獅子身中に虫を飼う(平子真子)
惣右介を見て最初に思うたことがある。
一つ目は、『ああ・・コイツ・・いずれは隊長に上がってきよるな。』
二つ目は・・・
『ワルの癖して、こらまたえらいエエ人の皮被りおって、このタヌキが。見えてんねん。こっちには。』
その頃にはまだ惣右介は、メガネ掛けてなかったんちゃうかな。
確か、オレに引っ張られて副官に収まってくらいから、あのごっついメガネかけはじめたんちゃうやろか。
五番隊の隊長にオレが上がる際、副官の候補っちゅうんで惣右介の名前があった。
まあ、他にも何人かおったんやけど、惣右介の評価はピカイチや。推す人数が一人しかおらんかったら恰好がつかへんから、とりあえず数だけ揃えときました〜〜がミエミエやった。
調査書類の中は、惣右介は年の割に何でも如才のうこなして、性格は温厚で協調性があって人まとめるんも上手い。
鬼道も剣の腕も穴は無い。
文句なし!完璧!!てな、カンジやったかな。
・・・完璧、・・・完璧やと?
世の中に完璧な奴なんかおらへんのじゃ、ボケ。
そんで見に行った時のオレの感想はもう言うたやろ?
大した皮の被りようや。そら、こんだけ被ってたらフツー、他のモンには解らんやろな。
けど・・オレにそれは通用せえへんで?
視線を感じたんやろ、惣右介が俺の方を見た。感情の揺れはほんのちょっとや。直ぐに何の用かは察してるはずや。驚くフリやわざわざすんな、ウソくさいんじゃ。そんでこっちに向けて軽く会釈してきた。
・・・決めた。
俺はここで二つのことを決めたんや。
一つ目は、惣右介を副官にすること。
二つ目は、惣右介の化けの皮剥がしたること。
・・惣右介は周りをナメてる節があったからな。
自分の事はどうせバレへん。そう思てるはずや。
・・世の中そう甘もないで?惣右介。
そんで、オレはそのまま惣右介に近寄って話しかけたんや。
「おっはようさん!ジブン藍染惣右介やろ?オレは平子真子言うねん。あ、今度五番隊の隊長すんねんで?よろしくしたってな〜。」
隊長らしない挨拶に、流石にちょっと惣右介も驚いたか?目がちょっと大きゅうなったで?
エエ感じや。てい、周りの奴はドン引きしてんやけど。
そない引かんでもエエやんけ。ただの挨拶なんやし。
「そんで今オレのツレになってくれるヤツ探してんのやけど、ジブンなってくれへんかな〜て思うて。」
「・・・・・・・・・。」沈黙が流れた。周りの奴等は凍ってるし。
そらそやろ。副官はフツー、まずそいつの所属しとる隊の隊長から内示があって、本人の希望を一応聞いて、そんでええよ、ってことになったら返事聞いた隊長が、そいつ希望しとる隊長に話しつける言うんが、フツーの流れや。
いきなり隊長が本人に直接話つけたりは、まあせえへんやろからなあ。
そやけど、面倒くさいやんけ、そないなこと。わざわざ時間かけるんアホらしいし。
「・・・・・・・・・・・・
・・・・・平子隊長の仰ってるツレというものが副官を指して仰っておられるのなら、ありがたくお受けいたします。」
おお、即答か。しっかし面白ろない返事やな。もっと『ツレってなんやねん!ツレって!』とか、『何で初めて会うたヤツのツレにならんといかんねん』とか、もっとツッコむところあるやろが。
ホンマに如才なさ過ぎで面白ろないわ。
・・やっぱしな。上に上がる気はマンマンや。
「おおそうか!ありがとな!
ほな、今から一緒に呑みにいこか!」
「ダメです。」
「何でやねん。惣右介はオレのツレなんやし、エエやろ?」
「今はまだ違います。僕はまだあなたの副官に正式になった訳ではありません。
正当な手続きも踏まずにあなたの副官としては、動けませんので。
それまでは、ここの隊員として職務を行う義務があります。」
「なんや、ソレ〜〜。硬いやっちゃな〜〜。」
「当然のことを言ったまでです。」
「・・・せっかく、酔いつぶしてオマエの化けの皮何枚か剥がしたろて、思てたのに。」
小声でつぶやくと途端に、表情変えないままこちらを探るように目を合わせてくる。
「・・・何の事を仰ってるのか解らないのですが。」
流石にこの程度じゃ、皮は脱がへんか。
今でさえこの程度や。
もっと実力つけてきたら裏で何するかわからんで?この手のタイプは。
惣右介が副官としてオレんちに来た時、あのメガネつけてきよった。
「なんや?それ。オマエ目ェ悪るないやろ。」
「ちょっとした気分転換ですよ。今日から副隊長として自覚をつけるちょっとした僕なりの区切りです。」
「けったいな区切りつけよって。メガネやしたら、タヌキみたいやで?どうせやったら、頭丸刈りにするくらいの気合い見せんかい。」
「それはお断りします。・・ところで一つ質問があるのですが、よろしいでしょうか。」
惣右介が改まって聞いてきた。内容は大体は予想が付く。
「オマエみたいな、真性包茎みたいに化けの皮何枚もガッツリ被っとるような、性格がひんまがってて最悪に腹黒なヤツ、下につけとけるんはオレくらいなもんや。
そやから、オマエを副官にした。
・・・これで質問の回答になるか?」
「・・・・理解出来ません。何故僕が腹黒になるんですか?」
「そのまんまやんけ。」「僕はあなたに対して腹黒いと思われるようなことをした覚えがないのですが。」
「無いけど解んねん。
ホンマのワルいうんは、普段はエエ人の皮被っとくもんや。バレへんようにな。
オマエの被り方は半端やない。そこまで被るいうんは、何や企んでる奴のやることや。」
「あなたの様にですか?」切り返しおった。
「なんでオレがワルやねん。
こない天使みたいな心真っ白なヤツに向って何言うねん。」
・・ホンマに危ない奴は離したらあかん。
離したら裏で何するかわからんからな。
傍で見とくのが一番や。
そやけどいずれは、こいつも隊長になるやろ。
そン時が怖いわ。
けど、オレの下でおる時はさせへんで?
まあ、オレも獅子身中の虫にならへんように、気ィつけとかな、あかんなァ。
・・・あ、違た。虫やない。タヌキやった。
なんちゃって。