試験(日番谷冬獅郎)

・・・真央霊術院に、院生たちの念仏とも呪詛とも聞こえるような呟きが漏れ聞こえる時期がやってきた。
ちなみに、この時期は定期的にやってくる。

・・試験だ。

そして、院生どもの念仏は試験内容のごろ合わせだ。
縛道だの破道だの、死神の掟だのを自作だか何だか知らねえが、語呂合わせで覚えようとしてやがるらしい。
俺からすれば、そんなもん考える余裕があるんなら、他の事やったほうがいいんじゃねえかと思わなくも無いが、勉強てえのは人それぞれだ。
それで、覚えられるってんなら、いいんじゃねえかと思いもする。

試験の前日にでもなりゃ、廊下を教本読みながら歩いてやがったり、授業受けながら試験用の単語帳をせっせと書いてやがったり、弁当食いながら何か思い出したのか、急に教本を開く奴らが増殖する。

学院がある種の緊張感に包まれる時だ。
院生どもは、試験という同じ目前の目標に向かって、それぞれ努力する。


・・・俺は結構この緊張感が好きだ。

普段はバラバラだが、同じ目標に向かって切磋琢磨するのは嫌いじゃねえ。
まあ、全部がライバルになるわけだから、そんな悠長なことは言ってられねえのかもしれねえが。

「おお!日番谷君!試験への調子はどうかな?」
声をかけてきたのは、学年主任だ。
厳格だが何気にこいつは特定の院生を贔屓するタチだ。
俺は正直気に入らねえ。

「・・・普通です。」
「そうかね。今度の試験ももし君が1番だったら、真っ先に私が教えてあげるから、今回も頑張りなさい。いいね?」

・・そうなんだ。こいつは前回の試験の結果をまだ発表されても無い段階で、俺だけにこっそり教えるという「厚意」をかましやがった。
・・要らねえ。

「いいっスよ。別に教えてくれなくとも。
張り出された順位を見る楽しみが無くなるし。
大体、事前に教えるのは駄目なんじゃないんスか?」

やんわり断ったつもりなんだが、どうやら失敗したらしい。

「だから、秘密で教えてあげているんじゃないかね。」
恩着せがましく言いやがって。
「いいっスよ。順位を先に知ろうが後で知ろうが、順位そのものが変わるわけじゃ無いんスから。
何も、知られて先生が困るようなことする必要はありませんよ。じゃ。」

まだ何か言いたそうなオヤジを残してさっさとその場を去った。

最初はガキだと思って高圧的に抑え込もうとする。
次に抑えきれないということに気付き始めてあたふたする。
「天才」だと解った途端、掌を返した様に、下手に出て取り入ろうとする。

世の中にはああいうオヤジが居るのも、承知はしてるが、学年主任をやってるのかと思うと、こっちもため息が出ちまうな。

俺は「天才」という奴らしい。
自分でも記憶力はいい方だと思う。
教本を一度読めば大体そのまま頭に入る。

だが、それだけじゃ意味がねえ。
その頭の中のモンをどう使うか。使いこなせてるか試されるのが試験だと思う。
学院に入る前は、勉強なんざやったことは一度も無い。
学院に入って色々な知識があることを知った。

知らねえ事を知ることは俺に取っちゃ、今までやったことのない遊びに近かった。
それに俺はただでさえガキだ。周りを黙らせるには、結果を出すしか無かったってのもある。

試験はガキだろうが、オッサンだろうが同じ条件で受けられる。
だから、俺は試験はそんなに嫌いじゃねえ。

記憶力がよかろうが、それだけでいい点を取れる訳でも無え。
周りからは試験時期になっても、ガツガツ勉強しねえ、流石は天才。とかなんとか言われてるらしいが、結構ふだんから俺はちゃんと勉強してんだぜ?
お前らが見てねえだけだ。
エリートの卵たちの集まりの霊術院だ。そこで1番になるにはそれなりの努力をしねえとなれねえだろ、普通。


「試験開始まであと5分だ」
試験官の呼びかけとともに、一気に教室内は緊張感で一杯になる。
何やら祈る奴、相変わらずごろ合わせをブツブツ言う奴。必死で教本をまだめくる奴。

・・確かにこいつらは俺の競争相手になるわけだが・・・試験と戦う仲間でもある。


俺はこの時間になると、何も出さない。
覚えるべきものは覚えてるからってものあるが、心を平常にする時間でもあるからだ。
心が落ち着けば、周りが見えてくる。

そんな緊張すんなよ、何も試験用紙が襲ってくるわけじゃなし。
体調だのなんだの、色々人によって状態はさまざまだろう。
万全の状況じゃねえ奴もいるはずだ。

今の全部を出せよ。
一番悔しいのは、力を全部出せねえことだろ?
そんで、結果ってのは結果でしかねえ。
よけりゃ、そのまま突っ走ればいいし、悪きゃ次で挽回できる。
そういうもんだろ?試験てのは。

院生という以上は、この試験て奴とは付き合って行かなきゃなんねえんだからな。
イヤなら、早く卒業して死神になるしかねえ。


「試験開始!」
掛け声とともに、一斉に裏返されていた試験用紙が表になる。

さて、今の俺を試してみるか。
お前らも頑張れよ?

あ、主席は譲らねえから。



・・・・・何だよ、


悪かったな、負けず嫌いで。



文句があるならハッキリ言え。






なんちゃって。

 

 

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