存在の証明(ウルキオラ・シファー)
俺の眼は特殊だ。
そういう風に作られた。
この眼は、通常人間が見える可視光線はおろか、不可視の光線までこの眼に捉える事が出来る。それだけではない目に通常ならば速過ぎて捉えられないような超高速で動く物体も、何千何百光年離れた星ですらも含めてだ。
そして、それを同時に目に記憶しておくことができる。
この眼に映るのは隠しようもない事実だ。
存在するもの、全てがこの眼には映る。
眼に見えぬものは存在せぬもの。
この眼に映るものだけがすべてなのだ。
・・だが・・・
この俺の眼で映らぬもので、存在するというものがあるのだと言う。
人間ならば、恐らく誰しも”在る”というものだ。
心。
俺の眼に見えぬもの。そして人間すらそれを目にすることは出来まい。
だが、在るのだという。それがさも当然であるというように。
・・眼に出来ぬのに、存在することが当然だと・・?
馬鹿げているとは思わないか。
有るというのなら、俺に見せてみる事だ。
だが、人間にそれは不可能だ。だが”在る”と断言する。
頑なに。意固地に。
目に見えぬものなどゴミ以下だ。
そしてそんなものを信じる、人間も塵と等しい存在だ。
井上織姫。
あの女もその心とやらを信じていた。
死を目の前にしているというのに、心が仲間と供にあるといって、恐怖を感じないのだという。
心が仲間と供にあるだと?
俺はお前をずっとこの眼で見てきた。
お前の中から何か物体が移動した形跡は無い。それは確かだ。
だが、お前は心は仲間と供にあると言い。さもお前の中からはもう移ってしまったかのように言う。
静かな眼で俺を見ながら。
今迄、俺を直視することなど出来なかったこの女が。
今は、もう何も怖くないとでも言うように、静かな眼でこの俺を見る。
気丈な女だと言う事は知っていた。
だが、それでも俺を直視出来なかったこの女が、死を前にしてこの俺と静かに対峙している。
それをさせているのが、その「心」というものなのか?
その心とやらが、恐怖を捨てさせ、この女にさらなる強さを与えているというのか?
心とは何だ。
この期に及んで、この女にこれほどの力を与える心とは。
何故お前達人間は、目に見えぬものを信じ、そして強くなれる?
・・女、俺に視せてみろ。
心とやらを。
それほどまでに言うのなら、この俺に示してみろ。
心とやらは何処にある?
お前の身の内に秘めているのか?
ではその胸を引き裂けばその中に視えるのか?その頭蓋を砕けばその中に視えるのか?
証明しろ、・・女。
お前の心の存在を。
そうすれば、認めてやろう。
心とやらの存在を。
・・この俺には無い存在を。
なんちゃって。