おじさんの本音(京楽春水)

・・いやあ、おじさんになっちゃうと、どうもいけないねえ。


・・妙に・・本音っていうの?それを隠すがうまくなっちゃってさ・・。



山じいがダミーの空座町と本物をそっくり取り換えて、惣右介君との決戦をするって決めた時のことさ。
ボクはねぇ。七緒ちゃんにひとつのお願いをしたんだ。

「・・・え・・?」
いやあ、その驚いた顔の七緒ちゃんの顔もまた可愛くてねえ。けど、それにつられちゃダメだ。ちゃんと話をしなくちゃね。

「だからさ?七緒ちゃんには尸魂界に残って欲しいんだよ。」

「・・そんな・・納得できません・・!
京楽隊長が現世で決戦に臨まれると言うというのに、私が尸魂界に居る訳には参りません!
私は京楽隊長の副官なんですよ?
お供するのが当然の務めです!」
思ったとおり、カンカンになって怒られたよ。
もう顔なんて真っ赤さ〜。

「もちろん、七緒ちゃんの言う通りさ。まあ、ハッキリ言って副官にこんな事をお願いするのはボクだけだろうね。多分他の隊は副隊長もつれて出ると思うよ。」
すると、七緒ちゃんは途端に暗い顔になっちゃってさ。

「・・京楽隊長・・。
私は前から気づいていた事があるんです。」
「なんだい?」
「・・京楽隊長は・・私を戦わせようとなさらない事をです。」
「そりゃあ、可愛い女の子にケガさせるような事したくないからねえ。」

「・・何時もそんな事を仰いますけど・・本当は私が弱いからとお考え・・・。」「それは違うよ、七緒ちゃん。」
流石にボクも七緒ちゃんの言葉を遮ったさ。だって、七緒ちゃんから自分を傷つけるような事言って欲しくないからね。思わず伏せた顔がボクの方に向けられた。

・・そっか、今までずっとそんな風に思わせちゃったのか。ごめんよ。

「ボクは君の力が不足してるなんて思った事、今まで唯の一度もないよ。それは誓って良い。」
すると幾分、七緒ちゃんの顔がほっとしてた。
「・・では・どうして尸魂界で待機などと仰られるのですか?」

当然の質問だ。そしてボクはこう答えた。
「そりゃ、君にガラすきになっちゃった尸魂界の守備をお願いしたいからさ。」
「しかし、それならば四番隊の卯ノ花隊長もいらっしゃいますし・・。」
「その通りだよ。確かに卯ノ花隊長には尸魂界に残ってもらう。けど、四番隊は基本的に補給と救護を担当する部署だ。
実際の戦闘部隊である他の隊を四番隊に指揮させることは、他の隊が多分黙っちゃいないよ。」
「・・ですが・・。」
「四番隊を除けば、残る隊長は居ない。そして残る副隊長は雛森副隊長と君だ。
知ってのとおり、雛森ちゃんはまだ療養中で戦闘できる状態じゃあない。

万が一だけど、尸魂界に敵が攻めてきたら、尸魂界は大混乱になっちゃうとは思わないかい?」
「・・それは・・考えられます。」
「だからそれを君にお願いしたいんだよ、ボクは。
殆どの隊長格が抜けてしまった後を君にまとめてほしいんだよ。
君はその能力がある。こんな事他の子になんか頼めないさ。

君を信頼してるからこそ、お願いしたいんだけど。

・・どうだい?やってくれないかい?」

すると何やら七緒ちゃんはしばらく考えてたけど・・。
「・・解りました。不本意ではありますが、京楽隊長がお帰りになるまで、尸魂界で留守をお預かりしております。」
「いやあ〜〜、よかった!ありがとう。七緒ちゃん!
やっぱりこんな事を頼めるのは君しかいないさ〜〜!」

七緒ちゃんは受けてくれた。
ボクはこう言えば、七緒ちゃんは渋々だけど頷いてくれることは知ってたのさ。

七緒ちゃんに言った事はウソじゃないよ?
けど・・本当はもう一つ理由があってねえ。
・・ま、それはとても七緒ちゃんには言えないんだけどね。


<ボクは、もう副官の子を失いたくないのさ。>


・・昔、七緒ちゃんによく似た子をボクの副官にしてた時があってねえ・・・。

・・そんでボクはつまらない大人の見栄を切って・・・。

・・その子をもう帰れないヒトにしちゃった事があるんだよ。


七緒ちゃんがその子に似てるのは当然でね?
ほんの小さい頃、七緒ちゃんがその子に憧れててよくなついてたのさ。
今でも、七緒ちゃんはその子みたいな副官になろうと思ってるみたいでね。
その頃の七緒ちゃんの・・その子のイメージが今の七緒ちゃんてワケさ。


