セーラー服は勝負服(矢胴丸リサ)

矢胴丸リサ。
八番隊の副隊長を務めていた当時から、彼女は名の知れた読書家だった。
いつも傍らには書物。それが彼女のトレードマークともなっていた。

思いもよらぬ悲劇により、彼女が仲間と供に尸魂界から現世へと移り住むようになり一〇〇年近く。
それでも、彼女から本を切り離すことはできはしない。


彼女は今、非常に熱心に読む分類の本がある。
上品に言えば、性風俗関係。
俗に言えば、エロ本と人は言う。

規律が重要視されていた尸魂界で、エロ本といわれるものが堂々と書店で発売されるという事は皆無だった。
そんなことをしていれば、即刻四十六室から罰が下る。
「品性を求められる死神がいかがわしい本など見るとは何事か!」
無論、見た方も処罰が下される。
それゆえ、表向きこの手の本は無い。

けど、死神だってそういう需要がないはずがない。
厳罰が下るから手を出さない。

リサは基本的に好奇心が旺盛な女だった。
好奇心が旺盛だからこそ、書物が好きだったという事もある。
現実には無い事が、書物の世界では山のようにあるからだ。

・・そして現世・・・。

初めてリサが目にすることになったエロ本は、彼女の好奇心の導火線に激しく火をつけることとなる。

尸魂界ならありえないような、それ系の本がこちらではいくらでも手に入る。
入手する条件はたった二つしかない。
一つは、購入するお金を持っている事。まあ当然か。
二つ目は、十八歳以上であること。

それだけの条件をクリアすれば、新しい知識(笑)の泉にどっぷり浸かることができる。

『・・現世もすてたもんやない!いや、ナイスや!!現世!ていうか、エロ本!!』

例え副隊長当時に、手に入ったとしても流石におおっぴらに読むことは出来ない本だ。
隊長格に憧れている隊員の目の前で、流石に真剣な顔でエロ本を見る姿を晒すことは流石のリサも出来ないだろう。


リサは今や、一流の性風俗学者だ。
今迄の変遷から、今年のトレンド。一般的な人気の高い女の子の特徴からグラビアポーズ、そして今後の傾向まで語ることができる。
そして、研鑽をかかさない。
一日二回はエロ本の読書。
それが彼女のアイデンティティーとなっている。

最初は、「へえ〜、女の子でもそういうのに興味あるんだ。」と思った仲間も、彼女のあまりの熱心さには「・・そんなに面白い?ソレ。」と引き気味に聞いてくる。

「当り前や!エロ本は人類の歴史や。歴史の教科書や!人類のある所にエロ本はある!あたしは勉強しとるんや!」
胸を張って堂々と答えられると、もう次の言葉は出てこない。

そういった彼女が自分の服装に、ソレ系を持ち込まない筈がなかった。
かといって、あまりにアレだと歩きづらくなる。
そこで決めた。

「シンジ、あたしこれから普段はセーラー服で過ごすようにするわ。」

「・・・・・・・・・・・。
とうとう頭おかしなったんちゃうか、オマエ。
オマエ、ジブンいくつや思てんねん。」

セーラー服:イギリス海軍を起源とするこの制服は、一九二〇年前後に日本でも導入されるようになった。男子制服が陸軍の制服の形態をとりいれられたものだったため、女性とは海軍のものに・・となったようだ。

って、そんなことはどうでもいい。
セーラー服は女子中高生と同義語だと言っていい。
つまり、年齢からすると、一三歳から一八歳まで。
リサの年齢はというと、それに〇をつけてもおつりがくる。

「ええやん。似合えば。」
「ジブン、似合うて思てんのか。あれは可憐な女の子が着てるからエエもんなんや。
オマエみたいな、スケベ女が・・て聞いとんかい。」

リサが聞くわけがない。
さっさと何処からか調達してきたと思われるセーラー服に着替えに行ったようだ。

「ホンマに、あいつは恥じらいとか弁えるとかいうのを知らへん。
あないな・・。」

「どや、シンジ。」
文句の雨あられを降らせていた真二の背後からリサの声がかかる。
「なんやねん。また妙ちきりんな格好見せに・・・。」
盛大にこき下ろしてやろうと振り向いた真二は目を剥いた。

膝上三〇センチのミニ丈のプリーツスカート。白いハイソックス。
そして、一見ベーシックに見えるセーラーの上着がまた絶妙だった。
上着の丈が微妙に短いのだ。
ちらちらと見え隠れする素肌の腹や背。
とどめがメガネ&三つ編み。

「・・・・・・・・・・。」
「どや、似合うやろ!」

「・・・・今まで言わんとこう思とったんやけどなァ・・。
実はオレ、オマエが初恋の相手やねん・・。」←(笑)

平子、ついナンパ魂炸裂させる。
そう、平子は基本的にナンパをしたいタイプだ。されて嬉しいタイプではない。

「なんや、その豹変ぶりは。素直に似合う言えへんのか。」
「ええやないけ。ホメとるんやし。」
「アンタのは褒めてない。ただナンパしとるだけや。」
「アホか、オマエは!俺がナンパするいうこと自体が最大級の褒め言葉や!」

実につまらない言い争いを止めようと、ローズが仲裁に入ったようだ。
「まあまあ、二人ともやめなよ。
でも、なんでセーラー服なの?」

「あたしにとっては、セーラー服とエロ本は蒲鉾と板みたいな関係や。
エロの勝負服や!」
「ああ・・そうなんだ・。」

堂々と言いきったリサに、最近のリサのエロ本の好みの傾倒を知るローズだった。

そして、セーラー服で過ごすことになったリサ。
仲間内では、あの格好ではエロ本は買えないはずだから、どうするのだろうと噂されていた。
リサがエロ本を諦めるとは思えない。かといって、好みの五月蠅いリサが仲間にお使いに行かせるはずもない。自分の目で確かめて買いたいタイプだからだ。

「やっぱり着替えて行くんちゃうか?アレでは買えんやろ。」
おおよその予想を裏切って、リサはセーラー服のまま出かけて行って、普通にエロ本を買って帰ってきた。
「リサ。」「なんや。」「・・もしかしてその格好のままエロ本買ってきたの?」「そや?それがどしたん?」「学生さんにはダメって言われなかったの?」

「言われたで?」当然のように、リサが言う。
「じゃ、どうやって買ってきたの?」

すると呆れたようにリサが言った。

「そんなん簡単や。

コレはコスプレや、言うたらええんや。」


『・・ダメだこりゃ・・。もうそっとしておこう。』


仲間が意識を共有した一瞬である。



なんちゃって。
 

 

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