脛かじり(市丸ギン)

9月10日のことだった。

「ハイ。藍染隊長。」
随分成長したが、未だ頭一つ分は藍染に届かないギンが、藍染の目の前に両の掌を差し出した。
掌を揃えた姿は、はいどうぞ、と何かを差し出しているように見えなくもないが、手の上は空だ。

「・・・何かな?この手は。」
藍染から当然の質問が飛んだ。
すると拗ねたように口を尖らしながらギンが言う。
「イヤやわあ、今日はボクの誕生日ですよ?可愛い副官の誕生日なんやから、なんかくれてもエエやありませんか。」

「お前の誕生日は覚えているが、お前が誕生日プレゼントを催促するほど可愛らしい性格をしていたとは知らなかったかな。」
「こないな可愛い副官つかまえて、知らんかったですか?
ホンマいけずなお人やなあ。」
「困った子だ。
・・で?具体的に欲しいものでもあるのかな?」

ギンがあまり物に執着するタイプではない事を藍染は知っている。
もっとも執着しているものがあるとすれば、干し柿だろう。
秋になれば渋柿をどこからか調達してきて、自分で吊るして干し柿を作っている。

わざわざおねだりするという事は、具体的に欲しいものでもあるのだろうか。
可能性のあるものを思い浮かべながらの藍染の問いに、ギンは意外な答えを出した。

「いいや?別になんも無いんですけど。」

「何も無いのに、おねだりかい?
また随分と子供のような真似をする。」
クスリと笑って揶揄する。
「そや。そやかてボクまだ子供やもん。」
これまた堂々とした返答だ。

「そやから、まだ誰かの脛かじらなアカンのですわ。藍染隊長。」
「・・成程。」

ギンは流魂街で相当不遇の境遇におかれていたようだ。
幼いギンを庇護する者は誰もおらず、ギンは厳しい現実に一人で生き抜いていた。
言動は一見人懐っこいものがあるが、その実全く心を許していない。

だが藍染には、時折このような我がままを言う。
藍染を“大人”として認めているからだろう。
自分が甘えられる度量のある者だとある意味認めていると言える。

「では、とりあえず何か食べに行こうか。何が食べたい?」
「寿司。カウンターで。」←高い

遠慮も何も無い。
そこがギンらしいとも言える。

「成程。では行こうか。」


その夜、五番隊の隊長と副隊長が鮨屋に入って行く所が目撃されている。



『・・なァ、大人いうんは、いつも子供に「エエ子にならんとアカンで?」て言うやろ?

ボク、あれ言われるん、嫌いなんや。

そやかてボク、悪い子やもん。
ホンマもんの悪い子いうんは、どないなってもエエ子にはならへん。
エエ子のフリやったら出来るけど。

あのお人はボクに、そないな事は絶対言わへんのや。
そやかてあのお人自体がホンマもんの悪なんやから。
あの人の傍は居心地がエエ。
自分を偽らんでもエエんやもん。

ボクがホンマに甘えられるお人や。


いずれはボクもどっかの隊長せなあかんから、何時までも下で居るいうわけにはいかんのやろなァ。


そやから、それまであの人の脛かじったるんや。
ボクが齧っても大丈夫な脛しとるんは、あのお人くらいやし。

今日はボクの誕生日や。
今日脛かじらんで、何時齧るん?

なァ、藍染隊長?』




なんちゃって。

 

 

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