もう思い出したくもないような悲惨な事件でねえ。
何人も犠牲になっちゃったよ。隊長も副隊長も・・中には鬼道衆の副長までもいたっけ。
奇妙な・・けど何だか恐ろしげな事件でねえ。九番隊の六車クンも白ちゃんもやられたらしくてね。
山じいが、徹底的に事件を解決するために、ものすごい布陣を出してきたのさ。
三番隊、五番隊、七番隊の当時の隊長さん3名とおまけに鬼道衆の総帥と副鬼道長だよ?こんな布陣聞いたの、あの時くらいだよ。
そして、何も知らずに現場に先行しちゃった十二番隊の副隊長のひよ里ちゃんの事を心配して、浦原クン、大分取り乱しちゃってさ。

それで、ちょっと気を利かしたつもりだったんだけど・・。


これがボクの過去最大の後悔することになっちゃったってワケさ・・。


ボクは、副隊長を信じて待ってやるのも隊長の勤めだって、慌てちゃってる浦原クンに伝えたかった。
だから、ボクは鬼道衆の総帥の代わりにボクの当時の副隊長だった・・リサちゃんを行かせることを半ば強引に総帥本人と山じいに承諾させた。
鬼道衆の総帥の代わりに自分の副官を行かせるって事で、浦原クンに伝えたかったんだよね。

それで結局行くメンバーはボクの横槍が入って変更になった。


・・それでねぇ・・・。

・・行ったメンバーは、結局みんな帰ってこなかったのさ・・。

皆だよ、みんな。ひよ里ちゃんも・・リサちゃんもね。


誰もボクを責めなかったよ?やっぱリサちゃんの代わりに、鬼道衆の総帥行かせた方が良かったんじゃないかなんて、誰も見事に言わなかったねぇ。

だから余計、ボクの責任は重かったのさ。
じゃあ最初のメンバーだったら大丈夫だったのかなんて、保証はどこにもないよ?
けど、此処までの被害を出しちゃってるんだ。山じいの言ったとおり、最強の布陣で臨むべきだったと思うよねぇ。

リサちゃんもいい子でね。
ボクのたまにする下ネタな話なんか、普通の女の子なら毛嫌いするところを、リサちゃんは普通に会話してくれたっけ。隊長のどんな話にも合わせられるのも副官の役目とか言って、そっち系の本とかも読んでたみたいだし。
本が大好きな子だったねえ。何時も違う本抱えててさ。
自分を慕ってくれてる七緒ちゃんには優しくしててねえ。
尊敬してるみたいだから、ちゃんとした態度とらなきゃとか、どうやら思ってたみたいだった。

・・ホント、いい子だった。


リサちゃんたちが魂魄の実験体にされたってことは、ほんの一部しか知らない。
だから皆戦いに於いて、戦死したって話になってるのさ。
ボクは見せてもらえなかったんだけど、酷い姿になっちゃってたみたいでさ。
<処分>されたとしかその後はボクも教えてもらって無いんだ。

・・最低さ、ボクは。

・・女の子をそんな目に合わせちゃうなんてね。

どうも、それがよっぽど堪えたらしくてねえ。
あれから100年以上経った今でも、今の副官の七緒ちゃんに戦う事はさせたくないんだよねえ。

だから、七緒ちゃんには現世に残ってもらう事にしたのさ。
でなきゃ、ボクが気になって本気で戦えないからね。
今回の戦いは、ボクも本気でやらなきゃいけないことくらい察しはついてる。
ボクが戦いに集中する為にも、彼女には戦場で居て貰っちゃ困るってわけ。

・・・これが本音さ。
けど、建前も一応はちゃんと筋が通ってるだろう?


おじさんの本音ってのは複雑でねえ。
そうそう、表には出ないもんだよ。

ま、出さないのがおじさんて事じゃないのかな。


・・というわけで、七緒ちゃん、尸魂界よろしくね?


なんちゃって。

 

 

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