兄様とワカメ大使(朽木白哉)

・・・兄様は貴族の頂点に立つ一人である。

それ故、兄様は自分は貴族のみならず全ての者における手本とならねばならぬことを、嫌というほど自覚して今まで来た。

そして秋深まりゆく今日この頃。
兄様は準備をしていた。
何の準備か。

それは・・・年末の宴会芸の自らの出し物の準備である。←気ィ、早すぎやろ!(笑)

そして兄様は絶えず完璧を目指す。
となれば、当然観客を前にしたリハーサルを重ねるのは当然のこと。


・・・そして・・

「・・って、なんで俺たちが呼ばれるんだよ!恋次!
大体俺カンケーねえだろうが!護廷隊の宴会なんかにゃよ!」
「仕方ねえだろ!朽木隊長がオメーも連れて来いっつったんだからよ!
俺だってイヤイヤやってんだからよ!」

黒崎一護と阿散井恋次の両名が、兄様の犠牲・・じゃない演習の観客として召集されることとなったのである。

「ていうか、なんで白哉がそんなモン引受けんだよ!
あいつ、そんなキャラじゃねえだろうが!」
「バカ言え!去年もちゃんと出てんだぞ!携帯電話ネタで!
ま・・まあ、あんまっつーか全然ウケてなかったけどよ・・。
だから今回リベンジっつーかなんつーか・・。」

「・・・先ほどから何を騒いでいるのだ、恋次。」
「・・げ・・!」
途端に口をつぐませたのは、今回の主役兄様である。

「お・・おう!白哉!元気そうだな!」
相も変わらず、無礼にも自分を名前で呼び捨てにする黒崎一護に、冷たい一瞥をくれた兄様。
「・・・余計な問答は無用。
兄たちには、私の芸を見、率直な意見を聞かせてもらいたい。
・・よいな。←有無を言わせない所が兄様。」

「お・・おう!」「解りました。隊長。」
この勢いに対抗できるほど、未だ両名には気合いは無い。

さて、兄様。演台に立つと何やら懐から取り出した。
緑色の奇妙な形のぬいぐるみのようだ。

「・・何だあのヘンテコなぬいぐるみは?」
「し!バカ・・あれは・・!」
「名をワカメ大使という。この私自らが考えた。」
「そ・・そか・・。えっとそのー・・・うん、か・・わ・・そうだ!かわいいよな!うん!
うちの妹とか好き・・・かも・・しんねえ?←誰に聞いてる」

さて、兄様。ワカメ大使を手に持ち「・・では始める。」と厳かに宣言した。

するとなんといきなり声が聞こえた。
「こんにちは、朽木隊長!今日は絶好の演芸日和だワカメ!」
二人は思わず兄様を見た。
しかし、先ほどから兄様の唇はまったく動いては居ない。
ワカメ大使なる人形がしゃべったとしか考えられなかった。

・・もしかして・・・
『あれって、もしかしなくても腹話術か!!?恋次!』
『スゲエ!マジで口動いてなかったよな?一護!隊長、何時の間に・・・!
けど、声が普段と全然変わってねえ・・!←爆笑』
『それって逆に難しいんじゃねえか?
ていうか、なんで話の最後がワカメなんだよ!』
『なんか現世のアニメで、可愛いぬいぐるみ系のキャラの会話の最後が「ココ」だの「ナッツ」だの「ミル」だの言うのが人気だってのを聞いたらしくてよ・・。』
『●リキュアか!似合わねえ〜〜!』

「おや?朽木隊長、目の前の薄汚い小僧どもが何やら言っているワカメ。
なんだワカメ、この小僧ともは。」
「・・そうか。兄は初めてだったな。
髪がオレンジの方は黒崎一護、現世の者だ。髪が赤の方は阿散井恋次。私の副官だ。」
「ええ?朽木隊長の副官?コレが?
どうしてこんな薄汚い副官にしたワカメ?」
「・・野良犬を躾けて使えるようにするのも隊を預かる者としての勤めゆえ・・な。」
「モノ好きワカメ。いかにも手に噛みつきそうな顔をしているワカメ。」
「・・鋭いな。いかにもその通りだ。」

あまりの言われように、恋次の手がプルプル震え出すのを見て、一護が必死で止めている。

「それに何故尸魂界に人間がいるワカメ?」
「色々あってな。今は死神代行として現世で死神のまねごとをしている。
こんな奴でも使い用はあるようだ。」

「まねごとって・・テメエ・・!こっちは一生懸命やってるっていうのによ・・!」
「まあまあ!一護!芸だから!所詮は芸だからよ!」
今度は恋次が一護を諫めているようだ。

「けどなんだか、二人とも似てるワカメ。」
「・・ほう、それは気付かなかったな。」
「どうして、二人ともこんなに変わった髪の色をしているワカメ?」
「それは解らぬが・・恐らく生来の性分が髪の色に出たのであろう。」

「どうして、二人ともこんなに品が無いワカメ?」
「それはいた仕方あるまい。この私とは所詮格が違う故。」

「どうして、こんなに二人とも目つきが悪いワカメ?」
「それもいた仕方ないことだ。下賤な生まれが目つきにも表れているだけのことゆえ。」

「手とかも薄汚い気持ちがするワカメ。←えらい言い様やな」
「薄汚くとも、少なくとも妹ルキアはあ奴らの事を仲間だと思っているようだ。」
「ええ?!あんな薄汚い馬の骨がルキアたんの仲間ワカメ?
冗談じゃないワカメ!
何時あの薄汚い手が可愛いルキアたんに伸びるか解らないワカメ!」
「・・・そう思わなくもないが、一応私も借りがある故。」
「そんなの関係ないワカメ!
悪い虫はつく前に駆除するワカメ!
朽木隊長が出来ないなら、このワカメ大使がするワカメ!」

なんだか、不穏な様子に思わず一護も「お・・おい・・。」と声を上げたその矢先。

「破道の三十三『蒼火墜 』だワカメ!」

「ヤベえ!!逃げるぞ一護!!」「って腹話術で詠唱破棄してくんじゃねえ!!ぬいぐるみが鬼道つかうかよ!!」

ちゅどーーーん!!!

もうもうと立ち込める煙がようやくおさまってきた頃には一護と恋次の姿はどこにもなかった。

「・・やはり、腹話術で詠唱破棄では命中の精度が下がるか・・。
もう少し調整が必要だな。」


そして後には独り、芸の意味をやっぱり少し勘違いしている兄様が居た。




なんちゃって。

 

 

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