサちゃんのこと待っててさ。
こんな可愛い子に慕われるなんて、早く帰っておやりよ、リサちゃん。

いや、違うねえ。早く帰ってくれないかなあ。ボクの方からも頼むよ。
七緒ちゃんを帰して、自分の部屋に帰ってもやっぱり眠れなくてねえ。
一杯やろうかなと酒びんに一瞬手が伸びたんだけど、やめちゃったよ。
だって、そんなのでお酒呑んでも美味しくないからねえ。

「・・・遅いねえ。」
もうすぐ夜明けって時だったかな。ボクに一方が届いたのは。

消えたって言うのさ。追加派遣した部隊がだよ。
しかも何処に行ったか探知できないって言うじゃないか。
六車クンとこと同じだ。全くと言ってね。

「・・・・!・・しまった・・!」

この時の後悔はボクは死んでも忘れないだろうねえ。
余計なこと言わないで、大鬼道長行かせとけばよかった・・って心底思ったさ。

そして直ぐに次の一報が入ってきたっけ。
「四十六室より重要参考人として、浦原喜助・十二番隊隊長及び握菱鉄栽・大鬼道長が捕縛されました・・!」
「なんだって・・?!!!」
「尚、行方が分からなくなっていた矢胴丸副隊長ですが・・・・。」
「リサちゃんがどうしたんだい?!」
「・・・科学技術局の敷地内で、他の行方不明だった方々と共に発見されました・・!」
「・・・?!科学時術局で・・?!!何だってそんな所で・・!
で、リサちゃんは?!」
「そ・・それが・・・。」
「・・・死んだのかい?」
「いいえ!いえ・・ですが・・。」
「・・なんだい?教えておくれよ。」
「・・どうやら魂魄実験の被検体にされたようでして・・・。皆さまもう元のお姿とは・・・。」

・・・・・・。
・・・・・・・なんてこったい・・・・。

「・・・・。リサちゃんに・・会えるかい?」
「いえ、それは固く禁止されております!完全に隔離されることが厳命でして。」
「何故。自分の部下にも会えないのかい?」
「先ほども申し上げましたように、魂魄実験によって最早元の矢胴丸副隊長ではありません。今は鬼道で眠らされておりますが、覚醒すればどうなるか解らないとのことです!状態が把握できぬ限りは、他からの接触は一切禁止されております!」
「・・そうかい。悪かったね。困らせるような事言っちゃってさ。」
「いいえ!ではこれで失礼いたします!」

あまりの事に思わず顔を覆ったよ。
こんな事があるなんてさ、信じられるかい?

浦原くんが、首謀者だなんて考えられないよ。
彼は本気でひよ里ちゃんのことを心配してた。それは本当だ。
でも、じゃあ何故科学技術局なんて所にリサちゃんは居たんだ?

やがて、ボクの所に四十六室からの事情聴取ってのが来たよ。
何でも、浦原君が言うには今回の事件は全て藍染副隊長の仕業だと言ってるらしい。
で、浦原くんは虚化の実験をされた、リサちゃんたちを元に戻そうとして、大鬼道長の禁呪を使ってリサちゃん達をそっくり科学技術局に移送。
治そうとしてたって言ってるんだってさ。
しかも、藍染副隊長に浦原クン、l事件現場で昨日会ったって言ったらしい。

だけど、藍染副隊長は五番隊で大勢の死神から隊舎に居たことを確認されてる。
京楽隊長も見たはずだと誰かが言ったらしいんだよね。

「藍染副隊長が五番隊隊舎に居たという証言がありますがそれは本当でしょうか。」
「うん、本当だよ。第一ボクもこの眼で見てるしね。遠目だけど間違いないよ。」
「・・やはり。ありがとうございました。確認したかった事はそれだけです。」
「・・・やっぱり浦原クンがやったことになってるの?」
「ほぼ断定の状況かと。詳しくは申せません。では。」
「待ちなよ。・・で?・・リサちゃん達はどうなるの?」
「申せません。」

さっさと帰って行く警吏隊。
そしてまた夜がやってくる。宵闇にやってきたのは浮竹だ。

「・・大変な事になったな。」
「全くだねえ。・・・・最悪だよ。」
「俺からも一目、平子達と面談出来ないかと掛け合ってみたんだが・・。」
「ダメだったんでしょ?相当ヤバい状態みたいだねえ。」
「なんでも死神としての存在を無理やり虚へしたみたいなんだ。
よくは解らないのだが、死神の虚化というらしい。」

「・・浮竹、今回の事件、浦原クンが本当にやったと思ってるかい?」
「正直信じれん。あの浦原がそんなことをするとは・・。」
「ボクもさ。」
「浦原は藍染副隊長がやったと言っているらしいが・・。」
「少なくとも昨日の夜は隊舎に居たよ。ボクも見たからね。」
「偽物という事は考えられないか?」
「あんまり会わないボクならともかく、毎日会ってる五番隊の隊員全部を騙すのなんてのは、そりゃ無理でしょ。」
「だろうな。」

「それと同じく大問題があってねえ。」
「・・・平子達の処遇か。」
「どうやらヤバいらしいねえ。」
「”処分”という案が出ているのは確かだ。」
「処分・・か。死神としてすらもう認識されてないわけだねえ。」
「今は動きを止めているが、鬼道を解くとどうなるか、正直解らんそうだ。正直平子達が虚として暴れ出したら、大変な事になるだろう。」

そうだろうねえ。四人の隊長と三名の副隊長、そんで一人の副鬼道長が一気に暴れられたんじゃあ・・・。
打つ手が本当に無いのか、必死で考えるんだけどさ・・何も思いつかないのが情けないねえ。

・・・このままじゃ・・。

「・・京楽。もしお前が・・。」
浮竹がいいかけたその時だっけ。
護廷隊に非常事態を知らせる警報が鳴らされたのさ。

『四十六室に侵入者アリ!!
現在、浦原隊長及び握菱大鬼道長と供に逃走中!!
見つけ次第、捕縛せよ!
抵抗あらば即処刑せよ!!繰り返す・・』

「やれやれ、先を越されたかな?」
「そんな悠長な事を言ってる場合じゃないだろう!」

浦原クンたちは見つからなかったのさ。
ボクは妙に気になって、山じいにその後聞いてみたんだけどね。

「リサちゃん達、どうなってるんだい?」
すると山じいは、こう言った。
「あ奴らの事は死んだものとして心得よ。以上じゃ。」

つれないねえ。
けど、死んだって断言した訳じゃあ無い。

それからリサちゃん達の事は護廷隊の中ですっかりタブーとなっちゃってねえ。
実質封印されてる感じだよ。

暫くは眠れない日が続いてねえ。
何であんなこと言っちゃったのかって、何度も思う日が続いたよ。

大人ってのは何回も眠れないような後悔を重ねてくもんなんだろうけどさ。


こいつが一番ボクには効いたかな。





なんちゃって。


 

 

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